第一章 天才児と問題児と奮闘記(前編) その3
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「あー……。えらい目に遭ったぜ」
守哉は人ごみの中を歩いていた。一日中暑苦しい教室で、脳木お得意脳医学のウンチクを頭に叩き込まれた彼は、心身共にボロボロである。学校が終わって、さっさと家に帰って、空腹で目覚めるまで爆睡していたい守哉だが、生憎今日の朝食で食材が切れてしまっていた事を思い出した。なので、今、彼は涼しげな郊外の田舎道ではなく、アスファルトに日光反射する暑苦しい人ごみの中にいるのである。せめてと駅で私服に着替えてきたおかげで、汗でびっしょりの制服よりはマシになったが、正直あまり変わらない。
「昨日で大幅に出費しちまったから、あんまり美味いモンは買えねーな……」
誰かから金を騙し取ろう、と考えたが、やめた。今の彼にそこまでする力は残ってない。
「あー、当分肉食えねーのかよ。地獄だー!」
周りを気にせずに、心の悲鳴を守哉は叫ぶ。無理もない。男子高校生にとって、タンパク質の不足は、新型インフルエンザの大流行ぐらい一大事なのだから。
ふと、守哉の後ろを歩いている女子高生の話が耳に入った。
「ねえ知ってる? この先の広場で、ちょームズいクイズ大会あってるらしいよ」
「まぢー? じゃあ、あたしら全然無理じゃん。つかやる意味なくない?」
「んー。でも、賞金が五十万円らしいよ」
「まぢぃ!? じゃあ、あっくんに出てもらおうかなー。大学生だから物知りだし?」
「あーはいはい。彼氏の自慢話なんて聞きたくなーい」
彼女たちはお喋りを続けながら、守哉を追い越していった。
守哉はその場に立ち尽くしていた。頬には冷や汗が伝い、瞳孔はぱっくり開いている。
クイズ大会……だと? 賞金五十万……だと? 不況パフェ約六十杯分だと……?
しかもクイズ大会。それは頭脳と頭脳を競い合う、知識だけが頼れる世界……まさに、自分のレイヤー!!
守哉の手は震えていた。なんだ、まだ俺のツキは終わったわけじゃないじゃねーか。笑みを作るその口からは犬歯が光り、さっきまで疲れと暑さでうだっていた瞳は、虫網片手にトンボを追いかける少年のように希望に満ちていた。
「は、はは……ふははははーっ! 待ってろ、待ってろ賞金五十万―ッ!」
目当ては賞金。その化け物じみた頭脳に、あらゆる知識を詰め込んだ守哉にとって超難問クイズなど、あってないようなものだ。そこに守哉が走り出したとして、それは守哉が落ちている大金を拾いにいくようなものと思って問題はない。
守哉は、ものすんごい勢いで、広場に落ちている大金を取りに行った。




