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第76話:それはそれ! これはこれだ!

※痛かったりしんどかったりする描写が出てきます!

「あたしが、全部終わらせるから。魔王様を助けるから。だからもう、誰も傷つけないで」


 ニニィの声に、エトルの手が止まる。突き付けた黒剣の切っ先は、真っ直ぐセクィを捉えたままだ。


「ご協力、いただけるのですね」


 深い安堵を滲ませたエトルの声に応えるべく、ニニィはふらふらと立ち上がり、彼の元へと向かおうとする。


「待ってニニィ!」


 シマノは堪らずニニィの両肩を掴み止めようとした。その手を、ニニィの小さな手が力なく除けようとする。


「シマノお願い、放して」

「いやだ」

「あたしは、もういいの。ピクシー狩りの首謀者を殺した。これ以上望むことなんてない。あたしの命が必要なら、それで構わない」


 ニニィはシマノに目も合わせようとしない。投げやりな、何もかも諦めてしまったかのような口調がシマノの心に突き刺さる。


 俺のせいだ、とシマノは自らの行いを責め立てた。プレイヤーとしての俺のこれまでの選択が、制作者としての俺が書き上げたシナリオが、ここまでニニィを追い詰めてしまった。

 このままニニィをエトルの元に行かせるわけにはいかない。せめてそれだけは、止めなければ。


「ニニィ、ごめん。俺のせいだ。全部、俺のせいでこんな……」

「バカね、キミは悪くないでしょ。これはあたしが選んだこと。あたしの選択の結果」


 違う、違うんだ、とシマノがいくら思っても、この世界の住人であるニニィには伝わらない。

 悩み苦しむシマノに、エトルが追い打ちをかける。


「ニニィをこちらへ。そうすれば、これ以上誰も傷つくことはありません」


 黒剣の切っ先を動かすことなく、エトルはシマノに選択を迫った。


 当然受け入れるわけにはいかない。だが、世界が終わってしまうこと――間違いなく「すべてのおわり」が発動することを指しているだろう――そちらも絶対に避けたい。


 何と答えたらいいだろう。答え方ひとつでこの先の展開は分岐するかもしれない。たった一言が、取り返しのつかない最悪の事態を引き起こすかもしれない。唇が震え、喉がつかえてうまく言葉が出てこない。こんな時に限って、選択肢のウインドウは出現しない。


 そのとき、焦燥感に押しつぶされそうなシマノの耳に、仲間の力強い声が届いた。


「っざっけんじゃねー!! これ以上誰も傷つかないって!? ニニィおねーさんが傷つくだろーが!!」


 キャンの声に、シマノは息を吞んだ。迷い、焦り、濁った頭の中がすっと晴れ渡っていく。

 続いてユイが振り向き、ニニィに語り掛けた。


「ニニィ、ゼノのアジトに行った日、私と約束したのを覚えている? 一人で無理しないで、私に相談すること。シマノたちには絶対に危害を加えないこと。……アジトに向かった理由を、あなたからシマノに話すこと」

「っ……!」


 ニニィの肩がびくりと跳ねた。ユイは淡々と、決してニニィを責めることなく落ち着いた様子で望みを伝える。


「エトルに協力する前に、シマノともう一度話をして」


 ユイの言葉を受けたニニィは、目を伏せたまま暫く黙り込んだ。が、やがて意を決したようにシマノと向かい合った。

 面食らったのはシマノの方だ。ニニィが離脱してからずっと、もう一度話したいと思っていた。それなのに、いざその望みが叶うとなったら、何を話したらいいかさっぱり思い浮かばないのだ。


「……なんで、」


 ニニィが話し出すより前に、シマノの口から気持ちが溢れ出してしまう。


 なんで、情報の対価に命を差し出した? なんで、独りでエトルに縋った? なんで、俺たちを頼ってくれなかった?


 気持ちは、言葉の形をうまくとれないまま、もう一つ分の「なんで、」という呟きになって零れていく。

 ニニィを責めたいわけじゃない。それなのに責め立て、詰るような感情が次から次へと押し寄せてくる。そんな資格俺にはないのに、とシマノはひとりやり場のない想いを抑え込んだ。


 そんなシマノを前に、ニニィが静かに口を開いた。


「あたしはキミたちとは違う。目的のためなら何だってしてきた。人も殺したのよ。ティロだけじゃない。キミたちに会うよりずっと前に、お世話になった大切な人を、この手で殺してる。本当のあたしは、キミたちと一緒にいられるような、きれいな人じゃないの」


 ニニィの瞳が真っ直ぐシマノを見上げる。シマノは何も言えず、黙ったままニニィの言葉の続きを待った。


「ずっと独りだった。独りで平気だった。でも、平気じゃなくなっちゃった。世界の狭間に落ちた時、真っ暗な闇の中で、あたし、大丈夫じゃないってわかっちゃったの」


 ――始めは、興味本位だった。情報を盗れない存在。ピクシー狩りの首謀者探しにも行き詰って、当てもなく放浪していたニニィにとって、付いていこうと思わせる面白そうな二人組。それがシマノとユイだった。


 いつの間にか彼らが、ムルが、キャンが、かけがえのない存在になってしまったのだ。


「だから、離れなきゃダメだった。ピクシー狩りの首謀者に復讐する、それがあたしのやるべきことだったから。目的のために人を殺せる、独りぼっちのあたしじゃなきゃダメだったの」


「だから、ゼノに付いたのか」


 シマノが口を挟んだ。ニニィは否定せずそっと頷く。


「そうよ。エトルと約束したの。情報をもらう代わりに、あたしの力をあげるって」


 ニニィはふっと遠くを見るように、シマノから視線を外す。


「光に、手を伸ばしちゃダメだった。あたしはずっとこちら側。巻き込んじゃってゴメンね、シマノ」


 シマノは答えない。それをニニィは肯定と捉えた。


「さよなら」


 もはや両肩に置かれているだけのシマノの手をそっと払い、脇を通り抜け、ニニィはエトルの元へと向かう。


 その小さな手を、シマノの手が握った。


「嫌だ。俺はニニィに、俺たちと一緒に戦ってほしい」


 それはシマノが心の底から絞り出した、ただ一つの願いだった。

 しかしニニィは、振り向くことなく首を横に振る。


「無理よ」

「どうして」

「言ったでしょ、あたしはキミたちと一緒にはいられない」

「人を殺したから?」


 シマノの直球すぎる質問に、思わずニニィは口ごもった。シマノは構わず話し続ける。


「それはそれ! これはこれだ!」


 予想外の発言に、ニニィだけでなくユイも目を丸くした。


「俺はその……たぶんサブイベ見逃してるから詳しい事情は分かんないけど……けど、必要だったんだろ? そうしなきゃなんなかったんだろ? だったらそれでいいよ。俺たちが口を挟むことじゃない。ティロの事だって、とどめを刺したのはエトルだからセーフ!」

「シマノ……」


 正直なところ、ニニィにとってシマノの話は突飛すぎた。だが、自分を想って言ってくれていることだけは伝わってくる。


「我もだ」


 予想外のところから同意が飛んできた。ムルだ。


「我もかつて主を殺した罪がある。お前の復讐を咎める権利は、少なくとも我にはないはずだ」

「ムル……」

「オ、オレだってミミズとか、やっちゃったし!?」


 何故ここで話に入れると思ったのか。無理に張り合おうとするキャンにニニィは思わず笑ってしまった。


 仲間の声に背を押されたかのように、シマノはニニィの手を握り直し、その背中にありったけの思いを投げかける。


「何より、ニニィをここまで追い詰めたのは、この世界だ。悪いのはニニィじゃない。こんな、理不尽で、クソみたいで、どうしようもない世界を作った奴が悪い。そうだろ!?」


 自責の念に堪えかね、思わず声が大きくなってしまった。目に、熱いものがこみ上げる。ぼろぼろと零れるそれを、シマノはどうしても止めることができない。


「泣いてる……の?」


 ニニィが振り返り、心配そうにシマノの顔色を窺う。その背後でユイも悲しげにシマノを見つめていた。

 きっと、今の自分はこの世界で一番カッコ悪いだろう、とシマノは自嘲する。それでも、どんなに惨めでも、何が何でもニニィを引き止めたい。


「頼むよ、ニニィ。力を貸してくれ。俺は、ニニィと一緒じゃなきゃ嫌だ。ニニィと一緒に、この冒険を終わらせたいんだ」


 零れた涙が顎を伝い、床にぽたぽたと染みを作る。その涙を、精一杯背伸びしたニニィの指先が、そっと拭った。


「…………もう、しょうがないわね」


 ニニィが、困ったように微笑みながらシマノを見上げていた。


「JOINED」


 ウインドウが開き、ニニィのパーティ再加入をシマノに知らせた。


「ニニィ~~~~!」


 張っていた気が緩み、シマノは泣きながらその場にへたり込むようにニニィを抱きしめた。その様子を見た仲間たちもニニィの再加入を察したのか、各々喜びの声を上げている。


 束の間の喜びを撃ち砕き、和らいだ空気を凍り付かせる一声が、シマノたちの耳に届く。


「交渉決裂、ですか」


 エトルの声だ。次の瞬間、右手に構えた黒剣を、エトルは一切の躊躇なくセクィへと振り下ろした。


「やめろーっ!」


 キャンが聖剣を構え、素早く飛び掛かった。その動きを見透かしていたかのように、大量の黒い武器がキャンに向かい一斉に放たれる。


「させぬ!」


 ムルが石の盾を発動した。頑丈な盾に守られたキャンは狙い通り踏み込み、聖剣を振り上げ、エトルに斬りかかる。

 エトルは姿を眩まし、少し離れた地点に移動した。黒剣は振り下ろされることなく、エトルの手元に残ったまま。結果的にセクィは助かった。


「キャン、セクィ、無事か?」

「おーっ助かったぜ! サンキューな、ムル!」


 笑顔で答えるキャンを見て、ムルは小さく安堵の溜息を吐いた。


「なら、よかっ……」


 そのとき、シマノたちは誰も何が起きたのか把握できていなかった。

 大量の石をキャンに集めたことで、ムルの守りが手薄になったことも、ムルが魔力を大きく消費してしまったことも。


 それに気づいたエトルが、次の標的をムルに定めたことも。


「あ……あ……」


 巨大な黒い槍がムルの身体の鉱石を刺し貫いている。

しばらく痛かったりしんどかったりする場面が続きます!

無理せず元気な時に読んでいただけるとありがたいです!

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