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第55話:赤くて速いやつはだいたい強い

 作戦開始。ユイの射撃が王都軍の後方、魔法部隊を襲う。続いてムルと地底民たちが詠唱を終えた。


「沈め、石の底へ」


 ムルの発声に合わせて地底民たちが魔力を放つ。放たれた魔力は相手の先鋒隊の足元に広がり、一瞬にして彼らの腰から下を地中に引きずり込んだ。

 重い鎧を纏っていた彼らは避けることも這い上がることも出来ない。されるがままに身動きを封じられ、強烈な継続ダメージであっという間に体力バーを削られていく。


「相変わらずとんでもない火力……ってか、上がってる?」


 シマノは眼前の光景におののきつつ思案する。他の地底民たちの助力はあるにしても、ムルの火力は以前より向上しているように見える。上級職になったからだろうか。

 この「沈め、石の底へ」の術も、「石とともに地に伏すがよい」を強化した上級術なのかもしれない。


 これならキャンが出るまでもないのでは、とシマノが気を緩めていると、身動きの取れない先鋒隊の間を掻い潜り、ひときわの跳躍を見せ、一人の兵士がシマノたちの前に躍り出た。


 赤。その兵士も全身に鎧を身に着けていたが、他とは異なりその鎧は鮮やかな橙赤色に染められている。そして、他の兵士たちと比べると、その身のこなしは圧倒的に軽快だった。


 赤い鎧は、勇者キャンの前に立ち、腰の左右に差した鞘から剣を抜いた。どちらも同じぐらいの長さで刀身は細身、その刃はどちらも同じく緩やかに湾曲している。

 その二本の剣を、右は上段に、左は中段に構えた。どこをどう見ても他の鎧たちより強そうだ。


 いくらキャンが上級職になったとはいえ、こいつと一対一で戦うのは危険かもしれない。シマノは念のためスワップの用意をしながら、キャンに一声かけておこうとした。


 その隣で、ユイが先にキャンの名を呼ぶ。


「キャン、これを」


 そう言ってユイが何かを放り投げた。キャンがそれを受け止める――指輪だ。金色の指輪がキャンの手にすっぽりと収まっていた。

 そういえば王都へ行くときに奪い取ってからすっかり返すのを忘れていた。ユイに呆れられるのではとシマノが横目で顔色を窺うと、ユイはいつもの事と言わんばかりに完全スルーだった。


「それはそれで傷つくなー……」


 溜息を吐きつつ、シマノはウインドウでスワップの画面を表示したままキャンの様子を見守ることにする。


「おーっ、オレの指輪じゃん! 早速装備だぜ!」


 キャンはユイから渡された指輪を左手の人差し指に嵌めた。ステータスが向上し、全身がほんのり発光する。光の効果で周囲の暗さが若干軽減された。


 シマノは思う。見るの二回目だけど、やっぱりちょっと面白いな。というか、ここみたいに暗いところで見た方がより光ってて面白い。


 シマノが込み上げる笑いを噛み殺している間、キャンは先程手に入れたばかりの聖剣を抜き放った。

 試練の神殿で初めて手にした時と同様に、聖剣はその辺に落ちている棒切れなどとまるで変わらない、驚きの軽さだ。


 二、三、キャンは聖剣を左右に振ってから真っ直ぐ両手で構える。相手は二刀流だ。鎧を着ながらでも軽々と動ける、相当の手練れと見込まれる。

 キャンは短く一つ息を吐き、剣を握る手に力を込めた。


 その剣が、光りだした。


 正確に言えば、キャンの全身から発せられていた光が、聖剣に集約されているのだ。身体の代わりに、剣が発光している。

 しかも、全身分の光が集まったせいか、これまでよりもっと眩しい。まさに文字通り光の聖剣というわけだ。

 さすがに笑いをこらえきれなくなったシマノは吹き出し、俯いて肩を震わせる破目に陥った。もちろんキャンはそんなことになど気づいていない。


「うおー何だこれー!? よくわかんねーけど、カッコイイぜ!」


 キャンは目を輝かせ尻尾をブンブン振り回している。分かりやすいやつだ。


 何とか持ち直したシマノは、念のためウインドウでキャンのステータスを確認する。見かけの変化こそあったものの、ステータス上は全身が光っているときと変わりはないようだ。


「あの剣、たいまつ代わりに使えそうだな」

「……シマノ、戦闘に集中」


 関係ないことを考えていたらユイに叱られてしまった。ごめんと謝り、改めて赤い鎧と対峙するキャンを見守っていく。


「よっし、まずはセンテヒッショーだ!」


 何か作戦があるのか、はたまた考えなしなのか、キャンは相手の出方を待たずに勢いよく駆け出した。

 それを見ていたセクィが苛立たし気に踵を踏み鳴らす。


「バカガキ、早まるんじゃないよ!」


 セクィが新たに召喚した小蜘蛛たちが、赤い鎧の兵士を遠巻きに囲み一斉に糸を吐き出した。

 赤い鎧は素早く跳び、包囲攻撃を簡単に回避する。だがその先には、聖剣を構えたキャンがいる。


「ナイス蜘蛛おねーさん! 行くぜ~!」


 キャンの聖剣がひときわ強く輝いた。


タグリオ・ルチカ・(輝く勇者専用!)シンティッリーオ( 極光回転斬)!」


 勇者キャンはその場で強烈な回転斬りをお見舞いした。光を纏ったその斬撃は正確に赤い鎧の腹部を捉える。


 ところが、キャンの手には鎧とは違う手応えが伝わってきた。キィン、と鋭い金属同士の擦れ合う音が耳を刺す。


 赤い鎧が、二本の剣でキャンの必殺技を受け止めたのだ。


「うわぁっ!?」


 受け止められただけでなくそのまま攻撃をいなされ、バランスを崩したキャンは大きくよろめいた。

 赤い鎧はその隙を逃さない。緩く湾曲した二本の刃が勇者を襲う。


「フン、させないわよ」


 小蜘蛛たちが糸を吐き、赤い鎧の腕や足に絡みついて動きを鈍らせる。さらに、キャンの前に大量の糸を吐き出して壁を作り、斬撃を受け止める盾となった。


 しかし赤い鎧は動じない。身体を勢いよく回転させ、絡みついていた糸を即座に断ち切ると、キャンの前に生成された糸の壁をバラバラに切り刻んだ。

 セクィの蜘蛛たちの攻撃は、ほんの数秒のうちに全て破られてしまったのだ。


 とはいえ、その数秒のおかげでキャンは体勢を立て直すことができた。


「助かったぜー。サンキューおねーさん!」

「ホラホラ、よそ見してないでさっさと倒しておしまい!」

「オッケー!」


 そんな二人のやり取りを見ていたシマノの脳裏にふとある考えが浮かぶ。


「もしかしてこの二人、結構馬が合うんじゃ……?」


 キャンの危なっかしいところをセクィがそつなくフォローしてくれている。何だかんだで共闘の相性は良さそうだ。


 バルバルといいセクィといい、キャンは癖のある人物とも打ち解けやすいタイプのようだ。子ども特有の無邪気さか、あるいは勇者としての人望のようなものか。

 どちらかといえば人と打ち解けるのに時間がかかりがちなシマノには、キャンのような存在はとても眩しく見える。


「……って、余計なこと考えてる場合じゃないよな」


 またユイに叱られてしまう前に、シマノは戦闘に集中した。

 スワップは今のところ必要なさそうだが、あまりこの赤い鎧戦に時間をかけすぎるのも良くない。ユイの射撃エネルギーも、ムルたちの魔力も、決して無限ではないのだ。


 セクィのフォローを受けながら、キャンは赤い鎧と対等に斬り結んでいた。

 舞うような身のこなしと二つの刃から繰り出される多彩な攻撃に苦しめられはしているものの、小蜘蛛たちの活躍によって何とか致命傷を避けつつ有効な攻撃を何回か当てることが出来ている。


 それを見て安心したシマノは、地中に埋まっている先鋒隊の方に目を遣った。先鋒隊の体力は大きく削られ、全員瀕死に近い状態だった。


「我らの術も間もなく切れる。仕上げにかかるぞ」


 ムルの号令で、地底民たちがさらに魔力を込めていく。このまま先鋒隊を仕留める算段らしい。

 であれば、キャンたちの方の戦闘もそろそろケリを付けてもらった方がいいだろう。


 ちなみにユイは、とシマノが隣に視線を送ると、問題ないとばかりに力強い頷きが返ってきた。ユイは定期的に射出機を送り、後方の魔法部隊に生かさず殺さずの攻撃を続けている。


 なら問題ないだろう、と判断したシマノは、前方で戦うキャンたちに声をかける。


「キャン、セクィ! そろそろ終わらせてくれ!」

「わかったぜシマノ!」

「だからアタシに指図するんじゃないよ!」


 キャンが剣を握る手に力を込める。赤い鎧も再び上段と中段の構えを取った。

 先に動いたのは赤い鎧だ。おおよそ鎧を身に纏っているとは思えない、流麗な舞のような動きでキャンに迫る。


 すぐさまセクィが踵を鳴らす。新たに召喚された小蜘蛛たちが赤い鎧を妨害しようと糸を吐き、体当たりをするが、どれも軽やかに躱されてしまった。


 だが、勇者は動じない。間合いを計り、赤い鎧の斬撃をあと少しで喰らいそうになるまさにその瞬間。


「スワップ!」


 シマノがウインドウをタップした。必殺技の使用で消耗したキャンの魔力と、ゼノ幹部特有の無尽蔵なセクィの魔力が入れ替わる。勇者の聖剣が、これまでで最も強い光を発した。


「くらえぇっ! ソル・ルチカ・(眩しい! 強い!)リヴェ( 超キラキラ)ルベロ(最強必殺攻撃)!」


 その必殺攻撃は赤い鎧の斬撃を受け止め、押し返し、その兜を勢いよく撥ね上げた。


「っ……!」


 赤い鎧の素顔が明らかになる。短い黒毛に覆われた頭部。その上部にピクピクと動く三角の耳。金色の瞳に縦長瞳孔。髭。特徴的なマズル。


「……ネコ?」


 鎧の下から顔を現したのは、黒猫の獣人だった。

今回の好きなゲーム【スターフォックス アサルト】

実は初めてのスターフォックス

いろんな戦い方が出来て難しかったけど楽しかった

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