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第79話-2:チートとは理不尽に強いものである

 戦いは――もはや戦いの体も為してはいなかったが――エトルの苛烈な攻撃を、シマノがただ何もせず無効化し続けている、異様なものだった。


 作中トップクラスの魔力を設定されているエトルは、これまでの戦いでボスや味方たちが放ってきた様々な武器を、魔法を、次から次へと繰り出してくる。いかにもラスボスに相応しい戦いぶりだ。


 しかしそれらの攻撃は全て、制作者たるシマノによって無力化されてしまっていた。「ダメージ無効」によって、いかなる攻撃もシマノに傷一つつけることさえ叶わないのだ。


 エトルの被っていたフードが外れ、黒く長い髪が零れた。露わになった黒い瞳には微かに焦りの色が浮かんでいる。


 エトルの容赦ない攻撃は、魔王の間の床や壁、天井や柱を躊躇なく砕いていく。程なくして、魔王の間は建物全体を巻き込んで崩壊し始めた。


「ニニィっ!!」


 シマノが無我夢中で手を伸ばす。それより先に、エトルはニニィの元へ瞬間移動すると、鎖を解き、自身とともに闇の加護でニニィを包み込んだ。

 同時に、エトルは魔王にも闇の加護を掛ける。直後、ゼノのアジトは崩壊した。


 折り重なって降り注ぐ瓦礫に、シマノは平気だと分かっていてもつい身構えてしまう。魔王の間の扉前に残してきた仲間たちは無事だろうか。確かめに行きたくとも、激しい揺れと瓦礫の雨に阻まれ、身動きが取れない。シマノは頭を庇うように抱え、その場にしゃがみ込んだ。


 揺れが収まり、シマノは恐る恐る顔を上げ、立ち上がった。アジトが崩壊したことで、シマノたちは何もない荒涼とした谷底に取り残される形となってしまった。前方に、ニニィを庇うように抱くエトルとその腕の中で恐怖に身を竦めるニニィ、浮遊する魔王の姿が見える。

 一先ずニニィの無事が確認できた。安堵したシマノは、次いでユイたちの姿を探す。


「シマノ、大丈夫?」


 ユイの声だ。急いで振り返ると、ムルとセクィが作ったであろう大きな岩と糸のドームが出来上がっていた。声はその中から聞こえてくる。どうやら仲間たちは全員無事中に収まっているようだ。


「大丈夫! みんなも無事でよかった」


 とりあえず元気に返事をしてみせたシマノに、早速キャンが不満を漏らした。


「オイシマノ~一人で何やってんだよ~心配したんだぜ~?」

「エトル様! ご無事ですか!? エトル様!」


 セクィは今にも外に飛び出さんと、中からドームの壁を強く叩いている。

 厄介な状況だ。せっかくみんなを巻き込まないよう一人で魔王の間に入ったのに、これでは元の木阿弥になってしまう。


 とにかく、エトルのヘイトを引き付け続けるよりほかないだろう。隙を見て、ニニィを引き剥がし救出する段取りも組まなければならない。


「シマノ、本当に一人で大丈夫?」

「大丈夫! ユイはみんなを頼む!」


 不安げに呼びかけてくるユイには悪いが、しばらくはその中にいてもらわないと困る。シマノはウインドウをタップし「状態保護」を掛けた。

 これでドームの状態は保護され、シマノが許可しない限り決して崩れることはなくなる。

 シマノとしてはこれで一安心、心置きなくエトルに向き合えるといったところだ。


「な? 強いだろ、俺。考え直す気になったか? エトル」


 精いっぱい煽ってはみたものの、エトルは俯いたままこちらを見ようともしない。シマノの額に冷や汗が浮かぶ。

 エトルの腕の中で、ニニィが不安げに彼の顔を見上げている。


「エトル、大丈夫……?」


 ニニィの声が届いたのだろうか。エトルはぽつりと言葉を零した。


「何故、こんな世界を作ったんです」


 その声は震えていた。


「何故、トワでなければならなかったんです。これまで何度代わってあげられたらと(こいねが)ったか、わかりますか」


 長い髪に隠されたその表情を、シマノから窺い知ることはできない。

 ただ一人、傍で見上げていたニニィがハッと息を呑み、彼の背に小さな手を回して優しく撫でている。


 ドームの中から、蜘蛛女セクィが声を上げている。


「ああ、エトル様! 今、アタシがお傍に……!」


 岩のドームを内側から何度も叩きながら、セクィは声を張り上げている。ただ残念ながら、ドームに崩れそうな気配はない。

 状態保護があってよかった、とシマノは胸を撫で下ろした。そして改めて、エトルに向き直る。

 俯き肩を落とし、ニニィに慰められているエトルの姿に、シマノはいたたまれなくなってしまった。


「エトル、聞いてくれ」


 一歩踏み出したシマノの全身を、床から突き出してきた無数の大きな棘が刺し貫いた。明確な拒絶。しかしそれも、今のシマノにダメージを負わせることは出来ない。


「トワだけじゃない、俺はあんたも助けたいんだ」


 また一歩、シマノが足を進める。その足元に、小さな魔法陣が出現する。次の瞬間、バチバチッと激しい火花を散らしながら、シマノの全身を強い電流が駆け巡った。しかしこれもまた、今のシマノにダメージを負わせることは出来ない。


「どうなってるの……?」


 即死級の攻撃を全て受けきり、平然と歩いてくるシマノに、ニニィはとうとう恐怖を抱き始めたようだ。

 怯えたような目をこちらに向け、エトルの後ろに下がろうとするニニィに、シマノの心が重く痛む。


「……ごめん。こんなの、俺の方がずっと魔王だよな」


 シマノは自らの能力に、置かれた立場に、してしまったことの大きさに自嘲する。


世界(アルカナ)を滅茶苦茶にして、エトルの攻撃も効かなくなって……すべてのおわりを発動させて……」


 その言葉に、エトルが初めて拒絶以外の反応を見せた。


「何を、言ってるんです」


 戸惑うエトルに、シマノはついやり場のない感情をぶつけてしまった。


「終わってるんだよこの世界は! 最初から。俺が終わらせたから……。俺のせいで、みんな、滅ぶって……決まってたんだ……!」


 シマノの嘆きを聞いたエトルの表情が、ふっと緩んだ。


「……ああ、よかった。世界は終わるのですね。これでやっと、トワを助けられる」


 暗く深い屍の峡谷の底から、エトルは力なく天を見上げていた。雲間から差し込む柔らかな光が、穏やかな表情を切り取るように照らしている。


 絵画のようなその光景に、つい呑まれそうになる。ぐっと足を踏みしめ、シマノはエトルにここへ戻ってきた本来の目的を告げようと口を開いた。


「違うんだ。俺は、この世界を終わらせないためにここへ来た」


 エトルの表情が、再び無に支配されていく。


「邪魔立てをしようということですか」

「そうじゃない。エトル、トワの解放を、俺に任せてくれないか」


 シマノの提案に、エトルは一切耳を貸そうとしなかった。


「黙れ」

「黙らない。この状況を作った責任は俺にある。あんたが何もかも背負う必要はないんだ」

「黙れ」

「本当は分かってるんだろ? 俺に任せれば、トワを救えるって」


 頑ななエトルに対し、シマノも折れずに立ち向かう。それが余計にエトルの怒りを買った。


「黙れと言っているのに、伝わっていないようですね」


 エトルはニニィから離れ、シマノへと一歩近づいた。その右手に、黒い剣を。初周時にセクィに向けたのと同じ剣を生成し、握る。黒い瞳は明確な殺意の炎を宿し、真っ直ぐシマノを見据えている。

 今のエトルにシマノの言葉は届かないだろう。シマノも同じく剣を生成し、構える。


 制作者と、魔王の兄。妹のためにこの世界を作った者と、妹のためにこの世界を終わらせようとする者が、屍の峡谷の果てで今、切っ先を交える。

今回の好きなゲーム・番外編【人狼NET】

もう何年も前ですが、NET国にいました。あのころ一緒に遊んでくれたみんなありがとう!

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