第13話-2:わがままプリンセス
「その言葉、そっくりそのままお前たち地上の支配者気取りに返そう」
一触即発。シマノはこっそりとウインドウを開いてレンズを掛ける。レンズの隣には大蜘蛛戦で習得したばかりのスキル「スワップ」も表示されている。どうせ戦闘になるのなら遠慮なく試させてもらおう。
ニニィにアイコンタクトを送ると、彼女も既にいつ戦闘開始しても大丈夫なようダガーの柄に手を添え、兵士たちの挙動を注視していた。
まさに戦いの火蓋が切って落とされんとした、その時。
「おやめなさい!!」
姫の凛とした声が地下水路にこだました。
「ウティリス! あなた今の状況がちっとも理解できていないようですわね」
主人に名指しで批判され、ウティリスはぐっとたじろぐ。
「今のわたくしは囚われの身。この状況で賊を刺激したらわたくしがどんな酷い目に遭うか……!」
そう言うが早いか姫は掴んでいたシマノの腕を自らの首に回し、
「いやー! はなしてー!」
自ら腕の中に収まっておきながらバタバタと形ばかりの抵抗を始めた。もちろんレンズで見える顔マークは笑顔である。
「茶番ね」
「茶番だな」
「人の腕で茶番しないでぇ……」
「茶番はおやめください姫様」
シマノたちだけでなくウティリスからもツッコまれ、姫の額に冷や汗が浮かぶ。
「うっ……うるさいわね! とにかく今この者たちを刺激することは許さなくてよ!」
姫の無茶苦茶な言い種にウティリスは頭を抱えている。その頭上を見たシマノは違和感を覚えた。
HPバーがない。表示されているのは困り顔の顔文字だけだ。
周りの兵士たちにもバーは表示されていない。おかしいと感じてムルの方を見ると、こちらも落ち着きを取り戻したようだった。もう誰も戦いそうな素振りを見せていない。
「もしかして、戦闘回避しちゃった?」
余計な争いを避け、むやみに人を傷つけずに済んだという意味では、それは決して悪いことではない。ないのだが。
「貴重なスワップチャンスが……」
完全に新スキルを試す気満々だったシマノは肩を落とさざるを得なかった。
「何をブツブツおっしゃってるの? 早くこんなところ脱出しますわよ」
囚われの身であるはずのお姫様が容赦なくシマノに指図してくる。だがそもそも、シマノたちは何も悪いことなどした覚えがないのである。
にもかかわらず、ここでこの姫君を連れ去ってしまえば正真正銘本物の大逆人になってしまう。
「お断りします! 俺たちは俺たちで勝手に逃げますので!」
「あら、そんなことおっしゃって大丈夫かしら」
この姫、ずいぶん強気である。
「わたくしを置いていけば、ウティリスは容赦なくあなた方に襲い掛かりますわ」
「それで結構です! 喧嘩上等!」
貴重なスワップチャンスの再来に思わずシマノの顔がにやける。すると姫はまるでやれやれとでも言いたげな素振りで小さくため息を吐いた。
「あれはわたくしのためなら素手で熊を裂きますわよ」
「…………盛ってます?」
「事実だが?」
こちらの会話に声を張って堂々と割り込んできたウティリスは、両手の指をバキバキと鳴らしながらシマノたちに凄んでみせている。
「選べ。このまま俺に全員八つ裂きにされるか、姫様を差し出し許しを乞い俺に全員八つ裂きにされるか」
すると、徐に小さなウインドウが開き、八つ裂き選択肢が二つ表示された。
「どっちも嫌ですが!?」
開いたウインドウを即閉じる。だが、状況は何も変わらない。もはや新スキルどころではなく、どうやってこの筋骨隆々大男から逃げ延びるかを真剣に考えなければならない。
「ほら、さっさと覚悟をお決めなさい。わたくしと一緒に脱獄しますわよ」
そんなことを言われても、だ。王族攫いの大逆人になるのはいくらなんでも嫌すぎる。
というかこのゲーム、こんなストーリーだったか? 何一つ覚えていないけれど、さすがに展開が無茶苦茶すぎないか?
「いいじゃない、一緒に逃げましょ♡」
突然ニニィがシマノに声をかけ、シマノと姫の前方に回り込むと、じっと姫を見つめだした。
「王族の情報……とぉっても興味深いわぁ……♡」
「なっ……なんですのこの子……」
「ふふっ……怖がらなくていいのよ……おねぇさんに任せて……♡」
ニニィの顔が近づくにつれて姫の顔が引き攣っていく。シマノには何だかだんだん収拾がつかなくなっているような予感がしていた。
「ややこしそうだな。やはり天井ごと奴らを捻り潰すしかあるまい」
先ほど蛮族呼ばわりに腹を立てたとは思えない、野蛮極まりない言動である。
「上等だ。返り討ちにしてくれるわ」
向こうも向こうで再びやる気を出し始めた。このままでは八つ裂きコースまっしぐらである。
「あーーーー、もう、無理!! 逃げる!!」
シマノは腕にしがみついている姫をそのまま抱きかかえ、凡人に出せる全ての脚力をもって兵士たちの待ち構える前方へ真っ直ぐ駆けだした。
「ちょっとシマノ、待って~!」
ニニィと、次いでムルも慌ててシマノについていく。
慌てたのはウティリスも同じだ。攻撃しようにも、シマノたち三人が姫を盾にしながら勢いよく突っ込んできている状態なのだ。
「ウティリス! このわたくしに怪我でもさせたらただじゃ置きませんわよ!」
シマノに抱えられた状態の姫が、ものすごい形相でウティリスを睨みつけている。手出しをするな、という意思だけが強烈に伝わってくる。何なんだこの状況は……とウティリスはまたしても頭を抱えた。
そんなウティリスと兵士たちを全力でスルーし、シマノは姫を抱える腕の力にほんのり限界を迎えながらも、地上に向かって死に物狂いのダッシュを続けた。
「ユイ~早く助けに来て~!!」
情けないシマノの心の叫びは、またしても虚しく地下にこだましていった。
今回の好きなゲーム【オクトパストラベラー】
アーフェン3章のミゲル野郎が衝撃過ぎて忘れられない




