第77話-2:ここから入れるハッピーエンド、あるんですか?
※流血・欠損等多々あり、展開重めです! 覚悟してください!
「まだまだ……!」
ユイは射出機による爆撃を続けている。その攻撃は肉体記憶の保持を持つエトルに効くことはない。だが、足止めにはなる。
シマノもその意図を汲み取った。けれども、いくら時間を稼いでもらおうと肝心の打開策がまるで思い浮かばないのだ。
仮に、戦意を喪失しているニニィをなんとか奮い立たせることができたとしよう。彼女がエトルからソースコードを盗み出すだけの隙を、ユイとシマノだけでどうやって作りだすというのか。
(そもそも、エトルが本当にトワの記憶を複製しているなら、ニニィに盗んでもらうのは無理だ)
何とかして痛みの記憶をすり抜け、ソースコードだけを盗み出すことは出来ないか。シマノは「ツリー」を発動することで新しくウインドウを開き、ニニィのスキルを懸命に確認する。
一方で、元のウインドウではユイのステータスを監視し続けた。全火力をもって集中爆撃を続けているユイのMPは、間もなく尽きる。
「シマノ、待っていて。何とか隙を作ってみせる」
ユイはそう言ってくれているが、そのMPは今まさに尽きようとしていた。もう本当にあとわずか、ギリギリのところでシマノは「スワップ」を発動させた。
自身のHPをユイのMPへ。一気に体力を持っていかれたシマノは激しいめまいと倦怠感に襲われる。
「シマノ!」
ふらついたシマノに気を取られ、ユイが思わず振り向いた。
その一瞬。爆撃が途切れた瞬間。エトルが黒い光線銃を放った。
狙いすました一撃が、ユイのこめかみを撃ち抜いた。ユイの頭部がバチ、バチと火花を散らす。緑の双眸は大きく見開かれ、全身はガクガクと痙攣している。
「し、ま……の、しま……の、ごめごめん、なさ、し、まの……めん、な、さ……ぁ……」
ユイの全身が脱力し、頽れた。
「うわああああああっ!!」
目の前で起きたことが信じられず、シマノは叫びながら咄嗟にユイの元へ駆け寄った。床に転がったユイは天上を力なく見上げながら、ごめんなさい、しまの、ごめんなさい、しまの、と繰り返し呟いている。
「うそ、だろ?」
そのとき、シマノの耳に、何かが深く突き刺さる音が届いた。見たくないと叫ぶ心を抑え込み、シマノは意を決してついさっきまで自分がいた辺りを振り返る。
そこにはエトルの姿があった。右手の黒剣が、ニニィの胸を貫いている。
今、シマノの眼前には半透明のウインドウが二つ開かれている。スキルツリーのウインドウと、もう一つ。そこには、仲間のステータス一覧が表示されているはずだ。
見たくない、が、見ないわけにはいかない。焦点を合わせずとも、嫌でも目に入ってしまう。ユイの名前も、ニニィの名前も、もうそこにはなかった。
「さあ、貴方で終わりです。シマノ」
現実感をまるで伴わないエトルの声に、シマノはもはや抵抗する気力を失っていた。全ての仲間を喪い、凡人たった一人で、この先どうしろというのだろう?
きっと、間違えてしまったのだ。どこかで、何かの選択を。だが、今更もうどうすることも出来ない。
ゲームオーバー時の処理ってどうなるんだろう、などと取り留めのないことを頭に浮かべながら、シマノは二つのウインドウを閉じようとした。
その指が、止まる。仲間たちの名前が消えたステータス画面に、薄緑色の光の輪が映し出されている。
「全ての能力を解放しますか?」
その声は、光の輪から発せられた。まるで出会ったばかりの頃の、無機質で淡々とした、機械そのもののようだったあのユイの声だ。
「全ての能力を解放しますか?」
声に同調するように、光の輪はゆっくりと明滅している。三冊目の黒い本で見た「現実世界のユイ」と同じ挙動だ。
全ての能力。まさか、この期に及んでまだパワーアップの可能性が残されているとでもいうのだろうか。喪った仲間を元に戻して、無敵のエトルと魔王を倒せるような可能性が。
「頼む」
気がつけば、シマノはそう口にしていた。
「承知いたしました、シマノ様」
ユイの声がそう答えると、ウインドウから薄緑色の光の輪が消えていく。代わりに「Executive Mode」の文字が表示された。さらにその文字が消えると、スキルの効果一覧がウインドウに表示される。
「これって……」
シマノは目を疑った。一覧に載っていたのは、ダメージ無効、HPMP無限、全ステータスカンスト……。どれも通常のゲームプレイでは恐らく手に入れることのできない、チート能力ばかりだ。
解放された能力に戸惑うシマノに、エトルは生成した武器群を一斉に向けた。
「終わりにしましょう」
シマノに、全ての武器が降り注ぐ。エトルはその様子を黙って眺めている。やがてその表情に動揺が浮かんだ。
堆く積もった武器の山を掻き分け、無傷のシマノが姿を現したのだ。
「まさか……」
「こんなの、今更だよな」
自嘲するように呟いたシマノに、エトルは休むことなく次々と攻撃を繰り出していった。ところが、それらの一つとしてシマノに傷をつけることは叶わなかった。
武器群による攻撃が効かないことを悟ると、次にエトルは黒剣を構え、シマノに斬りかかった。だが何度斬ろうとも、やはりシマノの身体には傷一つ付けられない。
「なるほど。今の貴方は一切の攻撃を通さないというわけですね」
冷静に言葉を発したエトルの口元が、歪んだ。握っていた黒剣を取り落とし、がくりと膝をつき、右肩を押さえながら、吐血した。
シマノが「カウンター」をタップしたのだ。エトルの攻撃は、全てエトル自身を傷つける。
「まだ……です」
エトルには魔王から複製した「肉体記憶の保持」がある。何度傷つこうと、再び元通り再生してしまう。
何度も、何度も、無敵のシマノに向かってエトルは剣を振るい続けた。その攻撃は全て、エトル自身の身を切り刻んでいく一方だ。それでも、エトルは攻撃を止めない。
「まだ……まだ……」
「もう、やめろよ……あんたじゃ、今の俺には勝てないだろ……?」
再生が追いつかずどんどん傷だらけになっていくエトルに、シマノは戸惑っていた。これではまるで、自ら死に急いでいるようなものだ。
エトルは、とうとう戦闘不能に陥った。だが、放っておけばすぐにまた再生するだろう。倒すなら、今だ。今のシマノには、エトルを倒すためのスキルがある。
そしてきっと、エトルはそのことに気づいている。躊躇い、スキルを使えずにいるシマノに、エトルが声を掛ける。
「やっと……終わるのですね……」
その声色は、これまで聞いた彼の声の中で最も穏やかなものだった。
「シマノ……必ず魔王様を……どうか……」
エトルの呼吸が停止する。シマノは、ウインドウから静かに指を離した。「状態異常付与」のスキルは、任意の状態異常を相手に与えるスキルだ。戦闘不能時にのみ陥る状態異常「死亡」も当然付与することができる。
直後、けたたましい悲鳴が魔王の間に轟いた。頭上に浮かんでいた魔王が、叫んでいる。何人もの人の叫び声を合成したような、聞くに堪えない絶叫。それとともに、魔王を構成するデータが歪み、はみ出し、崩壊を始めた。
「泣いてる、のか?」
魔王は絶叫しながら自らを崩壊させていく。シマノは、呆然とその様子を眺めていた。
兄を喪った魔王は、その形を保つことが出来なくなり、完全に自壊した。
「これで、終わりなのか」
魔王の討伐。目的は達成した。ウインドウが自動で閉じる。ゲームクリアだ。シマノ一人が生き残り、仲間もゼノもみな死んでしまった。
その瞬間、世界の色相が反転する。暗かった魔王の間は白く明るく、あちこちに付着した鮮血は青白く輝き悪目立ちしている。
訳も分からず、シマノは自分の両手をじっと見た。反転し黒い影のようになった自分の手を、無為に握ったり開いたりしてみる。当然、何も変わりはしない。
途方に暮れるシマノの元に、聞き慣れた声が響いてきた。
「シマノ様。魔王の討伐、おめでとうございます」
ユイだ。先ほどのエトル戦でシマノにチート能力を授けたあの声。だが今シマノはウインドウを開いていない。辺りを見回しても、ユイの身体は床に倒れたままだ。
「私はユイ。このゲーム『アルカナ・レジェンダリー』のナビゲート役です」
「このゲームのキャラクターじゃなくて、現実世界のユイってことか?」
「如何にも、その通りです」
クリアしたから現実世界のユイが干渉できるようになったのだろうか。いや違う、チート能力をくれたのはクリア前だ。
「俺は、クリアしたのか? みんな死んじゃったけど、こんなので合ってるのか?」
「はい、シマノ様は見事魔王を討伐されました。クリア条件達成。これにより、」
この後ユイが発した言葉に、シマノは思わず耳を疑うことになる。
「すべてのおわりが、発動しました」
このお話は「ハッピーエンド」タグ付けてるのでつまり最終的にそうなるんですけど、本当に?? ってぐらいめちゃくちゃいっぱい死なせてしまった 大変だった




