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第81話:ラスボスとはみんなで立ち向かうものである

 この世界の敵、魔王の役割を与えられてしまった存在。

 原形を留めない、破損データの寄せ集めと化した少女。


 黒く蠢き、見る者すべてに生理的嫌悪感を抱かせるその塊は、シマノたちの頭上で無邪気に無作為な形状変化を繰り返していた。


 さて、この魔王をどう救うか。ニニィの上級スキル「記憶の強奪」は使えない。残る手持ちのスキルを駆使して魔王から苦痛の原因を取り去り、元の少女の姿に戻す必要がある。


「要はぐちゃぐちゃになったデータを元通りに修正できればいいわけだ」


 シマノの頭にはある考えが浮かんでいた。データの修復なら、ムルの操りを解除したときと同じ、デバッグモードが使えるはず。ニニィには記憶の強奪ではなく、初級スキルの「情報盗み」をやってもらう。


 盗み出すのはトワのソースコードだけ。それなら苦しむこともないはずだ。


 早速ニニィに依頼したものの、返事は思っていたより歯切れの悪いものだった。


「あのねシマノ、あたしの情報盗みは確実なものじゃないの。絶対成功させたいなら、『相手の目を見る』『相手に触れる』この二つをクリアしなきゃダメ」

「えーっ! やべーじゃんシマノ、あいつ目とかねーし!」


 申し訳なさそうなニニィの答えを聞き、キャンがまさに絶体絶命と言わんばかりの勢いで騒ぎ立てている。それを聞いていたムルが静かに声を上げた。


(われ)が力を貸そう。ニニィ、我とともにこの石を握れ。主の声に近づけるはずだ」


 ムルの手には乳白色の小石が載っている。ニニィの手が、その小石ごとムルの手を握った。


「ありがと、ムル」


 小さな手と手を繋いだ二人は、小さく頷き合った。

 これでソースコードの問題は解決だ。ホッと息を吐き油断しているシマノに、すかさずユイが進み出て警告する。


「シマノ、トワが素直にデータを渡すとは思えない。必ず抵抗してくるはず」


 尤もな意見だ。


「ヘッ、そんなの極光聖騎士クリスタル・パラディンキャン様が超カンペキに護ってみせるぜッ!」


 聖騎(アルティメット)士の(・パラディン・)盾4枚(シールド・フォー)を周囲に漂わせながら、聖騎士キャンが息巻いている。随分とやる気に満ち溢れているようだ。

 これなら、任せてしまっても大丈夫だろう。


「よし、任せた。ユイもサポートを頼む」

「了解」


 短く了承の意を告げ魔王に向き直るユイを見て、シマノも改めて頭上の魔王へと顔を向けた。


「俺も無敵チートでみんなを支援する。それじゃあ、作戦開始!」


 泣いても笑ってもこれで最後だ。仲間たちに開始の合図を告げ、シマノは短く息を吐き気合を入れ直した。


 作戦開始とともにムルが大地を隆起させ、浮遊する魔王のところまでみんなを引き上げた。ニニィはムルと手を繋いだまま、魔王の傍へと歩み寄ろうとする。


 魔王はそれを拒絶する。風の魔物を倒した後、テクスチャの亀裂の中で遭遇した様々な異形のオブジェ。それらと同様の造形物たちが次々と生成され、魔王から無尽蔵に排出されていく。


 無数の腕、目玉、髪の毛、ありとあらゆる人体のパーツの寄せ集めたち。闇雲に生み出されては襲い掛かってくるそれらは、あと一歩ニニィたちのところまで届かない。


「大丈夫か、ムル、ニニィおねーさん!」


 キャンの盾が、魔王の攻撃を完璧に防ぎきっていた。ニニィたちの様子を気遣いながら、キャンは浮遊する光の盾を自在に操っている。


「平気よ♡ じゃあ、盗むわね」


 キャンにウインクしてみせたニニィは、ムルと繋いでいない右手を魔王に向かって伸ばす。

 一周目でエトルが手を差し伸べた時には何本もの腕を生成して迎えた魔王が、今回は叫び声を上げながら黒い無数の棘を突き出している。

 これでは触れることなど出来はしない。シマノはユイに目配せし、前に出て二人で魔王を挟み撃ちにするように立った。


「ニニィ、俺たちで魔王の注意を引き付ける。何とか隙を見て盗み出してくれ」


 シマノは剣を構え、ユイは射出機を飛ばし、魔王の周囲でヘイトを稼ぎ続ける。魔王は武器を生み、棘を生み、異形を生み、周囲の全てに明確な拒絶を示していた。幾重にも重なったおぞましい叫び声が、少し離れたところで様子を窺うエトルの耳に届く。

 居ても立っても居られず、エトルは立ち上がり魔王のもとへと向かおうとした。


「ダメですっ、エトル様! ここはシマノたちに任せましょう」


 まだ完全に回復しきったわけではないエトルの身体を案じ、セクィが必死で止める。


「ですが、トワが……」

「シマノたちを信じましょう、エトル様」


 これ以上エトルが傷つかないように、セクィはただ寄り添い、彼を魔王に近づけないことを選んだ。

 二人の視線の先で、シマノたちは何とか一瞬の隙を作り出すべく奮闘していた。


「オイ、なんかヤベーぞ!?」


 キャンの言葉通り、魔王とされるデータの塊は、巨大な大砲へと姿を変え、その銃口をニニィとムルに向けていた。その口径は、一周目の時とは比べ物にならないほど、巨大だ。


「これ、防げるのか……?」


 いくらチート能力があるとはいえ、ここまで大きな光線銃から仲間たちを護りきれるかはかなり怪しい。シマノの額に冷や汗が浮かぶ。

 そんなシマノの不安をよそに、銃口を真っ直ぐ見据えたムルがとんでもないことを口走った。


「中に入るぞ、ニニィ」


 一瞬、その場にいる全員の頭が空白状態に陥った。


「えっと……ごめんね、どういうことなの?」


 全員の気持ちを代弁したニニィに、ムルは続けて事も無げに言い放つ。


「あの中に入る」


 そう言ってムルが指を差した先には、巨大な銃口があった。

 つまりムルは、魔王が変形した巨大銃の内部に侵入しようと言っているのだ。

 そのことに気づいたシマノは慌ててムルのもとへと駆け寄った。


「ムルさん!? ちょっと待っ」

「よっ、と」


 シマノが辿り着く前に、ムルはニニィの手を引きながら銃口の中に飛び込んだ。


「もう入ってる~!?」


 頭を抱えたシマノの隣で、キャンも焦っているのかその場でグルグルと駆け回っている。


「エーッ!? オレも行きたいー!」

「駄目だ。石が呼ぶのは我らのみ。行くぞ、ニニィ」

「えーんよくわかんないけど、とにかく行ってくるわね……!」


 魔王の内部に入り込もうとしているのに、ムルはやけに堂々としていた。その態度を信頼したのか、はたまた何かを諦めたのか、ニニィは半泣きになりながらもムルについて行った。


 そんな二人を呆然と見送ったシマノは、ふと我に返ると事態のとんでもなさに改めて焦り出した。


「待てよこれ大丈夫なやつか? 二人とも無事に戻って来るのか?」

「大丈夫」


 いつの間にか隣に立っていたユイに、危うくシマノの心臓が止まりかけた。ユイは特に気にすることなくニニィたちの現状について解説してくれるようだ。


「二人は無事。魔王の内部にいる限り、攻撃されることはない」

「そうは言うけどさ……」

「シマノ、デバッグモードを開いて。ニニィからコードが届いた」


 言われるがまま、シマノはウインドウを開いた。Executive Modeのウインドウが閉じ、DEBUG MODEのウインドウが新たに開く。

 黒い背景に、白い文字。ユイの持つ記憶(データ)と魔王を構成する記憶(データ)が比較検証され、赤や黄色の文字として表示されている。


「魔王のデータは膨大。全てこちらに届けるには時間がかかる。出来るところから着手していこう、シマノ」

「了解。それにしても……酷いな」


 ニニィから送られてきたソースコードは、列がゆがみ、文字もばらばらの酷い状態だった。これからシマノは絡み合った文字列を解き、エラーを修正して綺麗なコードに変えていかなくてはならない。


「地道にやっていくしかないよな」


 色の異なる文字、複雑に絡んだ文字列。それら一つ一つをタップし、正しい状態へと導いていく。

 程なくして、送られてきた最初のコードの修正が完了した。と同時に、シマノの脳内に一つの映像が再生される。


『おめでとう、今日から貴女はこの世界を救う女神となるのです』


『女神トワ様、我らアルカナ王家に大いなるお恵みを』


『ああ、地上に生ける全ての生命に代わり、苦しみを一身にお受けになるそのお姿、何と尊い』


 記憶――トワの記憶だ。ぐちゃぐちゃに押し込められたコードを正しく紐解いたことで、記憶がシマノに共有されたのだろうか。


 トワの視点で、彼女が受けた言葉が、仕打ちが、痛みが、完全な形で再生される。


『本当に元通り再生するとは』


『これが『異端』か。やはり我ら光の一族とは相容れない者どもだ』


『国王様もお人が悪い。帰す気など初めからないというのに』


 ただ記憶を再生しているだけだ。実際にシマノの身体に傷がつくわけではない。

 だが、その痛みだけは全て生々しく再生された。


『あー。女神ちゃんの産んだ子、今回もダメだったよ。やっぱ他の生き物くっつけたら良くないのかな?』


 込み上げる吐き気。涙も涎も垂れ流し、声にならない叫び声を上げながら、シマノはぼやける視界を何度も擦り、デバッグ作業を続けていった。

 そのただならぬ様相に、キャンも何が起きているのか察したようだ。


「シマノ! しっかりしろ! 大丈夫か!? オレはここにいるぞ!?」


 今のシマノには応える余裕がない。震える指先で、デバッグを何とかこなすだけで精一杯だ。

 そんなシマノに、ユイが最後のソースコードを送る。


「シマノ、これが最後。一緒に頑張ろう。私も、最後まで一緒に見届けるから」


 そう言ったユイの声も、震えていた。


 シマノは、最後のコードを修正した。脳内に映像が流れ込む。


『エトル』


『どうしました、トワ?』


『……ううん、何でもない』


『?』


『私がお城に行ったら、寂しくなっちゃうね』


『そう、ですね』


『帰ってもいいか、時々聞いてみるね』


『ええ、そうしていただけると助かります』


『……じゃあね、行ってきます』


『行ってらっしゃい、トワ』




「――COMPLETE――」




 全てのコードを修正し、シマノは意識を手放した。暗転していく視界の向こうに、必死で呼びかけるキャン、膝から頽れたユイ、妹の名を懸命に叫びながら魔王のもとへと向かうエトルの気配を感じながら。

今回の好きなゲーム・番外編【ミッキーとドナルド マジカルアドベンチャー3】

友だちの家でひたすら遊んでいたゲーム。ドナルドがいたような気がするからたぶん3だったと思う。

これの楽しかった記憶が薄っすら残っていた私は、後年何故かエピックミッキーに手を出していた。

エピックミッキーは結局カメラワークから来る酔いを克服できず途中でやめてしまった。苦い思い出。

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