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第82話-2:エンディングとはちょっぴり寂しいものである

 エトルとシマノはそれぞれ手頃な瓦礫に凭れたり腰掛けたりしながら、楽しげに過ごすトワやキャンたちを眺めた。

 会話の口火を切ったのは、エトルだった。


「トワは何も覚えていませんでした」


 その言葉を聞いたシマノは、改めて安堵した。コード修正時に共有された、痛みの記憶。あんなものは、思い出さずに済むなら絶対にその方がいい。


「そっか、よかった」


 それはシマノの心からの本音だった。そして、気の遠くなるような長い年月、同じ痛みを抱き続けたエトルの想いもまた、同じものだった。


「貴方のおかげです。本当に、何とお礼を申し上げていいか」

「俺だけじゃないよ。みんなが、助けてくれたんだ」

「そうですね……」


 エトルは感慨深げに目を細め、無邪気に笑うトワを見つめていた。


「トワが()()形になってから、僕はずっとこの世界を憎んできました。この世界を作り上げた者を、トワ独りに全て押しつけて素知らぬ顔をするこの世界の住民たちを、ずっと憎んでいました」


 そりゃそうだ、とシマノは思う。大切な妹を理不尽に奪われ、損なわれ、世界を憎まない奴なんているわけがない。

 だがエトルは、さらに言葉を続けた。


「今思えば、ですが。本当は、自分自身が憎かったのかもしれません。何も、死ぬことさえもできず、ただ緩慢に生を貪り続ける自分が、ずっと憎かった」


 変わり果てた妹を救おうと何度も藻掻き、手を差し伸べては拒絶され、せめて同じ痛みをと自らに枷を科した。それが底の無い自己否定から生まれ続ける贖罪だと分かっていても、そうせざるを得なかった。


「すみません、せっかく救っていただいたのにこんなお話で」


 困ったような顔で笑うエトルに、シマノは何と声を掛けるべきか逡巡する。


「……あんたは俺よりずっと立派だよ、エトル。トワのために同じ苦しみを背負って、ゼノを立ち上げて、たった一人で王家と、世界と渡り合ったんだ」


 駄目だ、とシマノは唇を噛む。結局、どんな言葉を掛けようと、そもそも自らの過ちが彼をそうさせてしまったのだという事実からは逃れられない。


「俺のせいで、本当にごめん」

「良いのです、もう。僕だってトワを喪えばきっと、同じことをしたでしょうから」


 峡谷には珍しく、穏やかで心地よい風が吹く。シマノとエトルはお互い黙ったまま、吹く風に身を委ねた。


 ふと、前方でキャンが大きく手を振りこちらに呼びかけているのが目に留まる。


「おーいシマノ! オレそろそろ帰るぜ! 家に帰ってブユーデンを書かなきゃなんないからな!」

「ブユーデン?」


 聞き慣れない響きに、シマノは目を瞬かせた。


「そーだぜ! 大活躍した獣の戦士はみんなブユーデンを石に刻んで残すんだぜ! カッケーだろ!?」


 どうやら武勇伝のことを指しているらしい。楽しそうで何よりだ、とシマノは呆れ半分に笑いを漏らす。


「凡人のシマノは大した活躍してねーけど、ちょびっとだけ載せといてやるからな!」

「そりゃどーも」

「うおおおこーしちゃいられねー! ムル! 早く帰るぞ!」


 突然話に巻き込まれ、石に凭れのんびりとうたた寝をしていたムルは慌てて起き上がった。


「待て。いつ我が行くと言った」


 キャンはそんなムルの様子には一切構わず捲し立てる。


「石の加工ならムルの方が上手だろ? お願い! 手伝って! お願いします!」

「断る」


 即断である。


「ガーン!」


 しょんぼりと尾を垂らすキャンに若干の申し訳なさを覚えたのか、ムルはエトルの方に視線を送りつつ、断った理由を告げようとしている。


「我は……いや、我ら地底の民はかつての主とともに在ることを望む」


 それを聞いたエトルが穏やかに答えた。


「彼についていってはどうです?」


 ムルの瞳が揺らぐ。かつての主の言葉の、その意図を量りかねているのだろうか。


「エトル……」

「僕らは構いませんよ。ティロを討ち、トワが戻った今、貴方がたの贖罪をこれ以上望むことはありません。自由に生きてほしいと、他の者たちにも伝えていただけませんか」

「自由……」


 突如として与えられた初めての言葉を心に沁み込ませるように、ムルはエトルを見つめたまま譫言のように呟いた。

 その手を、強く引く者がいる。


「決まりだなっ! 行こーぜムル!」


 勢いの強さによろめきながら、ムルはキャンに待ったをかけようとした。


「ま、まずは里に戻ってから……」

「いいぜ! 里のみんなにも手伝ってもらおっかなー!」

「それは難しいと思うぞ」


 こんな時でも冷静なムルのツッコミでさえどこ吹く風。聖騎士キャンは、ムルの手を引き走り出しながら空いている方の手を思いっきりシマノに振った。


「じゃーなーシマノー! また遊びに来いよー!」

「シマノー世話になったー達者でなー」


 キャンに半ば引き摺られるような形でムルは去っていった。そんな二人を見送り、ニニィ、トワ、ユイの女子三人がその場に残っている。


「……全くもう、最後まで騒がしいんだから」


 仕方ないわね、と軽く溜息を吐きながら、ニニィが改めてシマノに視線を送る。


「……あの時ね、助けに来てくれてうれしかった。ありがと。シマノ」

「ニニィは、これからどうするんだ?」

「あたしは情報屋を続けるわ。この旅でオイシイ情報もい~っぱい手に入ったし、ね♡」


 さすが、転んでもただでは起きないというか何というかだ。きっとニニィなら、クリア後の世界でも要領よく逞しく生きていけるだろう。

 そういえば、とシマノはある疑問を抱いた。クリア後のセーブデータってどういう扱いになるんだろう。


「平和になったし、商材も変えていかなきゃねー。『アルカナ・イケメン名鑑』なんてどうかしら」


 不意に、ニニィの視線がエトルを鋭く射る。


「手始めにエトル、アナタのコト、たぁ~っぷり聞かせてもらうわよ……♡」


 厄介事に巻き込まれると察したのか、エトルは即座にやんわりとニニィの誘導を試みる。


「僕ですか? こういうのは世界を救ったシマノの方が……」

「ダメよ、凡人に需要はないの」

「酷っ!」


 ニニィのあんまりな言い草に、ついシマノの心の叫びが駄々洩れる。


「わぁ楽しそう! エトル、やってみましょうよ!」


 内容がわかっているのかは不明だが、トワも乗り気になってきたようだ。ユイは「がんばれー」と棒読みで応援している。二人の反応が、ニニィにますますエンジンをかける。


「ふふっ怖がらなくていいのよ……ほらエトル、あっちに行きましょ……おねぇさんに任せて……♡」

「ちょっ待っ待ってください、シマノ! シマノー!?」

「あー頑張れー」


 とりあえず自分が巻き込まれなければ何でもいいか、とシマノは適当にユイの真似をして棒読みで見送った。名鑑が完成した暁には、こっそり読ませてもらおう。


「シマノ」


 改まったユイの声掛けに、シマノは一つ大きく伸びをして、向き合った。


「そろそろ時間か」


 エトルとトワを救い、「すべてのおわり」を阻止することができた。これ以上、シマノがこの世界に残る理由は存在しない。


「シマノに忠告。ゲームをクリアして外に出れば、もう二度とここには戻れない」

「わかった」


 こういうメタな話が出てくると、いよいよエンディングも近いって感じがするな、などとシマノは呑気に考えていた。


「それと、もう一つ」

「何だ?」


 次にユイが告げた言葉は、シマノの呑気な思考を一息に消し飛ばした。


「この先、シマノが何度このゲームで遊ぼうと、二度と私に会うことはできない」

次話で完結です!! よろしくお願いします!!

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今回の好きなゲーム・番外編【ポピラ】

友だちの家で遊んだいにしえのゲーム機。テレビにつなぐだけで遊べる家庭用簡易音ゲー。

全然名前を思い出せなかったんだけど、Geminiに聞いたらすぐに答えが出た。Geminiは偉大。崇めよ。

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