第2話-2:異世界といえばチートでしょ……あれ?
「お別れのご挨拶はもう仕舞いかァ?」
大きいリザードマンの言葉に周りの子分たちはゲラゲラと下品な笑い声を上げる。
「お前ら手ェ出すんじゃねェぞ。一族のメンツを保つのはボスであるこのバルバル様の役目だ」
そう言うと、ボスを自称した大きな個体バルバルは前に進み出てシマノとユイを見下ろし睨みつけた。シマノもユイも咄嗟に身構え、じり、と一歩後ずさる。
「ビビんなよォ、先に死にてェやつからヤッてやるぜェ?」
バルバルは巨大な両手斧を片手で軽々と担ぎ、二人に凄んで見せている。するとほんの一瞬の隙をつき、ユイが光線銃を抜いた。バルバルはそれを見逃さない。目にも止まらぬ速さで巨斧を横凪ぎに振り抜いた。ギリギリのところでユイが躱す。
「じゃァまずはこっちのお嬢ちゃんからァ!!」
勢いよく振り下ろされた斧を、ユイは何とか躱した。すぐにまた斧が振り上げられ、それも辛うじて躱す。
バルバルの攻撃は見かけによらず素早く、見かけ通り重い。荒くれ者のリザードマンどもを束ねるボスの名は伊達ではないようだ。
このままではユイが一撃食らうのも時間の問題である。彼女がバルバルの注意を引き付けてくれている今のうちに、シマノは特別な能力とやらを会得しなければならない。
「と、とりあえず、ゲームの技……って、ダメだ。どんな技があったか全然思い出せない。それに俺の今のレベルは? ジョブは? 俺、何ができるの?」
焦ってパニックに陥りかけているシマノに、ユイが必死で声をかける。
「シマノ! 思い出して! この世界で遊んだとき、シマノはどうしてた!?」
「この世界で……アルカナで遊んだとき……?」
「よそ見してんじゃァねェ!!」
バルバルの巨斧がユイを捉えた。ガードは間に合ったものの、攻撃のあまりの重さにユイの身体は思いきり吹っ飛ばされ、木の幹に勢いよく叩きつけられる。
「っ……!」
ユイはガクリと項垂れ、ずるずると地面にへたり込んで動かなくなってしまった。
「ユイ!」
「なァんだよ、もう仕舞いかァお嬢ちゃんよォ? 一族の者の腕代、もうちっと楽しませてくれやァ」
バルバルはニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながらユイに近づいていく。周りのリザードマンたちも下品な野次を飛ばして囃し立てている。
「待て! それ以上ユイに近づくな!」
思わず声を上げたシマノに、リザードマン全員の視線が突き刺さる。
「何だァ、お前も後でたァっぷり可愛がってやるからそこで待っとけよ」
バルバルはシマノを一瞥したものの、気に留めることもなくユイの方に向かっていく。
「おい! 待てって言ってるだろ!」
シマノの怒鳴り声もむなしく、バルバルの歩みは止まらない。このままではユイが危険だ。考えろ。考えろ。頭脳をフル回転させ、何とかこの場を切り抜ける策を練り上げる。とにかくやるしかない。
「バルバル。お前もしかして、俺にビビってるのか?」
バルバルの足がピタリと止まり、その巨体がゆっくりとシマノに向き直る。その眉間には深いシワが刻まれている。
「……面白くねェ冗談だな」
これまでより一層低く唸るような声。好き勝手に囃し立てていた子分たちも一斉に黙り込み、ラケルタの森に鳥の声一つしない静寂が訪れる。
よし、とシマノは思った。まずは第一段階、バルバルのヘイトをこちらに向けることに成功した。問題はここからだ。
「『誰』がァ? 『誰』にィ? ビビってるってェ?」
溢れる怒気を隠そうともしないバルバルが、一歩、また一歩と間合いを詰めてくる。
シマノは能力について一つの推論を立てた。ここはかつて遊んだはずのゲーム『アルカナ』の世界。だが、ゲーム内の技を再現しようにも、シマノにはその記憶がない。思い出す手がかりとなりそうな自分のレベルやジョブもわからない。仮に思いつきで呪文を唱えてみたとしても、それがアルカナに存在しなければ発動することはないだろう。
「……この世界で遊んだとき」
ユイの言葉を反芻する。そうだ、レベルやジョブがわからないなら、見ればいい。ゲームを操作するときのことを思い出すんだ。
シマノは静かに目を閉じ、自分がコントローラーを握ってメニューボタンを押す様子を強くイメージした。すると突然、目の前が青白く輝きだした。
「なッ、何だァ!?」
青白い光の眩しさに、バルバルも周りのリザードマンたちも思わず目を背ける。その光が徐々に収まってくると、シマノの前には半透明のウインドウのようなものが浮かび上がっていた。
「メニュー……画面?」
シマノが呟くと、ウインドウの中央に「DEBUG MODE」の文字が浮かび上がった。
「デバッグモード……」
何気なくその文字をタップする。何らかのプログラムが走っているかのように、ウインドウ上を無数の文字列が流れていく。やがて「COMPLETE」と表示されたその後、シマノの名前とレベル、体力、精神力、ジョブがウインドウに表示された。
「レベルは1、HPは25/100、MPが0で……」
そこでシマノの表情が固まる。ジョブの欄には、二文字の漢字がはっきりと記されている。
「凡……人……」
凡人。そこには確かに間違いなくその二文字が表示されていた。
「凡人~~~~!?」
静まり返った森にシマノの心の叫びが響き渡った。だが残念ながら泣き言を言っている場合ではない。凡人のシマノの力でこの場をどうにか切り抜けるしかないのだ。
「うるせェなァ……クソッ、変な光出しやがってェ」
リザードマンのボスとただの凡人が改めて対峙する。シマノは大きく深呼吸し、バルバルに余裕の笑みを見せつけた。
「やってやるよ。この戦いに勝つのは俺だ」
ラケルタの森の空気が張り詰める。バルバルの巨斧が、今にもシマノに迫らんとしていた。
今回の好きなゲーム【星のカービィ2】
初めて遊んだカービィシリーズ。仲間に乗って進めるのが楽しい! 飛べないし泳げないけどリックが好きだった。




