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第80話-1:仲間とはいいとこで現れるものである

※流血ほかかなり痛そうな描写が出ます!

「何が起こってるの……?」


 ニニィは目を疑った。大した能力を持たない凡人のはずのシマノが、ゼノの幹部エトルと互角に渡り合っている。いや、互角どころかむしろ優勢に立っているのだ。


 幾度も刃を交え、鎬を削り合いながら、シマノとエトルは激しく切り結んだ。


「ダメージ吸収」「カウンター」「オート戦闘」これらのスキルのおかげでシマノが危機に陥ることはなく、戦いを続ければ続けるほどエトルだけが消耗していった。

 肩で息をし、身体中の傷から血を流しつつ、エトルはシマノに繰り返し斬りかかった。


 魔王トワと同じ苦痛を背負った彼の身体は、何千年、何万年もの時を過ごすうちに最早うまく痛みを感じることができなくなっていた。傷はたちどころに再生し、また新たな傷となり血液を垂らす。


 オート戦闘のおかげで大した手ごたえも感じられない中、シマノは冷静に目の前の状況を観察した。


(このままじゃ駄目だ)


 これではあの時と変わらない。回復が追いつかなくなったエトルはいずれ死を選び、トワが後を追い、すべてのおわりが遂行されてしまう。

 しかし、この戦闘を終えるわけにもいかない。シマノが戦いを止めれば、エトルの矛先は確実にニニィへと向かうだろう。


(それなら、俺の取るべき択は)


 シマノは剣を持たない左手でウインドウを素早くタップし、発動中のスキルのうち二つを止めた。「カウンター」と「オート戦闘」だ。


 一瞬にしてエトルの剣捌きに追いつけなくなったシマノは、握っていた剣を弾き飛ばされ、身体を大きく袈裟に斬りつけられてしまった。

 今まで味わったことのないような、熱を持った激烈な痛みがシマノを襲う。シマノの喉が声にならない叫び声を絞り出す。


 エトルは突然動きの鈍くなったシマノに、少なからず困惑の表情を浮かべた。だが、その攻撃が止むことはない。袈裟に斬った傷口を抉るように、剣を突き刺し、捻り、一文字に裂いた。


 これまで上げたことがないような悲鳴を自分の喉が奏でているのを、シマノはどこか他人事のように聞き流していた。飛びそうになった意識が痛みによって無理矢理呼び戻され、また飛びそうになっては呼び戻される。


 一目で致命傷と分かる傷を負いながら、シマノは倒れることなくエトルの前に立ち続けていた。溢れ出る血液も、ズタズタに裂かれた筋線維も、既に回復を始めている。

「ダメージ吸収」。唯一残したチートスキルによって、シマノは凡人ではありえない奇跡の回復を見せていた。


(けど、思ってたよりずっと……痛いな……)


 吸収と無効化は違う。吸収するためには、一度そのダメージを全て受けきらなければならない。


 痛みのあまり霞む目元を擦ろうとする、その手もエトルに阻まれ、斬り落とされる。斬ったエトル自身よりも簡単に再生するシマノの腕を見て、エトルも漸くシマノが何か特別なスキルを使っているであろうことに気がついた。


「なるほど、どちらが先に()を上げるか。根競べ、というわけですか」


 エトルはこう言ったものの、実際にはただエトルの一方的な攻撃をシマノが喰らい続けているだけだった。

 ダメージ吸収のおかげで、シマノが戦闘不能に陥ることはない。かといって、凡人のシマノが反撃できるはずもない。

 繰り広げられる一方的な戦闘に、見かねたニニィが堪らず飛び出してきた。


「お願い、もうやめて!!」


 その小さな足取りを、闇の炎が炙る。エトルが発した炎に囲まれ、ニニィは身動きが取れなくなってしまった。


「やめて、エトル! シマノが死んじゃう!」


 ニニィはいやいやと(かぶり)を振り、泣き叫びながら両手で耳を塞いで震えている。


 ニニィの悲鳴も、シマノの苦悶の叫びも、エトルの攻撃を止めることはできない。シマノの「状態保護」スキルで壊せなくなった岩のドームの中からは、外の様子を心配するセクィやユイたちの声と、必死にドームの壁を叩く音が響き続けている。


 幾度斬られたことだろう。身体中を支配する痺れるような痛みに、少しずつ感覚が鈍麻してきたシマノはぽつりと呟いた。


「死ねないのって、つらいな」


 その呟きに被せるかのように、エトルの剣がシマノの背から胴を貫く。


「何を、今更」


 吐き捨てるようなその声色は、酷く冷たい。

 無理もないな、と自嘲しながら、シマノは背中越しにエトルへ語り掛ける。


「俺、あんたとこの場所で戦うの二回目なんだ」


 剣を引き抜き、再び突き刺そうとしていたエトルの手が、止まった。

 ここまで間断なく続いていた攻撃が初めて止み、シマノの口から微かに溜息が漏れた。


「……一回目の俺は、あんたの回復が追い付かなくなるまで追い詰めて、殺した」


 足音。エトルが思わず一歩後ずさったその音を、シマノの耳は捉えた。


「あり得ない。僕が、魔王様を遺して死んだというのですか?」

「そうだよ。あんたはニニィの力を複製して、失敗した。その後俺と戦って負けて、俺に魔王を殺してくれって託して、死んだ。でも、俺は魔王を殺せなかった」


 エトルがさらに一歩、また一歩と下がっていくのが聞こえる。シマノは躊躇うことなく、一回目の結末を告げる。


「魔王は、自分で死んだんだ」

続きます!

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