第29話-1:「八つ裂きを受け入れますか?」 はい/いいえ
「覚悟はいいな?」
はちきれんばかりの筋肉を紅潮させ、従者ウティリスは真っ直ぐシマノに狙いを定めた。と同時に、シマノの眼前には「八つ裂きを受け入れますか?」の選択肢ウインドウが出現する。
「ええええなんで俺ぇ!?」
理不尽すぎるウインドウを即閉じながら、無礼を働いたムルでもキャンでもなくまさかの自分に飛び火したことにシマノは焦りを覚えた。
「愚問だな。だいたい貴様のせいだろう。他に理由が必要か?」
「雑っ!!」
こんな理由でヘイトを向けられてはたまらない。度々浮上してくる「八つ裂きを受け入れますか?」のウインドウを秒で閉じながら、果たしてどうこの場を切り抜けたものかとシマノは思案する。
「オレ、ムルのこと見てくるっ!」
獣の嗅覚で危険を察知したのか、キャンが早々に場を離れていった。無礼を働いた張本人たちがいなくなったため、シマノは最早ヘイトを逸らすこともできない。
涙目で従者と対峙していると、見かねた姫様が助け船を出してくれた。
「おやめ、ウティリス。地底の民が協力しないと言うのなら、わたくしたちはその言葉を受け入れるべきですわ」
「しかし、姫様……」
「シマノ。あなたたちが追われる身になったこと、わたくしにも責任があります。ファブリカに行きたいのなら、この指輪をお使いなさい」
にもじゃなくて完全にそちらの責任だろうと思いつつも、シマノは従者を止めてくれた姫様に感謝し、たった今姫様の指から外されたばかりの金色に輝く指輪を受け取った。
「これって……」
地底での姫様の言動を思い返す。確かこれ、ワープ機能付きの指輪じゃなかったか? 庶民にホイホイ渡していいとは思えない、どう見ても国宝級のアイテムだが、本当にいいのだろうか?
「ひ、姫様……!? 愚かな凡人にそのようなものをお授けになるなど……! どうか、どうかお気を確かに!」
案の定ウティリスの顔面が引き攣っている。もちろん姫様はそんなことは気にも留めていない。
「指輪をはめて、行きたい場所を思い浮かべなさい。一度訪れたことのある場所ならどこにでも行けますわ」
「ありがとうございます。でも、本当にいいんですか? こんな大事そうなもの……」
そう言いつつも、シマノはちゃっかり指輪を受け取り、既にはめていた。姫様の背後でウティリスが眉間に深く深くしわを刻んでいる。
「構わなくてよ。もちろん、ファブリカに行ってお戻りになったら、返していただきますわ」
「チッ残念(当然ですよね!)」
ウティリスが般若の面持ちでこちらを睨み殺さんとばかりに見つめている。完全に自業自得なのだが、冷や汗が止まらないシマノであった。
「シマノ、ファブリカに行くのは私だから、その指輪は私が装備する」
なるほどユイの言う通りだ。シマノは素直にユイに指輪を譲ろうとした。
「ご安心なさって。その指輪は二人まで同時に飛べますわ」
姫様の言葉に、ここにウティリスがいるのはそういうことかとシマノは一人納得する。
「じゃあ俺とユイでファブリカに行こう」
「待ってシマノ。私には『探知』がある。私一人で行って、シマノのいるところなら何処でも戻れるようにしておくのが効率的」
「えっでも……一人で大丈夫……?」
シマノもあまりよくわかってはいないのだが、ユイにとって修理というのは手術のようなものではないのだろうか。付き添ったところで何も出来ないにしても、やはり一人で送り出すのは気が引ける。
しかも今回は王都の時と違い、すぐに駆けつけることの出来ない距離なのだ。
「しょうがないわね。あたしがついてってあげる♡」
桃色の髪をピンと尖った耳にかけ、ニニィが上目遣いでシマノに提案する。
「修理して新しく生まれ変わるユイの身体がどうなっちゃうのか……とぉっても興味あるわぁ……♡」
「うんやっぱりユイには一人で行ってもらおうかな!」
怪しくなりかけた雰囲気をバッサリ断ち切り、シマノは問答無用で指輪を外しユイに押しつけようとした。
「やぁね冗談よ♡ せっかくファブリカに行けるんだから、最新の情報も手に入れておきたいじゃない?」
それにね、とニニィはほんの少し目を伏せながら言葉を続ける。
「あたしだって、心配なのよ。ユイのこと」
「……わかった。ユイを頼むよ」
シマノは外したばかりの金色の指輪を、ニニィに託した。
「任せて♡」
ニニィは軽妙にウインクしてみせると、指輪を右手の中指にはめ、ユイと手を繋ぐ。
「じゃ、行ってきま~す!」
指輪が輝くと、ユイとニニィの姿は一瞬にして消え去った。
「本当によろしかったのですか、姫様? あの指輪は……」
「ええ、構いませんわ。それより……シマノ。わたくし、もう一度ムルとお話ししたいのだけれど……取り次いでくださる?」
急に話を振られ、シマノは心底面倒臭そうな顔をしながら姫様たちの方を向いた。
「えー……ムル、かなり怒ってましたよ? すぐには無理なんじゃないですかね……」
指輪を借りておいてこんな風に袖にするのもどうかとは思うが、もうこれ以上ウティリスを刺激して八つ裂き選択肢を表示したくないのだ。
「今は……辞めといた方が……いいと思うぜ……」
弱々しいその声に、シマノと姫様たちは思わず振り返る。キャンだ。その頭部には、シマノの拳ぐらいの大きなたんこぶが出来ていた。
「キャン!? その頭どうした!?」
「ムルが……一人にしてくれって……石飛んできた……」
姫様の背後でウティリスがなんと野蛮な……と溜息を吐いている。
一方シマノは、たぶん相当しつこく食い下がったのだろうと想像し、可哀想な獣キッズより寧ろムルの方に同情するのであった。
「ほら、キャンもこう言ってますし。辞めといたほうがいいですよ姫様」
とりあえず利用できるものは利用させてもらおう。シマノは哀れなキッズをダシにすることで姫様に対話を断念させ、結果的にムルとウティリスの接触を避けて八つ裂きを回避しようと画策した。
「いいえ、わたくしは今ムルとお話ししたいの。そこのあなた……キャンでしたわね? わたくしをムルのところに連れていきなさい」
シマノの策は一瞬で無に帰した。駄目だ。この姫様、言い出したら聞かないタイプだ。
姫様の後ろで困ったように頭を抱える従者に、このときばかりはシマノも少し憐れみを抱いた。
今回の好きなゲーム【ゼルダ無双 厄災の黙示録】
いや百年前を追体験じゃなくて完全にifですね!? というのは置いておいて、とても面白かった!
オリジナルキャラも魅力的でよかった 好き




