第27話-1:これで、よかった
地底で無事合流したシマノたちは、地底湖「石の涙」から距離を取りつつ地上を目指し歩いている。その道中、話は自然とはぐれていた間の互いの状況を報告しあう流れになった。
「倒した!? ミミズを!? 一人で!?」
「一人じゃねーし! ムルと二人で倒したんだぜ!」
得意げに語るキャンにシマノは心底感心する。いくらムルの助力があったとはいえ、まさかスワップ無しで魔物を倒すとは。
「へぇー、二人ともすごいなー」
「だろだろ~? シマノが落ちてる間にオレってばまた強くなっちゃったぜ~!」
キャンの言葉を受け、そういえば俺がいない戦闘での経験値ってどうなるんだ? とシマノの脳内に疑問が浮かんだ。あとでウインドウを確認しておく必要がありそうだ。
「けどさー、採掘所で戦った時だけなんであんなに剣が軽かったんだろ?」
せっかく強くなれたと思ったのになー、と愚痴を溢すキャンに、シマノの良心がチクリと痛む。キャンはまだ、あの戦闘で底上げされた能力を自らの実力だと信じているのだ。
相手の感情が見える「レンズ」のことならキャン以外の仲間は皆知っている。しかしスワップは、つい話すタイミングを逸してしまい、まだユイ以外の誰にも知らせていない状態だった。そのユイにさえ、先ほど穴の中でレンズと合わせて軽く説明しただけである。
「さあ? なんでだろうな?」
すっとぼけるシマノをユイが冷たい目で見ている。心苦しいことこの上ないが、ニニィがいない今説明するより、みんな揃ってからの方がいいだろうと判断してのことだった。
「それより、具合はどう? ムル」
「そーだよ! 石の声? とかいうのはもう大丈夫なのか?」
かなり強引な話題変更だったが、キャンもムルの体調は気がかりだったようで便乗してきた。スワップ説明回避成功である。
「大丈夫だ。余計な心配をかけたな。すまぬ」
「よかったー安心したぜー」
「なあ、ムル。石の声って、いったい何なんだ?」
もしかするとこの世界の根幹に関わる重大な設定かもしれない。深掘りしておくべきだろうと考え、シマノはムルの答えを待つ。
「……説明が難しい。声、というよりは感情が流れてくるといった方が正確だな」
「感情?」
「我らはその感情を受け入れることで石と同調し、力を借りることができる。ただ、それが強すぎると、酷く頭が痛んだり、力の制御が出来なくなってしまうのだ」
石に感情がある。それはシマノにとって新鮮な感覚だった。
地底では良質な鉱石が採掘できる。地底民はその感情を感知できる。
ひょっとして、石の感情が強ければ強いほど、その質は高まるのではないだろうか?
「石については我らもまだ知らぬことが多い。今話せることはこのぐらいだ」
良質な鉱石目当てに地底湖まで引き返したくなっているシマノをよそに、ムルは早々に話を切り上げた。シマノも渋々未練を断ち切り、改めて仲間とともに地上を目指すことにした、のだが。
「……ち、地上……まだ……?」
地底はゴツゴツした岩場が多く、起伏が激しい。採掘所までの道のりでひたすら山道を登らされ、地底湖で泳がされ、そしてまたこの険しい地形である。シマノの足腰はとっくに限界を突破していた。
「だらしねーぞシマノー。シャキッとしろシャキッとー」
キャンにこれでもかと煽り倒され、シマノはぐぬぬと声を漏らす。ついさっきまで巨大ミミズと死闘を繰り広げていたはずなのに、キャンには疲労のかけらも見受けられず、今も元気にパーティの先頭を歩いていた。子どもの回復力とは恐ろしいものだ。
「シマノ、大丈夫?」
ユイが度々足を止め、こちらを気遣ってくれる。しかしその態度は「おんぶしようか?」と言外に訴えているに等しい。シマノとしては断じて弱みを見せるわけにはいかなかった。
「だ……大丈夫……。それより、ここって地上でいうとどの辺りなんだろう」
「石の涙……先ほどの地底湖は、北方の山岳地帯に在るとされている。我らが今歩いているこの辺りも、獣の町から然程は離れていないだろう」
それは思ってもみない朗報だった。王都でお尋ね者になってしまった現状で、万が一ラケルタの森の辺りまで飛ばされてしまったら戻ってくるのは容易ではない。
「よかったぁ……地上に出たらすぐクエスト達成報告できそうだな」
「シマノ、報酬の鉱石を貰ったら、ファブリカの職人に会う方法を考えよう」
確かにユイの言う通りだ。良質な鉱石を手に入れて、一刻も早くユイの修理を完了させてもらわなくては。
「そうだな! 今度こそユイを完璧に修理してもらわないと!」
「それだけじゃない。より良い鉱石を供給すると、職人に約束したのでしょう?」
その言葉を聞いて、シマノは自身がした向こう見ずな約束のことを久方ぶりに思い出した。
「やっべ完全に忘れてた(もちろん、約束は果たすさ!)」
「……シマノ、心の声が駄々洩れ」
「と、とにかく、まずは地上に出よう! ニニィとも早く合流できるといいんだけど」
「おーい置いてくぞー!」
二人で話し込んでいるうちに、だいぶ距離を離されてしまったようだ。ユイの「おんぶしようか?」の視線を跳ね除け、シマノは凡人の気概と気合となけなしの脚力で先を行くキャンたちの元へ駆けた。
***
「……これって本当にちゃんと戻ってこれたのかしら」
獣の町近くの採掘所。風の魔物の竜巻によって削れた地面の跡が生々しく残るその場所に、ニニィは一人立っていた。
エトルとの対話を終え、彼の力で採掘所まで飛ばしてもらったはいいものの、師匠の幻覚の件もあって今自分がいる空間が本当に現実のものなのか、ニニィは確信を持てずにいる。
「とにかく、獣の町まで戻った方がいいわね」
うん、とニニィは一人頷き、振り返って下山への一歩を踏み出そうとし、止まった。
「これで、よかったのよね」
その呟きは、岩々の合間を吹き抜ける風によって掻き消されていく。高く昇った太陽がニニィの影を黒々と地面に描き出す。
なるべく早くシマノたちと合流できるよう祈りつつ、ニニィは町を目指し山を下りて行った。
今回の好きなゲーム【ファイナルファンタジーVI】
獣ヶ原でとびこみまくった思い出
ケフカのキャラの濃さに衝撃を受けた




