フジイ天帝
あかん、ギャグ話にしようとしたのに、ちょっといい話風になってしまった。てんてーがカッコ良すぎるから……
これはもうダメだわ、詰んでる。
新米の女流騎士、カロリーナは絶望の表情を浮かべた。
街の城壁から北方をみると、竜王軍の大軍勢が、本来緑であるはずの大地を黒く染めあげていた。遠目に見てもわかる、もの凄い数だ。
しかし
「諦めないで」
『僕殺ムーミン』の異名を持つ女戦士が言う。
「希望はあるわ」
最近結婚した雲雷の魔術師も続く。
2人の言葉にカロリーナはハッとした表情を浮かべた。そして「……確かにそうですね」とニヤリと笑うと、2人の先輩と頷き合い、希望の言葉を口にする
「「「だってこの国には、天帝がいるもの!」」」
ここはミノー帝国。
30年前、異世界から召喚された勇者タケシ・フジイによって、これまでに二度も救われた国だ。
身体能力こそ平凡だったが、召喚者特典として『創造力』と『システム』のスキルを持っていた勇者フジイ。
彼はそのスキルを使って高性能の武具を作り、自ら身につけて戦いに赴き、侵略者であった『高速の竜王』と『毒蛇の竜王』を撃破したのである。
特に『毒蛇の竜王』との戦いは激戦で、最後にたまたまフジイの手の届く範囲に落ちていた一枚の手裏剣が勝敗を大きく分けたことはあまりにも有名だ。
いまでは吟遊詩人の語り草となっている。
その後、国を救った褒賞として帝位と城を譲られたフジイ。しかし彼は、決して調子に乗ることはなかった。
まず、「国政は専門家が行った方が良い」と政は宰相達に委託した。
そして「また新しい竜王が現れるかもしれない」と、次の戦いに向け、スキルを用いて1人で城の改造を始めたのだ。
そんな彼を国民は「天の使いフジイ」あるいは「俺たちの帝」と慕い……
次第に混ざって『フジイ天帝』という呼び名が定着していった。
ちなみに城は、『竜王御殿』と呼ばれる事になる。竜王を討伐した偉業と、次の戦いへの備えを忘れないように……
そんな城は現在、カロリーナ達の後方にある。
機密漏洩を避けるためにたった1人でそこに住みこんで改造を施していたフジイ天帝。
おそらく、国民達を城に収容しての本土決戦になるのだろうとカロリーナ達は考え、ならば自分達はその露払いとして少しでも多くの敵を討ち取り、国民が避難する時間を稼ごうと決死の覚悟を固める。
と、その時、不思議なことが起こった!
ゴゴゴゴ、と地鳴りがしたかと思うと、城が宙に浮いていったのだ。
カロリーナがポカンと見上げていると、城はそのまま変型して巨大な人型決戦兵器となった。
「コイツで戦う。他の者は全員待機せよ」
決戦兵器からフジイの声でアナウンスが流れる。かって城だったものは、そのまま遠くに陣取っている竜王軍の中心部まで高速で飛んでいき、
死闘が始まった。
決戦兵器は強かった。
なにせ途方もなくデカく、硬い。
元々城だったので当然だ。
しかも速い。圧倒的な質量エネルギーの暴力に竜王軍のモブ達は蹂躙されていった。
しかし相手も強かった。
『鬼畜眼鏡の竜王』と呼ばれる歴代最強の竜王は『マジック』という強力なスキルを持っていた。どういうわけか、竜王の手が震えるたびに決戦兵器が深刻なダメージを受けるのだ。
激闘の末、しかし最後に立っていたのは竜王の方だった。傷だらけになりながらも未だ元気な竜王と生き残った残党達が、四肢をもがれた決戦兵器にとりつく。
「ああ、天帝!」
カロリーナ達は思わず叫ぶ。
奴らはきっとフジイ天帝を引き摺り出し、とどめをさすつもりなのだろう。
と、その時、予想だにしないことが起こった!
決戦兵器が急に大爆発したのだ!
巨大なキノコ雲が上がり、爆風の余波がカロリーナ達の髪を激しく揺らす。
もうもうとした煙がはれると、焼けこげた大地には巨大クレーターができていた。生き残っている者は……いない。
「ああ、なんという事…」
僕殺ムーミンが肩を落とす。
「私達を守るために、最後の力で自爆を…」
雲雷の魔術師も顔を伏せる。
「天帝…天帝ー!」
カロリーナは滂沱の涙を流す。
「呼んだ?」
後ろから聞こえたボソッと低い声に、3人はバッと振り向いた。
そこにいたのは、民族衣装ワフクを着て鰻の蒲焼を手にした、ダンディな男前。
『フジイ天帝』、その人であった。
「て、天帝?」
「生きてる!てんてー、無事だったんですね」
「嬉しいけどなんでー!?」
なんでもフジイは、そもそも初めっから城の中にはいなかったという。「絶対乗り物酔いするし」とのこと、そりゃそうだ。
「でも、それならあの巨人はどうやって戦っていたんですか?」
「『システム』のスキルを使って『こうきたらこう動く』と予め決められた動きをするようにしていただけだよ」
フジイはサラッと言うが戦闘パターンは無限に等しい。それって凄まじいことなんじゃないかと、僕殺ムーミンは思う。
「ええー!?そんなこと、できるものなんですか?急戦にも持久戦にも上手く対応してましたけど……」
「沢山研究したからね」
どれだけ深い研究なんですかと、雲雷の魔術師は感嘆の声をあげた。
「天帝は、なぜ私達のためにここまでして下さるんですか?元々は異世界人で、こちらの都合で召喚されたのに」
思わず問うたカロリーナ。
「……30年前に召喚された当初は正直、『墓場行き』だと思ったよ。未開の地に落とされ、今までのキャリアも失い、もう終わりだとね」
フジイの言葉に、3人は息をのむ。
彼は穏やかな顔で続ける。
「でもそうじゃないんだ。落ちたらまた上がればいいんだよ。そう思えない精神状態がおかしいんだ。いつか落ちるなら、また上がる機会をねらえる若いうちがいい」
ちょっとかっこ良すぎるでしょう、てんてー。
「前の世界ほど裕福ではないけれど、皆を守る勇者という新しい鉱脈を見つけた今は……初めて見る景色と新鮮な空気の中で『生きている』って気分です」
男は子供の時から同じだ。変わらない。
熱い闘いが好きだ。
彼女達には伝わらないと思い言わなかったが、彼は幼い頃、ウルトラマンになりたかった。
ウルトラマンにはなれなかったが、異世界で勇者になった。そして今も、皆を守るための熱い闘いに魂を燃やしている。
彼は自分を信じ今日も研究を続ける。
勇者である限り、ずっと。
元ネタは将棋の「藤井猛」さん
『城を作ってしかし入城はせず、自分の城を相手の城にぶつけて倒す』という頭のおかしいオリジナル戦法『藤井システム』を編み出したスゴイ人
最近DL系将棋AIが「ユウシュウナ サクセンヲ ツクリマシタ」と言ってきたそれを、藤井てんてーは30年前にたった1人で完成させていた!
当初エリートコースを外れていたにもかかわらず、「黄金世代」と呼ばれる面々を下した後、伝説の棋士まで下して『竜王』のタイトルを獲得し、その防衛戰では永世七冠こと羽生善治さんまで返り討ちにした、なろう主人公のようなお方です
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