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4. 悔恨の檻 (1)

貴族専用の拘禁施設。

格式だけは保たれているが、その内実は「落ちた者」たちの静かな終焉を待つ場所。

その一室に収監されたカルザラット・カーヴェルは、ぼんやりと窓の外を見つめていた。


光のない視線は、ただ虚空を彷徨うばかりだった。


「……やり直せると思っていたのに」

その呟きは、誰に向けたものでもない。

ただ、空虚な胸の内を埋めるための言葉だった。



カルザラットにはもう一つの記憶があった。

それを前世の記憶といっていいのか、ともかく彼には一度目の記憶があった。


かつて、エレノーラは優しい妹だった。

カルザラットを慕い、少し舌垂らすな言葉で「おにぃさま」と無邪気な笑顔で甘えてきた。

書物を読み聞かせれば眠るまで聞き入り、馬術の訓練に同行すれば、泥だらけになりながらもついてきた。


それが“家族”であり、“絆”だった――と、信じていた。


だが、すべては崩れ去った。

マグリットがこの家に引き取られてきた日から。


「……エレノーラお姉様が、いじめるの」


マグリットが虐められていると知ったとき、信じられなかった。

だが、涙ながらに訴えるマグリットは、どうしても嘘をついているようには見えなかった。

あの優しいエリーに戻ってほしくて――カルザラットは、叱咤を繰り返した。


「わたし、いじめなんてしてない!信じて……お願い、お兄様信じて!」

泣きじゃくるエレノーラが、縋ろうとして伸ばした両手をカルザラットは払いのけた。


「まだそんな嘘を吐くのか……!いつからお前は、そんな腐った性根になったんだ!」

打ち据えたのは、衝動だった。

エレノーラは怯え、唇を震わせながら、それでもなお、声を絞り出した。


「わたしは……わたしはマグリットをいじめてないわ」

その声を、カルザラットは振り切るように叫んだ。


「もういい! こいつを部屋に連れて行け!」

冷ややかな視線を向ける使用人たちに目配せし、エレノーラは無理やり引き立てられた。

泣きながらも兄の名を呼び続ける声は、いつまでも耳に残った。


そしてあの日、忘れもしない出来事が起きた。


「お姉様に……押されそうになったの!階段の上で――私怖くて…必死に避けたの…!そしたらお姉様が!」


階段の下に倒れたのはエレノーラだった。

額を打ちつけたのか血を流しながら、助けを求めるように呻き声が聞こえてくる。

マグリットは、泣きながら震えながら、エレノーラに謝り続けていた。

私が避けなければ、私が落ちればこんなことにはと。

カルザラットはその光景を目の当たりにし、エレノーラはもう駄目だ、そう決めつけた。


彼の中で、妹、エレノーラは“恥”となった。

マグリットの命まで脅かしたエリーに「昔のエレノーラはもういない」のだと突きつけられたのだ。

そう、勝手に裏切られた気になっていたのだ。


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