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83.身体のあるお化けの解② -吊るされた男-〈下〉

読了目安 2~4分

 ◆


 縞が黙らされると、フィーは徐々に落ち着きを取り戻しだした。その間にコレがどういう経緯でここに居座っているのか、イチヘイは所々を端折りつつ簡潔に語っていった。


 話は聞いているのか、フィーの耳はイチヘイの方を向いている。その仕草は先程までとは打って変わり、むすっとした顔で縞を睨みつけていた。さらに縞に対して、人差し指で強めに突っつく、デコピンする、などの行為を執拗に繰り返している。


 本気で傷つける気はなくても、やはり不快ではあるらしい。


「イチのこともハナトちゃんのことも苛めて、それにボクの巣蜜も台無しにして、ボク、コイツ許せないのよう! この、へんたいノゾキねこー!」

「むんっ! ううううう!! うう!! むううううううううう! うううううー!!」

「んええ〜? なにいってるのかわかんなーいのようー?」


言って、意地悪い笑みを浮かべながらあっかんべーしている。縞も不愉快そうに眉を釣り上げて何か言っているが、もはや成すすべはない。

 猫がおもちゃを小突き回すような生ぬるさで、フィーは縞をいじり倒す。その背中を、ハナトが斜め後ろから見つめている。


 そんな中、自身が頭を抱えた部分だけは適当に脚色しつつ、イチヘイはコレの所業を語り終えた。ぼかして話してみてもなかなかであるが、この馬鹿が救いようがないことが伝わればいい。


「……そんな感じだ。可愛いのはまっじで見た目だけだぞコイツ」

「んんんむむ!!」

「はっ、何言ってるかわかんねえなー?」


 ちなみに縞から三〜四歩ほど離れ、イチヘイはフィーと向かい合わせに立っている。縄を軸に時々くるりと回転してこちらを向く馬鹿に、フィーに同調し同じセリフで嘲笑う。


 すると今までになかったことだったからだろうか、フィーの目が一瞬、驚いたようにイチヘイを見上げ、けれどすぐその視線は外れた。また縞を見つめだす顔に、薄い狂気か、あるいは気のせいかどこか絶望を孕んだようにも見える色を帯び、へら、と笑った。


「んへへへ? やっぱり嫌いよう、猫オジサン!」


 そんなフィーの様子を眺めながらも、イチヘイの胸の内はさっきの彼女の言動、そして自分の心に起きたことを不思議に思っている。


(……どうしてあんなに必死になって止めた?)


 イチヘイは他人との関わりをずっと最小限に留めてきた。それを無愛想だ、気に入らないだのと突っかかってくる連中も中にはいたが、そういう奴らはこれまでフィーが率先して排除していた。それが、イチヘイが怒ったらこうだ。


 (思えば兆嘴商会の奴らから花登を救おうと、俺がルマジア(こっち)に来て初めてキレたときもコイツ、なんか叫んでたな……)


 今までと何がちがうのだろうか。いまのこの様子と同じくただの狂人の戯れ言なのだろうか。


 それにあれ以来、イチヘイ自身も、感情がよく動くようになった気がしている。さっきも怒った。それも今ならぜんぶ、フィーを思っての怒りだったとわかる。


 しかし、そもそもなぜ自身ではなくフィーのことで自身がこんなに怒ったのか……いまだ欠けたままのイチヘイには、良くわからなかった。

 

(? なんだ? この気持ち……)


しかしそのとき、近寄ってきた気配に横から袖を引かれる。


「……イチ()!」


 花登だった。


「んえー、ばーかばーか! きらいきらーい!」

「んうう?! むーむむーむ!」


 目前の、程度の低い言い合いを見かねたのかもしれない。縞のほうも左右に揺れながら、(発音の抑揚から察するに)言うに事欠いて『ばーかばーか』などとかましているようだ。


 イチヘイも眉をしかめた。案の定、しっぽのある二人を指差した花登も、『どうする?』とでもいいたげな困惑顔で彼を見上げてくる。


「どうするか……そうだな」


 引き戻された現実を突きつけられている。このままここに吊るして置くのも目ざわりだし、どうにかした方がいいだろう。しかしイチヘイとしては、このどうしようもない馬鹿は、ゴミ同然であった。普通に邪魔である。


「穴掘って埋めるか」

「ぬぇ……?!」


冗談ではなく、本気の声と顔で言った。しかし、何故か隣の小さい上背には目を丸くされる。だが縞がどれほどタチの悪い男か、花登は理解しきっていないのかもしれない。


 彼は目前の同胞を見下ろし、見上げてくる瞳と視線を合わせた。口にする内容はともかく、彼女に対しては真摯に口を開く。


「お前も、コイツのとこに捕まってたんだろ? お前が酷いことされたんなら、コレは俺にも敵だ。

 それに万一、赦して追放してやってもコイツの目的は『元に戻ること』だぞ? ……コレの性格からして、永遠に付きまとってくる可能性が高い、タチの悪い馬鹿だからな。

 ゴミとして埋めちまうのが一番手っ取り早い」


 しかしそこで彼女から飛び出てきた言葉は、イチヘイには信じ難いものだった。


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― 新着の感想 ―
イチヘイが随分と物騒なことを言ってますけど、当然ですね〜。 徹底したお仕置きが待ち遠しいですよ! ⁽⁽◝(•௰•)◜⁾⁾ しかし、ハナトの考えは違う? 次が気になります。 (´・ω・`)
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