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第75話:最後の生き残り

※血が出たりほか痛そうな描写が出てきます! ご注意を!

 魔王の間に浮かぶ異形。それを魔王と呼び、(かしず)き、救済するために、エトルは手を差し伸べた。ダークエルフ最後の生き残りとして、為すべきことを成し遂げるために。


 異形の魔王は、差し出された手を前に、腕を一本生成し、同じように差し出した。さらに一本、また一本、次から次へと腕を量産し、何十本もの腕を全てエトルに向けて伸ばしている。


 エトルがそのうちの一本に触れた。その瞬間、魔王がけたたましい悲鳴を上げた。老若男女あらゆる音声をやみくもに合成したような、無秩序でおぞましい叫び。


 堪らず耳を塞ぎたくなるようなその声にも、エトルは一切の動揺を見せない。悲鳴と同時に魔王の生成した腕は全て黒く鋭い無数の棘へと変化し、エトルの手を、腕を、ズタズタに刺し貫いた。その痛みにも、エトルは眉一つ動かさなかった。


「大丈夫、もう終わりますよ」


 宥め、諭すようにエトルは魔王へと声をかける。だが、魔王の悲鳴は止まらない。それどころか、魔王は新たにユイの光線銃を何倍もの大きさに拡大したかのような巨大な大砲を生み出し、その銃口をエトルに向けた。砲身にエネルギーが充填されていく。


「やはり……駄目なのですね……」


 傷だらけの腕から血を垂らしながら、エトルは力なくつぶやいた。異形の魔王を、自身に向けられた銃口を、ただ見つめたまま。

 魔王はそんなエトルの様子には一切構わず、生成した大砲から強烈な光線を撃ち放った。


「させぬ」


 ムルが石の盾を生成し、かつての主エトルを護る。


「じゃあオレも!」


 キャンもムルに倣い、聖騎(アルティメット)士の(・パラディン・)盾4枚(シールド・フォー)を飛ばす。


「エトル様!」


 セクィの糸がエトルを繭のように包み込み、シマノたちのいる方へ引きずり下ろした。盾と糸による護りのおかげで、シマノたちは光線の脅威からなんとかエトルを救出することに成功した。


「盗めなかった……僕ではできないのか……」


 助けたはずのエトルの様子がおかしい。独り言ちる声も、じっと見ている両手も、傍目にもわかるほど震えていた。彼がこれまで見せてきた余裕が、全くなくなってしまっている。


 ユイは、エトルの異変にいち早く感づいていた。


「シマノ」


 緊張感のある声がシマノの耳に届く。シマノもユイも考えは同じだった。恐らくエトルは魔王の救済に失敗した。彼の執着ぶりからして、このまま終わりということはないだろう。確実に、何か仕掛けてくる。


 予想通り、エトルがニニィのいる方へゆらりと向き直った。

 その瞳は、昏く深い闇を湛えている。


「すみません、ニニィ。やはり貴女の力を借りなくてはならないようです」


 口調こそいつも通りだが、表情も声色も一切の余裕を感じさせない。キャンたちも異変に気づいたのか、ニニィを庇うように、シマノとユイよりもさらに前に出てエトルを牽制している。


「ダメに決まってんだろバーーーーカ!」

「どいてください。僕は何としても彼女に協力いただくほかなくなってしまった」

「あの魔王からは石の声と同じものを感じる。エトル、あれは何だ? 我らにも関わりのあるものなのか?」

「答えるつもりはありません」


 キャンとムルからの問いかけもおざなりに、まるで彼らなど眼中にないとでも言いたげなエトルは、一歩、また一歩、ニニィへと近づいてくる。


 このまま接触させるわけにはいかない。


「エトル、あんたの能力は人には使えないって言ってたな。ってことは、この魔王は、人なんだな?」


 見え透いた時間稼ぎだろうと、無いよりはましだ。せめてニニィが起き上がり自分で動けるようになるぐらいの回復は待ちたいし、そもそもエトルは不意打ち無しの正攻法で勝てる相手ではない。

 ボス戦っぽいし、戦闘前の会話イベントぐらいあるだろう。と読んだシマノは、エトルが食いつきそうな話題を投げてみた。


「……何を今更」


 素っ気ない反応ではあるが、食いついた。シマノは心の中でも外でもグッと拳を握る。


「なんで、人の姿を保てなくなった?」


 シマノの言葉に、エトルは何か考えを巡らせているのか、暫し黙り込んだ。


「…………そうですね。確かに、何故魔王様が()()なったのか、お伝えした上でご協力いただくのが筋というものです」


 会話イベント突入だ。シマノは再び心の内外でグッと拳を握る。


「僕には一人、年の近い妹がいました。妹も僕と同じように『記憶』にまつわる能力――『肉体記憶の保持』を持っていました」


 魔王ではなく急に妹の話が始まり、シマノは面食らった。

 だがいちいちツッコんでいても仕方がない。ここは大人しく続きを聞こうと、シマノは黙ったまま耳を傾ける。


「『肉体記憶の保持』……肉体のあるべき姿を記憶し、その姿を永久に保持する能力です。能力が発現したその日から、妹は年を取らなくなりました。全ての成長が止まると同時に、彼女の身体はどんなに酷い傷を負っても『記憶』通り再生できるようになった。それに目を付けたのが、王家です」


 悪い予感がする。シマノは自分が酷く嫌な汗をかいているのを感じた。


「王家の行った実験によって、妹にはアルカナ全人類の一生分を優に越える苦痛が付与されました。ティロも実験の一環として産んだようです。他にもたくさんの兄弟を産み落としたようですが、ティロ以外はすべて死んでしまいました。その全ての記憶を保持したまま、彼女は幾度も再生を繰り返し……壊れてしまった」


 エトルは異形の魔王を見上げ、ゆっくりと、まるで自身に言い聞かせるかのように語る。


「魔王トワ様は未来永劫死ぬことができないまま苦痛に苛まれ続けていらっしゃるのです」


 シマノの悪い予感は的中してしまった。あの異形は、ぐちゃぐちゃなデータの塊になってしまったのは、エトルのたった一人の妹だったのだ。突き付けられた事実に、意図せず乾いた笑いが込み上げる。


(何考えてんだよ……俺……)


 誰だよこんなストーリー考えたのは。俺だよ。これで妹と一緒に遊ぼうとしてたのか? 冗談だろ? 何考えてたんだよ、昔の俺。

 仲間たちも、エトルの話に多かれ少なかれショックを受けたようだ。ニニィとセクィは、このことを知っていたのだろう。だからこそ、止めようとしていたのだ。


 魔王となった妹を見上げるエトル、その横顔を眺めながら、シマノは静かに決意した。


 ――止めなきゃ。


 このまま戦って元の世界に戻るわけにはいかない。エトルを、魔王を、何としても救わなくては。


(そうじゃないと、俺は(カナミ)に合わせる顔がない)


「ユイ」


 シマノの呼びかけに、ユイは目を合わせ、力強く頷いた。


「シマノの望みなら、必ず叶える」


 心強い返事に、シマノはホッと表情を緩めた。

 だが、シマノの安堵は一瞬にして立ち消えることとなる。


「貴方に、選択肢を二つ提示しましょう」


 こちらを見向きもせず、しかしながら明確にシマノに向けて、エトルは言い放った。


「ニニィを差し出すか、この世界を終わらせるか」


 エトルの足元から、巨大な魔法陣が出現した。展開される術式はシマノたちの足元を経由し魔王の間全体へと広がっていく。


「おいおい、なんかやべーぞ……!」


 キャンが緊迫した様子で聖剣を構え直した。ムルもユイもニニィを庇うように立ち、いつでも戦闘に入れるよう備えている。


 エトルの周囲に黒い魔力が迸った。彼が腕を伸ばすと、その動きに合わせて魔法陣から斧、槍、剣、多種多様な黒い武器たちが生成されていく。

 気がつけば何十本もの武器群がエトルを取り囲むように浮遊し、シマノたちに狙いを定めていた。


「さあ、どうします?」


 そう問いかけるエトルの声は優しい。しかしその目は笑っていない。

 そんなエトルの様子に堪えかねたのか、セクィが声を振り絞って訴えかけた。


「エトル様……お願い……もうやめて……」


 決死の訴えは、余裕を失った今のエトルには届かない。


「邪魔立てをするのなら、まずは貴女から始末しましょうか」


 漆黒の双眸が床に這うセクィの姿を捉える。その無慈悲な言動にキャンがいきり立って反駁した。


「オイ! 蜘蛛おねーさんはお前の仲間じゃねーのかよ!」

「世界を終わらせるのであれば、順番など些末な問題です」


 エトルの手が、浮遊する黒剣の一本を掴む。切っ先が、セクィを捉える。セクィは、己の無力にただ唇を噛み、俯いた。


「――待って!!」


 声は、シマノのすぐ傍から響いた。


「あたしが、全部終わらせるから。魔王様を助けるから。だからもう、これ以上誰も傷つけないで」


 小さな体をふらふらと起こし、自らエトルに協力を申し出たのは、ニニィだった。

今回の好きなゲーム【パネルでポン】

NSOで令和にパネポン対戦出来るようになると思ってなかった 強い人いっぱいでめちゃくちゃ楽しかった

みんな遊んでくれてありがとう


======================

記念すべき100作目! というわけで「今回の好きなゲーム」シリーズは、

ポケモンでパネポンに始まり、パネルでポンで終わりたいと思います!

うっかもはもう少し続くので、この先の後書きも暫くは好きなゲームについて

語ったり語らなかったりする予定です。


引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます~!

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