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第27話-2:これで、よかった

「報酬だ。受け取れ」


 酒場の主人、鴉の獣人があくまでも事務的に告げる。だが、彼の鋭い眼差しはクエストの受注時よりほんの少し和らいだように見える。


 仕事に出ているのか、朝よりも酒場の客は少ない。それでもあちこちからクエストの達成を祝う野次が飛んできた。キャンがそれら一つ一つに反応し、その反応がさらに酒場を賑わせる。


「言ったろおやっさん、オレら最強パーティなんだって!」


 キャンがカウンターに身を乗り出し、報酬の鉱石を横からつつきながら酒場の主人に自慢気に語りかける。主人は相変わらずグラスを丁寧に磨きつつ、一切表情を変えることなく嘴を開いた。


「良くやった」


 思わずキャンが目を丸くする。


「べっ、べっつにぃ~? こんなん全然大したことね~しぃ~?」


 千切れんばかりに尻尾を振るキャンを微笑ましく横目に見つつ、シマノは報酬を受け取った。これにて無事クエスト完了である。


「そういえば、つい先ほどお前たちの帰りをお待ちだというご婦人が来たぞ」


 直にまた来るだろう、と主人はグラス磨きに精を出している。シマノたちは互いに顔を見合わせた。きっとニニィだ。


 その直後、酒場の扉が勢いよく開き、噂のご婦人が姿を現した。


「ニニィ! よかったぁ無事……」

「キャン!!!!」


 シマノの耳にニニィよりも太く迫力のある声が突き刺さる。見ると、そこには小柄ながらも恰幅のよい犬の獣人が立っていた。


 彼女の大声に酒場は一瞬静まり、客たちも何事かと扉の方を見ている。


「か……かーちゃん……」


 あまりにも弱々しい声にシマノが振り向くと、キャンはいつの間にかシマノの横から二三歩後ずさっていた。その耳も尻尾もしょんぼりと下がりきっている。


「こんな時間までどこほっつき歩いてんだい! お昼とっくに過ぎてるよ! とっとと帰ってご飯食べな!」


 キャンの母親らしきその獣人は、ずかずかとこちらに近づいたかと思えばそう一息にまくし立てた。


 そのブラウンの毛色は濃厚なキャラメルのように艶やかで、頭部まで白く通った鼻筋に、黒く愛くるしいつぶらな瞳。華やかで可愛らしい洋犬タイプだが、その剣幕は凄まじく、喋る勢いの強さに長い垂れ耳が激しく揺れている。


「だって……クエストが……」

「だってもさってもない! 旅の方々にまでご迷惑かけて何やってんだい!」


 母の剣幕に圧され、キャンはすっかりタジタジである。キャンの母は一頻り息子を叱り終えると、シマノたちの方に向き直り深々と頭を下げた。


「皆さんごめんなさいね~! 母のジェニィです~! 息子がご迷惑をお掛けしました~!」


 よそ行きモードなのか、キャンの母ことジェニィの声は先ほどまでより明らかに高いトーンになっている。


「あっどうもシマノです。いや別にっ全然迷惑とかじゃっ」


 相手の勢いに完全に呑まれ、シマノはしどろもどろに返事しつつ顔の前で両手を振ることしかできていない。


「せっかくこの町にいらしたってのに、ろくにお構いも出来やしないで、子守まで押しつけちまって~」

「いやあの本当大丈夫でっ、どっちかっていうと俺たちが助けてもらったっていうか!」


 シマノの言葉を聞き、ジェニィはつぶらな瞳をぱちくりと瞬かせた。


「あらっ、そうなのかい?」


 シマノはちらりとキャンの方に視線を向けた。キャンはカウンターの陰に隠れながら爆速で頷きまくっている。再びシマノはジェニィの方に視線を戻した。


「俺たち、訳あって旅してて。この町には新しい仲間を見つけるために来たんです」

「そうだったのかい」

「それで、あの……もしよかったら、息子さんとこの先も一緒に旅を続けたいなー、なんて……」

「シマノ、マジ!?」


 後ろで勢いよく立ち上がったキャンが、カウンターの角に頭をぶつけ悶絶している。ジェニィはジェニィで、そんな息子の姿も目に入らないほど驚いているようだった。


「それ、本気かい?」

「本気っていうかもうシステム的にそうなってるっていうか(もちろん、本気です!!)」


 酷いタイミングでシマノの心の声が駄々洩れてしまった。焦るシマノにユイが慌ててフォローに入る。


「キャンは、私たちと一緒に魔物の討伐クエストを達成しました。地底の巨大ミミズも倒せるし、とても頼りになります」

「この子が……いつの間に……」


 息子の秘められた実力に衝撃を受けているジェニィに、さらにもう一人が追撃を加える。


「彼らの言うことは事実だ。採掘所の魔物討伐依頼をこなしたのは、間違いなく彼らだと保証しよう」


 なんと酒場の鴉主人がシマノたちの味方になってくれたのだ。周りの客たちもそうだそうだと囃し立てている。


「ジェニィさん、お願いします! キャンと一緒に行かせてください!」


 シマノと、その隣でユイも並んで頭を下げた。


 ジェニィは暫し呆気にとられた様子で固まっていたが、やがて元の調子を取り戻した。


「もちろん、大歓迎さ! ビシバシ鍛えてやっとくれ!」


 今度はシマノたちが呆気にとられる番だった。システム上キャンはパーティ加入済みなので反対こそされないだろうと思ってはいたが、こうもあっさり許されるとは。


 しかし何よりも、誰よりも驚いていたのは、他でもないキャン本人である。


「いいの……? 本当に……?」

「最強の勇者になるんだろ? シマノさんたちにしっかり鍛えてもらいな!」


 頼んだよ、シマノさん! と話を振られ、こちらこそ! とシマノが返事をすると、そのすぐ後ろにいたキャンの表情がパァッと明るくなった。


「イエーーーーーーイ!! やったぜーーーーーー!! フゥーーーーーー!!」


 キャンは大はしゃぎで酒場の中を走り回り、シマノたちの周りをグルグルと回っている。


「コラァッお店で走るんじゃないよ!!」


 ジェニィの怒鳴り声に、酒場がまた笑いで包まれる。


 こうして、正式に親御さんの同意を得たことで貴重な前衛職を確保できたシマノたちは、次なる冒険の地へと歩んでいくのであった。

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