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最終章 真堂守哉と神掛ゆんと奮闘記(後編)その5




            5



 走りながら、守哉は左手を握り締める。銃をしまい、覆面の男もそれに応えるようにファイティングポーズを取って彼を迎え撃つ。


「らあ!」


 守哉はギリギリまで近づいてから、拳を振りかぶる。そしてそれを男の顔面目掛けて放つ。が、男は身を屈めてそれを回避し、守哉の懐へ身を寄せ、肩をねじって、がら空きの左脇に右フックを打ち込む。


「あがっ!」


 激痛に守哉は唸るが、それだけで終わらない。男はそのまま守哉の腹に左アッパーを入れ、仰け反った彼の顔面に渾身の右ストレートを叩きこんだ。


 守哉の体が右回りに回転しながら崩れ落ちる。


 男はそれすらも見逃さない。座点の落ちた守哉の頭に、右膝。これはガードできたものの、その威力に守哉は後ろに倒れこむ。


「どうした! 強いのは威勢だけか!」


「ぐっ……。っせえ!」


 守哉は立ち上がり、再び突撃する。


「呆れたぞ! 突っ込むしか能がないのか!」


 だんだんと近づく守哉に、男は左ジャブでけん制を図る。だが、それが当たる直前で守哉はしゃがみ、左ジャブの軸足――右足首に蹴りを入れる。


「と、とと……」


 とたんに男がバランスを崩す。守哉は残った足にタックルする。突然の事態に、男はろくに受身も取れないまま倒れた。


 痛みに身を縮めた男に、守哉は馬乗りになる。


「はあ、はっ。ナメんなよ、これでもなあっ、生きるか死ぬかのサバイバル生活送ってきてんだよっ! この家に来てからでもある意味なあ!」


 そう言って、守哉は左手を強く握って振り下ろす。


「うおおあ!」


 だが、男が体を揺らしてバランスが取れないものだから、パンチは一時中断となる。


 それを見計らったかのように、男から手が伸びて、守哉の襟首を掴み、それが勢いよく引き寄せられた。


「わっ、わっ!」


 そしてそのまま呆気なく地面とキスしてしまう守哉。男は守哉のホールドから抜け出すと、彼の背中を勢いよく蹴った。


「がっ!」


 痛みに悶えながら、守哉の体が転がる。その途中、置いてあったアタッシュケースに頭をぶつけてしまった。


 しかも不幸なことにその上にあった二リットルのペットボトルが落ちてきて鼻を強打。


「いてえ! っつか熱うっ!」


 真夏の日差しに晒されてすっかり火照ったミネラルウォーターは、予想より遥かに熱く、守哉の鼻を某白髭おじさんのトナカイのように赤く染め上げた。


「あちちちい!」


 守哉はもがくが、いつかの『断熱性抜群! 冷え性おさらば毛布クン!』同様に、ペットボトルは顔面から胸、腹へと彼の体をなぞるように移動して、なかなか離れない。なぜか熱い物を引き寄せる磁石体質な守哉君だった。


 その様子を、覆面の男は目を細め不思議そうに眺めている。大方、「こいつは何をしたいんだろう」とか考えているに違いない。


「ちっちち……。あー、酷え目に遭った。……ん?」


 やっとのことでキャップを掴んでペットボトルの脅威から逃れた守哉は、立ち上がって未だに持っているそれを見て、その後男の方を向く。


「……。おお!」


 突如、守哉の頭上にエクスクラメーションマーク(「!」のこと)が浮上する。


「……?」


 男が首を傾げると、守哉は心底意地悪そうな笑みを浮かべる。「げへへ……」とさっきまで感動的な場面を繰り広げてきた人物とは思えない声まで漏らしている。


 守哉はペットボトルのフタを開け、自分の足元に放り投げた。横倒しになったペットボトルの口からは当然中の水が溢れ出し、高音のコンクリをじゅう、と冷やしていく。


「……何のつもりだ」


 男の質問に、守哉は「まあまあ」と不適に笑う。


「今に分かるぜ、ニグロイド男」


 そう言って、守哉は男に向けて左手の中指を突き出す。


 彼の言動に反応したわけではないが、男はその挑発に乗り、守哉のほうに走り出す。


(どういう策があるのかは見当つかないが、状況は圧倒的に優勢! 負けるはずが無い!)


 間合いを詰めた男は濡れた地面を踏みしめ、構える守哉に左ストレートを繰り出す。守哉が右手の銃でそれを叩き落すと、男は一瞬にして重心を変え、右ストレートを守哉の左頬にヒットさせた。これは初発が弱いワンツーなどではない。恐ろしいほどのバランス感覚によって繰り出される逃げ道の無い二段ストレートだ。


 これで脳震盪を起こさなかったのは、もはや奇跡と言える。


(こいつ、やっぱ強え……!)


 激痛を噛み締めながら、守哉はそう思う。それでも、負けるわけにはいかない。


 守哉は伸ばされたまま眼前にある男の右手を左手で掴み、その状態で瞬時に右手を相手の腰に回してベルトを握る。


「らあッ!」


 そして右足で相手の左足を勢いよく払うと、男の体は何かに引き寄せられるかのように呆気なく倒れた。


 柔道の投技の一つ、「大腰」。


「がふっ!」


 できそこないの受身で、半減できない痛み。守哉が腕を持っていてくれたお陰で、頭を打つことは無かった。だが、それでもダメージは大きい。


(足場を濡らしたのは、滑りを良くして、足払いを確実にするためか……!)


 そう。男のバランス感覚は相当のものだ。両足を狙われない限り、普通なら投技を喰らってしまうことはまずない。だが、股を大きく開いた状態で重心を前にずらされ、前足を払われてしまえば、物理的に考えても倒れる以外の道は無い。無理にバランスを取ろうとしても足が滑って倒れ、間接を痛める可能性だってある。


 男は、目の前にある、未だに水を出し続けるペットボトルを睨んでいた。


「今度こそ袋叩きにしてやらあ!」


 叫び、守哉は再び男の体に馬乗りする。そして拳を振り上げる。


「おら……って、あ、あれえ!?」


 だが、守哉はすぐにバランスを崩した。男は何もしていない。


 男は最初、驚いて目を見開いていたが、瞬時に彼も理解したようである。守哉は判断を誤ったのだ。彼は、男に馬乗りになるべきではなかった。勝つことを第一に考えるなら、関節技や絞技に臨むべきだったのだ。


 なぜなら、彼にとっても、この足場は非常にバランスを取りにくい状況なのだから。


 だが、大切な人の命を奪おうとした相手への憎しみ、気持ちよく勝ちたいという願望。そういった感情を優先してしまい、彼は失敗してしまった。


「や、やば……」


 彼の体が、前のめりになって男の右側に倒れていく。その様子を男は黙って眺めている。大方、その覆面の下では勝ち誇ったような笑顔があるのだろう。彼は、守哉の絶望した顔をじっ、と見ている。




 だから、次の瞬間、守哉が凶暴な笑みを浮かべたことさえ、見逃さなかったようだ。




「――ッ!?」


 守哉は前のめりに倒れていく。振り上げた拳は、もう男に届く範囲になく、地を殴るような軌道を描いている。その空回りぶりは、策に溺れた人間の末路のようだ。


 それなのに、彼は、笑っている。自分が倒れる先を見つめながら、笑っている。


 勝ちを悟ったかのような、笑みを、男に見せ付けている。


 空を切るその拳が、今、地面を殴る――。




 刹那、男の顔に、水が掛かった。




「ぶっ!」


 それも一瞬ではなく、途絶えることなく水は彼の顔面に浴びせられる。男は目を閉じているが、何が起こっているのかは分かっているだろう。


 守哉の拳が、男の頭の傍にあったペットボトルの容器を殴りつけたのだ。


 不幸なことにペットボトルの口は男の顔面を向いていて、押し潰されて行き場のない水は、彼目掛けて噴射するという結果になったのである。


「ご、げほっ!」


 覆面越しに飲んだ水が気管に入ったのか、男はもがくようにして、四つん這いでその場を離れる。


 彼は覆面を外そうとするが、すっかり水を吸ったそれは頭に密着してなかなか外れない。呼吸もまともに行えない状況だ。


 だが、ゆっくり外している余裕を、守哉が与えるはずはない。


 立ち上がった守哉は、座って覆面を外そうと蠢いている男に、空になったペットボトルを投げつけた。


 男がひるむ。その無防備な体に、守哉は渾身のタックルを決める。


 守哉と男の体が吹っ飛び、互いに少しの距離を置いた状態で着地する。


 二人は、よろよろと起き上がる。


「へ、へへ。苦しいだろ、それ」


 男は何も答えない。いや、守哉の言ったとおり、苦しくてそれどころではないのだ。


 そして、それは早期決着を望んでいることも意味している。


「お前、俺に『父親のリストラと自分自身の異常さで家族から捨てられ、心を塞ぎ、人様から金を騙し取って生きていた人間の考えとは思えない』って言ったよな」


 一字一句間違えのない台詞だった。


 男は黙って頷く。守哉は続ける。


「確かに、俺はそうだった。肉親からは「化け物」や「疫病神」なんて言われて捨てられて、行く当てはあっても、人と接することが怖くなって、一人で生きようとした。生活費は詐欺を働いて稼いだ。


 上でも下でも、飛び出たヤツは弾き出される。だから、自分は世界で要らない人間だと決め付けていた。誰も信じようとは、頼ろうとは、大切だとは思わなかった。自分は社会のゴミなのだから、そう思ってはいけないとも考えてた。


 そんな人間だった」


 でもな、と守哉は右手の銃を握り締めた。


「こんな人間を必要としてくれる人がいたんだよ。こんな馬鹿野郎を見守ってくれる人がいたんだよ。こんな奴を大切だと、家族だと言ってくれる人がいたんだよ」


 握り締めた拳は、震えていた。




「普通じゃねえよな。こんな俺を、愛してくれる人がいたんだよ」




 変わらないわけがない、守哉の涙はそう訴えていた。


「……そうか」


 だから、それに応えるべく、男も必死に口を動かした。


 お互い、それ以上は何も言わなかった。


 短い沈黙の後、守哉は涙を拭い、男は呼吸を整え、二人はそれぞれ構えた。両方、体力は残り少ない。次で、全てが決まる。


 風が吹き、ペットボトルが空しい音を立てて転がる。


 それを合図に、守哉は走り出した。


 男は、けん制の左ジャブを放つ。それを頬に受けても、守哉は止まらない。


「らああッ!」


 一気にして覆面の男の懐に踏み込んだ守哉は、握り締めた左拳を大きく振りかぶる。


 男は右腕と右足を引きつけてガードの体制に入る。が、いつまで経ってもそこを衝撃が襲うことはない。


(……?)


 男が気づいた頃には、既に守哉の銃を持った右拳は彼の下顎を捉えていた。


(……っ! フェイント――……!)


「うらああああっ!」


 銃がトンファーの役割を果たし、その銃身が男の顎を突き上げる。


 カパアッ! という快音と共に、男の体が宙に浮く。


「……がふっ」


 そして、男は地面に崩れ落ちた。






 しばらく突っ立っていた守哉は、しゃがみ込み、のびている男の襟首を掴んで上体を起こした。


「ぐっ……。殺さないのか」


「こだわって殺す必要はねえだろ」


 と言いながらもちゃっかり銃を突きつけている守哉である。


「答えろ。てめえは何であいつの命を狙った」


「君の過去をなぜ知っているかは、聞かないんだな」


「聞くさ。だが、優先順位はこっちが先だ。答えろ」


「ふ……。話に聞いていた通り君は、頭も心も大人のようだな」


「……?」


「だが、あまりにも平和ボケしきっている」


「何言ってんだ? 美少女でもないのに電波なこと言ってるとぶっ放すぞ」


 守哉は銃口を男のこめかみに押し付ける。


「甘い、と言っているのだよ。撃ちたければ撃てばいい」


 まあ、と男は目を細める。




「私は、この屋敷にはモデルガンしかないということを知っていて、その銃口から出てくるのはプラスチック弾だと思っているがな」




「な……!」


 守哉が驚いている余裕もなく、男は咄嗟に懐から拳銃を取り出し、その口を守哉に向ける。呆気にとられて、守哉は一瞬反応が遅れる。


 パアン! と銃声が響く。


「……君には、神の御加護はないようだな」


 立ち上がり、銃の引き金を引きつつ、男が表情のない声で言う。


 守哉は彼から二メートルほど遠ざかった場所にいた。呼吸は乱れ瞳孔は開き、心臓は生きてきた中で一番激しいビートを刻んでいる。


 彼の右頬には血が伝っていた。先ほどの銃弾が掠めた時に軽く切ったのだ。


 撃たれた。初めての経験に、「逃げろ」と本能が悲鳴を上げている。


 精神を落ち着かせながら、彼は右手に持ったハンドガンを見る。


 男の言うとおり、これはモデルガンだ。ハッタリにでも使えるかな、と思って持ってきた、守哉の部屋に置き去りにされていたゆんのモデルガンである。


(撃たれた? いや違う。今はそれどころじゃない。やつはなぜこれがモデルガンだと分かった? 相手は本物。違う、それは考えるな。俺は完璧にそのことを悟られずにできていたはずだ。ならなぜ? 最初から知っていた? 殺される? 違う! 最初から知っていたなら今までの言動はおかしいんじゃないか? もう少しで死んでいた。関係ないだろう! なら相手はなぜ本物を持っている? 違う。関係ない。余計なこと考えるな。時間をロスするな。いやこの時間が無駄じゃないのか? 早く結論を出さないと。撃たれる。なんでモデルガンだと分かった? 殺される。違う! 殺される。コロサレルころされる殺されるコロシころされる殺され――!?)


 守哉の思考がぐちゃぐちゃになっていく。本能の、理性への介入により情報が錯綜する。区別ができない。考えるべきことが分からなくなる。分かるべきことを考えられなくなる。


 銃を向けられているにも関わらず、守哉は頭を抱えた。モデルガンが、からん、と乾いた音を立てて落ちていく。


 守らなきゃならないのに。生きようと誓ったのに。何もできない。何も分からない。


 ついに守哉は膝を着いて崩れ落ちた。酷い絶望感と無力感が彼を襲い、ノイローゼのような症状に陥っている。このままいけば、彼という「人間」が崩壊する。




 だが、その時、邸内に続く扉が勢いよく開け放たれた。




 守哉と男の視線がそこに移る。


 そこには、彼らが戦う理由が在った。


「かみやーっ! ゆんのデザートイーグルを勝手に持ち出したらダメだよお!……って、あれ? かみやお取り込み中?」


「「うええ――――――ッ!?」」


 守哉と男は同時に叫んだ。


 神掛ゆんは、不思議そうに二人を眺めていた。






 唖然とする守哉と覆面の男を脇目に、ゆんはトコトコと守哉の元へと歩み寄り、彼の傍らに転がっているモデルガンを手に取った。


「もうっ、まったく……。かみや? 物を借りる時は相手の人にちゃんと許可を取ってから借りないといけないんだよう?」


「ゆん、お前……」


 守哉は引きつった笑みを浮かべる。ゆんの登場により、理性はしっかり取り戻したようである。


「むむ? 何かな、ゆんを仲間はずれに銃撃戦ごっこでボロボロのかみや君」


「バカ――ッ!」


 ごちん!


「あだ! い、いったあい! なにするの!」


「真堂チョップだこのやろう! ちなみに左手編の方が弱い!」


「じゃあ左手でやってよ!」


「うっせえ! お前、この状況でよくもまあぬけぬけと出現しやがったなあ!」


「ええ!? 一体どんな状況だったん……」


 その時、銃声と共に彼らの間を何かが突き抜けていった。


 二人が銃声の方を向くと、二メートル先では覆面の男が銃口を彼らに向けていた。


「……こういう状況なんだ」


「……こういう状況なんだ」


 次の瞬間、ゆんが守哉を盾に突き出し、その後、守哉がゆんを盾に突き出した。


「って、えええ!? か、かみやー!?」


「レディファースト」


「先に死ねって言ってる!? いやだよ! 映画みたいに庇って死んでよ!」


「お断りだね! 大体あちらさんはお前に用があるんだから、どうにか説得しろ!」


「そんな無茶な……って、え? ゆんに用がある? それってもしかして」


「ご想像の通りでございます!」


「えええ!? じゃあ余計にこの体勢ダメじゃん!」


「うっせえ! せっかくハッピーエンド目指して努力してたのに、お前が来た所為で全部水の泡なんだよ!」


「……え。かみや、もしかして、ゆんのために……?」


「そうだよ! お前を守るために守哉、死に物狂いで奮闘しておりました!」


「そ、そっか。う、嬉しいな……」


 顔を赤らめ、幸せそうな笑顔を浮かべるゆんを見て、守哉は「うっ」と唸る。


「う、うっせえ……」


 守哉は唇を尖らせながらそう呟くと、ゆんの体を引き寄せて、自分の背中に回した。


「かみや……」


「合図をする。そしたらお前は全力疾走で逃げろ」


「かみやは?」


「突っ込む」


 その言葉に、ゆんは目を見開いた。


「そ、そんなのだめだよう! 一緒に逃げよう!」


「相手は本物の銃持ってんだぞ? 二人とも逃げてたら狙い撃ちされて共倒れだよ」


「で、でも! それじゃ、かみやが……」


「俺のことは心配すんな。あんな奴ソッコーで倒して、お前にすぐ追いつくから」


「ほんと?」


「ほんと」


 本当に相手を倒せるんなら、ゆんを逃がす意味がないんだけどな、と守哉は心の内で思う。決して口には出さないが。


 そんな彼の考えなど見ず知らず、本気で守哉が敵を倒せると思い込んでいるゆんは守哉の後ろでクラウチングスタートの準備をしていた。今から逃げますよ上等のサインである。


 男が、じりじりと距離を詰めてくる。


 そのうちの一歩が、守哉にとっての合図になった。




「――――行くぞ!」




 守哉とゆんが別々の方向に走り出す。


 クラウチングスタートを踏んでいただけ、ゆんの方は速い。宝物(?)のモデルガンを握り締めながら、開いたままの扉へと突き抜けている。


 守哉もまた、一直線に突き抜けていた。


(勝算はある! こいつはゆんの命を狙っている。それならば、ここにきてターゲットをみすみす見逃すわけはない!)


 つまり反射的に覆面の男は逃げているゆんに銃を向けるはずだ。付け入る隙はそこしかない、と守哉は腹を括り、拳を握り締めて走る。


「あっ! かみや、危ない!」




 だが、男は最初から守哉に照準を定めていた。




「へ? っておうわああ!」


 銃声が響く。守哉は絶叫しながらバカみたいなポーズで横に飛ぶ。転がりながら、守哉は体勢を立て直し、がばあ! と起き上がる。


「あ、あ、危ねえ! なんで俺なんだよバカヤロー!」


 守哉は叫ぶが、男はそれを丸っきり無視して、彼に銃口を向ける。


(や、やや、ヤバい! 絶体絶命ってやつですかこの状況は――ッ!)


 その時、ちょうど彼の後方を走っていたゆんが停止し、モデルガンを覆面の男に向けた。


「かみや! 伏せて!」


 ゆんが引き金を引く。男はそれを気に留めず、守哉に向けて拳銃を突きつけている。


「おい! それモデルガン……」


 ぱあん!


「ぐわああっ!」


 コミカルな銃声の後、守哉に銃を向けていた男の体が吹っ飛んだ。


「えええ!? 本物だったの!?」


 地に横たわった男は動かない。見る限り出血はないから、防弾装備はしていたのだろう。


 それでも唖然とする守哉。彼の隣に並んだゆんは、本物だったデザートイーグルを指でくるくると回しながら言った。


「ふっ。全ては勘よ」


「ここでシックスセンス!?」






「……で、どうするよ。こいつ」


 すっかり気絶しきっている男を眺めて、守哉が呆れたような声を漏らした。全く、今までの自分の苦労は一体なんだったのだろう。


 自分のことは自分で解決しちゃった大人なゆんちゃんは、その言葉に「むむ~」と唸る。


「とりあえず、縄で縛るとか、覆面を外すとかするんじゃないの?」


 そうだな、と頷いて、守哉が男の覆面を外そうと手を伸ばしたその時、




「いてて……。防弾チョッキしててよかったよ~。さすが我が娘、心臓にピンポイント」




「……………………は?」


 目が点になった守哉とゆんはスルーで、男は起き上がり、鬱陶しそうに覆面を地面に脱ぎ捨てた。


 出てきたのは、日本国民の大半が記憶しているであろう人物の顔だった。


 三十代半ばとは思えない若々しい顔立ちはそこらのアイドルに引けを取らない。綺麗な紅いウルフカットは、コマーシャル出演の時、国民に強い印象を与えた。


「あ、パパ」


 国内最大電器メーカー「ノイズ」代表取締役、その名も、神掛総一郎。


「や、元気してたか? ゆん」


「ゆ、ゆんの父親あ!?」



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