第32話-2:操師ティロ
「バカだなぁ。ボクは初めからここにいるのに」
声は、シマノたちの背後から響いた。慌てて振り返るが、そこにあるのは廃屋だ。まさか、実はずっと廃屋の中に潜んでいたとでもいうのだろうか。だとしても、今HPバーが見えないのは妙だ。
「ここだよ」
「! 姫様、上です!」
ウティリスが廃屋の屋根を指差している。シマノもその指の先に目を向けると、屋根の上に一人の少年が立っていた。
白い高級そうなローブを纏い、腰には細剣を差している。淡く柔らかそうな水色の髪が日光に煌めく。
そしてその瞳は、姫様と同じ金色だ。
「!! お前は……まさか……!!」
少年の姿を見た姫様が激しく動揺している。少年はニッコリ微笑んだ。
「初めまして、ねえさま。ボクは操師ティロ」
そう言うと少年はトン、と屋根を蹴り軽々と地面に下りた。そのまま悠々と歩き、ムルの背後に立つ。その背丈はムルとほぼ同じぐらいだ。
そしてその頭上には、HPバーがない。ゼノの幹部クラスだ。
「この子はボクのお人形さ。可愛いだろ?」
「ふざけんなチビ! ムルは人形じゃねー!」
猛然と反駁するキャンに対し、ティロはやれやれと溜息を吐いている。
「キミの方がチビだろ? 背丈だけじゃなく頭も足りないのか?」
「くっそおおおお!!」
思いきり煽られて頭に血が上ったのか、キャンは怒りに任せて走り出し、凄まじい勢いでティロに突撃していく。
「待てっキャン! そいつは……」
キャンの怒りは尤もだ。が、さすがにゼノの幹部相手では分が悪すぎる。しかしもちろんシマノの制止が怒り心頭のキャンに届くことはなかった。
ティロはその様子を冷めた目で見ると、ムルの耳元に小さく語りかけた。
「やれ」
ちょうど詠唱を終えたムルが、術を発動する。
「――石とともに地に伏すがよい」
大地が裂け、キャンを、それだけでなくシマノたちまでも呑み込もうとする。
「これはまずいっ! キャン戻れ!」
シマノは必死でキャンの元に駆け寄ろうとするが、凡人の脚力では到底追いつくことなどできない。しかもムルの術で地面が揺れ、立っているだけで精一杯だ。
大地の裂け目がキャンの足を捉えた。キャンは焦って飛び出そうとするものの、ムルの大技の前に為すすべなくあっという間に身体が地中へと引きずり込まれていく。
「うわあああっ!!」
悲鳴を上げ、懸命にもがくキャンの姿に少年は笑いが止まらないようだ。
「あっはははは! いいねぇ、キミ。元仲間の手で嬲り殺される気持ちはどうだい?」
ティロの傲慢な態度にシマノは歯噛みする。このままではまずい。何とかしてムルもキャンも助けなくては。
しかも大地の裂け目はもうシマノのすぐ足元まで迫っている。姫様もウティリスも、全員呑まれてしまうのも時間の問題だ。
「……姫様に仇為す愚か者めが」
背後から何かとんでもない怒気が伝わってきた、とシマノが思った次の瞬間。
気合の発声とともに大地を叩く轟音が響き渡り、足元まで迫っていた裂け目は逆に隆起し、畝となってキャンを地中から弾き飛ばした。
それだけでは止まらず、大地の隆起は勢いそのままにティロたち目掛けて襲い掛かる。
「くっ……小癪な……!」
ティロは間一髪で直撃を免れたようだが、ムルは躱しきれず突き飛ばされ、地面に激しく打ち付けられてしまった。
「ムル!」
ムルはぐったりと横たわり、頭上にあったはずのHP・MPバーが消えている。シマノは動揺し震える手でステータス画面を呼び出した。
ムルのMPはほぼ尽きかけていたが、HPはまだ残っている。操り人形のようなマークは消えており、代わりに気絶のマークが表示されていた。
どうやら気絶に陥ったことで、操りの状態異常が上書きされたようだ。つまり今なら、ムルを助けられる。
「そうはさせないよ」
ティロが何やら短い呪文を詠唱した。するとムルの身体が赤いオーラのようなもので覆われ、空中に浮かび上がった。
「おいで。ボクの可愛いお人形」
吸い寄せられるように、意識を失ったムルの身体はティロの頭上へと運ばれていった。
同時に、ティロの足元には魔法陣が展開される。恐らくどこかへ転移する気だろう。
「ムルを返せ!」
無駄だとは思いつつ、とりあえず声をかけることで時間を稼ごうとシマノは試みる。うまくいけば、ユイとニニィが戻ってくるかもしれない。
「五月蠅いなぁ……そうだ。ねえさま、『屍の峡谷』に来てよ。ボクとこの子で遊んであげる」
「……ティロ、お前は」
姫様の言いかけた言葉を最後まで聞くこともなく、待ってるね、と笑顔で言い残すと、ティロはムルとともに魔法陣の中に消えてしまった。
***
「大変なことになったぞ……」
シマノは頭を抱えつつ、何とか状況を整理する。
ムルはティロという少年――恐らくはゼノ幹部の――に操られ、屍の峡谷という地に連れ去られてしまった。
ユイとニニィはまだファブリカから戻っていない。キャンは地中から弾き飛ばされ気を失っているが、持ち前の回復力でそのうち目を覚ますだろう。
ウティリスは強い。さすが素手で熊を裂くというだけある。
そして、姫様。ティロは姫様のことを「ねえさま」と呼び、姫様もそれに心当たりがあるような様子だった。
さらに、ティロの瞳――髪の色こそ異なれど、金色の瞳は王家の証に他ならない。
「姫様、さっきのティロってやつ、ねえさまって……」
姫様は俯き、シマノと目線を合わせないまま呟くように答えた。
「あれはわたくしの、異母弟ですわ」
今回の好きなゲーム【スーパーマリオサンシャイン】
面白いし大好きなんだけど難しすぎない?? 当時クリアできなくて、Switchの3Dコレクションで何とかクリア 赤コインコンプリートは諦めた




