第31話-2:魔王討伐のモチベが爆上がった
「シュン! シュンシュン! うおおお! 速いぜ!」
廃村で暇を持て余しているキャンは、新技の開発に夢中なようだ。今は、移動速度を向上させる技を思いついたらしく、狭い廃屋の中を縦横無尽に駆け回っている。
それに対し外でやれよ、と思いながらその姿を視界に捉えたり捉えなかったりしつつ、シマノはベッドの上でだらけていた。
「シュンシュンシュン! 見よ! 必殺! 超速電光爆裂石火~~~~!!」
目にもとまらぬ速さで移動している(つもりの)キャンがまたしてもシマノの視界の片隅に映った、と思ったその瞬間、壁面にびっしりと並んだ書物が一斉に崩れ落ちた。キャンが壁に激突したのだ。
「うっうわああああああ!!」
バサバサと音を立て、次々と本が落下していく。床に積みあがっていた本も崩れだし、部屋の中は一瞬でおびただしい本と埃で埋め尽くされてしまった。
「痛ぁ……だから外でやれって……」
何冊かの本の角が頭やら顔やらに直撃し、鈍痛に患部をさすりながらシマノが起き上がった。その目が、ある一点に留まる。
「……あれは」
本といえば。そう、知の街サピで見つけたあの本。黒い本である。落下した大量の本の中に、あの何も書かれていない真っ黒なだけの表紙を持つものが紛れ込んでいたのだ。
前回はそれに触れたことで現代日本にいた頃の記憶――IT系の社畜――が蘇った。今回も、また別の記憶が蘇るかもしれない。
隣の部屋から足音が聞こえる。姫様たちだ。たしか、姫様に話しかけることで次のイベントが始まってしまうはず。そうなる前に、さっさとこの本に触れておかなくては。
急いで伸ばした手の先に黒い本が触れ、シマノの脳内に再び短い映像が流れ込んできた。
***
前回とは異なり、明るい雰囲気だ。家のリビングだろうか? シマノは誰かと並んで座ってテレビゲームで遊んでいるようだ。
『あーっ、また落ちちゃった。もー、なんでこんなとこに池があるのー?』
『あははっ、ここは初見だと絶対引っかかるんだよなー』
シマノの隣にいるのは女の子のようだ。さらにテレビをよく見ると、なんと二人が遊んでいるのは今シマノがいるアルカナの「ラケルタの森」だった。
『わっ、敵だ! お兄ちゃんどうしよう!』
『リザードマンだな。大丈夫、こいつらはそんなに強くないから。カナミのスキルを使って……』
***
映像は、ここで終わっていた。
「……お兄ちゃん?」
映像の中で、女の子は確かにそう言っていた。つまり。
「妹!?」
なんとシマノには妹がいたらしい。残念ながら背後からの映像なので顔は見えなかったが、少なくとも声は可愛かった。と思う。
「俺、一緒にゲームで遊べる可愛い妹がいたの!?」
そうであれば、こんなことをしている場合ではない。一刻も早くこのゲームをクリアし、この世界を脱出し、可愛い妹の元に帰らなくては。
前回の記憶「IT系の社畜」で低下した魔王討伐のモチベーションが、今回の記憶「可愛い妹」で急激に復活した。
「よっしゃー、来い姫様! どんどんストーリー進めるぞ! あっ、でもその前にこの本の中身はチェックしときたい」
シマノは黒い本を手元に引き寄せて開いたものの、焦ってうまくページを捲ることができない。そして、そうこうしているうちに姫様とウティリスが部屋に来てしまったのであった。
***
「エトル様! よろしかったんです? あんな、小娘どもに情報を与えるような……!」
ニニィたちが去った後のアジトでは、エトルの態度の甘さに対し、セクィがもう耐えられないといった様子で懸命に訴えかけていた。
「これで良いのです、セクィ。彼女の情報盗みは、魔王様にとって本当に有用なものかもしれません。彼女にはもっと、もっと強くなっていただかなくては」
「でも……」
まだまだ物言いたげなセクィに、エトルは穏やかな声で語りかける。
「そのためにも、今は貴女の蜘蛛たちの力が必要です。引き続き、彼女たちの監視を。期待していますよ、セクィ」
「はい、エトル様っ……!」
エトルに頼られ、セクィは恍惚とした表情を浮かべている。その様子を横目に、少年はやれやれと肩を竦めた。
「で、ユイって子の記憶はどうだった?」
「ユイの記憶は、探っても全く手応えがありませんでした。まるで、この世界ではないどこかに置かれているような……」
「ふーん、この世界ではないどこか、ね。面白そうだ」
エトルの突拍子もない発想に戸惑うことなく、少年は思索している。
「そうそう、貴方に一つお願いしたいことがあるのですが」
「いいよ、何?」
エトルは少年の耳元で指示を与える。それを聞いた少年が承諾するのを見届けて、エトルは一人アジトから姿をくらました。
今回の好きなゲーム【ゼルダの伝説 神々のトライフォース】
実はだいぶ後の方になってから遊んだ作品 カメイワしんどすぎる
闇の世界BGMがかっこよくて好き オカリナ少年が忘れられない




