#1 魔法が暴走したんじゃしょうがない
誰にでも失敗はある。
もちろん天才魔女と呼ばれた私にも。
「す、吸い込まれる~!」
真っ暗で何も見えない、上も下も、右も左もわからない空間を漂いながら、私は自らの不運を嘆いていた。
まさか私が、魔法を暴走させるなんて……
あの時、実験中の魔法陣に鼻血を垂らしさえしなければ……
もちろん何を妄想してたかは秘密だけど。
はっきりとした意識とは裏腹に、身体は意思とは関係なく漆黒の空間を漂っていた。
何かの意思に引っ張られているのか?それともどこにも向かっていないのか?身を任せるだけだった。
どれほどの時間が過ぎただろうか。
「綺麗な光……」
私は眩い光の中心に吸い込まれていった。
どうかこの光の先が、天国じゃありませんように……。
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「ん、ん……ここは……天…国?」
目を覚ますと木目の床の上にうつ伏せになっていた。
「冷たくて気持ちいい……」
しばらく床の冷たさに身を預けていた。
不思議な体験をした興奮で全身が火照っているのかもしれない。
「そろそろ起きようか……」
ゆっくりと身体を起こし、立ち上がって周囲を見回した。
「ここは……どこ?」
机と椅子らしきものが整然と並べられた部屋。
前面には黒い横長の板。
後方には小さめの黒い板。
左側には窓が並び、少し開いた隙間からの風でカーテンが揺れている。
右側には無機質な壁と前後に引き戸が2つ。
天井には明るい光が輝いている。
部屋の何か所かに、文字が書かれた紙が掲示されている。なぜかその文字が読める。
前面の右側に貼られている大きな紙には、数字の1~6と「時間割」という文字が書かれている。
「なるほど……ここは…………どこだ?」
さっぱりわからなかった。
すると突然、ガラッという音と共に、前の引き戸が開いた。
「へっ?!……え?誰?」
小綺麗な身なりをした男の子が、目を丸くしていた。
「このクラスの子じゃないよね……?」
男の子は、私の方に恐る恐る近づいてきた。
やがて私の眼の前に立つと、上から下まで見まわしてこう尋ねた。
「えっと……コスプレ?」
コスプレ?コスプレって何?甘い食べ物のこと?スフレ的な?
ぐうぅ~
なんと!食べ物のことを考えた瞬間、お腹が鳴ってしまった!
男の子にも聞こえちゃったかもしれない。
そういえば魔法の実験に夢中になりすぎるあまり、朝から何も食べていなかった。
私は一瞬で頬が熱くなるのを感じた。
「あの……誰か知らないけど、お腹空いてるのかな?」
私はコクリと頷く。
「それじゃ、学食に行ってみたら?まだやってるかもしれないから」
「学食……?」
「学食知らない?学校にある食堂のことだよ。放課後も部活終わりの生徒のために遅くまで開いているんだよ」
なるほど、食堂か。そこなら何かを食べられそう。でも……
「……お金がいる?」
私はお金を持っていなかった。魔法の実験の時は、なるべく金属を身に着けないようにしていたからだ。
「もちろん必要なんだけど……」
男の子は何かを決意したかのように頷くと、笑顔でこう言った。
「それじゃ一緒に学食へ行こうか。バイト代も入ったばっかりだから奢るよ!」
ぐうぅぅ~~!
こら!お腹よ!こんなタイミングで鳴るな!
「あはは、お腹で返事するなんて、キミ面白いね!」
恥ずかしさも限界だったが、空腹には逆らえない私は、さらに熱くなった頬の赤さを感じながら、男の子の後ろをついていくことにした。