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最終章 真堂守哉と神掛ゆんと奮闘記(後編)その2



            2



 守哉は、中庭を歩いていた。


 目指しているのは、神掛家、別邸。何週間か前、ゆんが考えた遊び、「サバイバル鬼ごっこ」の舞台となった場所である。そこの屋上に、ゆんの命を狙う人間がいる。


 グレネード弾の射程距離、ターゲットからの死角、安定した足場――。そして、守哉の天才的な頭脳から割り出された座点というのが、そこである。


「……うし。行くか!」


 守哉が決意を固め、走り出そうとした守哉の背中に、後ろから声が掛かる。


「かっ、か、守哉くーん!」


「め、明歌さん!?」


 スリッパで走ってきた明歌は、守哉の元につくなり、呼吸を整えるため前屈みになる。


 ぜえぜえ、となんか女を捨てたような息をする明歌に、「あ、あの……」と守哉が手を伸ばすと、彼女はそれをはたき、守哉をキッと睨んだ。


「え、え? なんすか?」


 次の瞬間、守哉の左頬は思いっきり引っぱたかれた。


「い、痛え! な、なんなんですか! 明歌さん!」


「必殺、ヤギちゃんビンタです!」


「いや、技名を聞いたんじゃないです! なぜなにゆえ私めにヤギちゃんビンタをお見舞いしてやられたのかを問うております!」


「ヤギちゃんビンタ、左手編!」


「ぎゃあ! 左の方が痛い! しかもヤギちゃんビンタ、ストーリー性ある!」


 理不尽にも両の頬をほのかに赤く染められた守哉が理由を尋ねようと明歌を見ると、


「あ……」


 彼女は、泣いていた。それも、守哉より頬を赤く染め、目は腫れて、尋常ではない大粒の涙を流していた。


 明歌は、守哉を睨みつけたまま、


「あなたという人はッ! 一人でなんて危険なことをしようとしているの!」


「……! な、なんでそれを」


「詳しいことは爺やから聞き出し……聞きました!」


「な、なるほど」


 守哉は心の中で安堵の息を漏らした。まさか明歌が脳木同様、自分が刺し違いを図ろうとしていることを知っているのかと思ったからだ。


 だが、爺やからの情報でも、守哉が十分危険なことをしようとしているのに変わりない。


「だって、俺が行かないと、この屋敷のみんなが危ないんです」


「でも! こんなの、守哉君が行かなくてもいいじゃない!」


 明歌の言葉に、守哉は優しく微笑む。


「いいんですよ。犠牲になるのは俺で。ゆんも、明歌さんも、爺やも、料理長も、誰もここに欠けちゃいけない。ここで一番犠牲になるべきは、俺なんです」


「違いますっ!」


「……え?」


 明歌は唇を引き締め、相変わらず涙を流し続けるその瞳で、一心に守哉を見つめている。


「お嬢様が、ゆんちゃんがっ! ただ何となくで守哉君をこの家に連れてきたと思ってるんですか!?」


「え、え? ち、違うんですか?」


 ヤギちゃんビンタ、炸裂!


「ぎゃあ!」


「そんなことも分からないで、死ぬかもしれない場面に首を突っ込んではいけません!」


「で、でも……」


「でも、じゃない! どうして自分の命をそんな簡単に捨てようとするんですか!」


「そ、それは、この家の人たちを守りたいからですよ!」


「ん? それはどういうことです? んん?」


「え、えと、あの」


 明歌の気迫に圧倒されながらも、守哉は覚悟を決めて立ち向かう。


「こんな……どこで何していたかも分からない人間を、皆は快く迎えてくれて……。そ、そして俺をまるで家族みたいに慕ってくれて……」


「何、言ってるの」


 途中から言っていて照れ臭くなり下を向く守哉の顔を、明歌はその綺麗な両の腕で持ち上げる。そして守哉と目の高さを一緒にして、彼女らしく、そして優しい笑顔を浮かべた。




「みたい、じゃない。私達、本当に家族なのよ」




「あ、う……――」


 守哉は、言葉を失った。


「だからね」明歌は続ける。


「何もかも一人で解決しようと思わなくていいのよ? 頼ってくれていい。もしそれで誰かが傷ついたとしても、誰も守哉君を責めたりはしないわ」


「……家族、だからですか」


 守哉は俯く。今回のそれは、照れ臭さからではない、それよりもっと見せたくないものを隠すためのしぐさだ。


 だけど、目の前の人物にそれを隠し通すなんて無駄なことだった。


「そうよ」


 明歌は、震える守哉の背中を、優しく包み込んだ。


「とっても大切な、家族だから」






 ゆんは考えていた。


 彼女はカーペットの上に女の子座りして、ウエハースチョコを頬張りつつ先ほどの守哉との会話を思い出していた。


「かみや……どうしたのかな」


 一番気になるのは、最後に言った「さようなら」の部分である。


 明歌に相談したいところだが、なぜか気がついた時には彼女は自分の部屋から姿を消していた。つまり、今、彼女は部屋に一人取り残された状態だ。


「……。…………」


 暇である。至極、暇である。もう今すぐにでもテーブルクロスをマントにして窓から飛び降りたいくらいである。


 だが、彼女は守哉と「帰ってくるまで部屋からは出ない」と約束をしているのだ。ゆんは彼に嫌われたくはない。だからおとなしく待っている。


(それしても暇だよう~! かみやもヤギちゃんも誰もいないしい! 皆で遊びたいよう!……ああー、「サバイバル鬼ごっこ」とかまたやりたいかも)


 そんなこと考えながら、ゆんはふとベランダに出て「サバイバル鬼ごっこ」舞台、神掛家別邸に思いを馳せてみる。


「……そういえばデザートイーグルも守哉の部屋に置きっぱなしだったなあ。……ああもう! 部屋から出るななんて「ごくあくひどー」ってやつだよう!」


 地団太を踏んで、部屋に戻ろうとした時、ゆんの移り行く視界であるものが映った。


「ん……。あれ、かみやとヤギちゃん……って、ええええ!?」


 中庭にいる守哉と明歌の二人は、よく見ると、あらまあ、なんと抱き合っているではありませんか。


 一瞬、ゆんの頭が真っ白になった。


(え、え、え? なんでかみやとヤギちゃんが? ……。……あー、えーと。む、むむ、無理矢理ってやつだよね! うん、そうだよ! あれは宇宙人さんが二人の体を操って遊んでいるんだよ! そうとしか考えられない!)


 ゆんはそうやって割り切る。……なんてできるはずなかった。


 彼女はその場に崩れ落ちた。


「……うっ。う、ひっく。か、かみやがあ……、ヤギちゃんに取られちゃったよお……。ふえ、ふええ……ひっ。うう……」


 ぼろぼろと涙を溢すゆんは、生気を失ったような眼差しで彼らを見る。……ちくしょう。いつまで抱き合ってんだよ。私達ラブラブなんでーすアピールってかこんちくしょう。ああくそ、やっと離れやがった。……なんだよ。気まずいカンジになってんじゃねえよおお! こちとら今後のお前らとの接し方をどうしたらいいか気まずさマックスなんだよ!……呪ってやる。呪ってやるからな……。彼に近づく女全て呪い殺す。そうすれば彼は私しか見れなくなる。あは。あははははっ。


 といった具合で二人を見て新しい属性に目覚めそうなゆんだったが、明歌とはなれた後の守哉の様子を見ていて、ふとあることに気づいた。


(…あれ? かみや……)


 いや、気づいてしまった。


「……――ッ!?」


 ハッとした彼女は、すぐさま立ち上がり、駆け足で部屋のドアに手を掛けた。




 その後、爺やに取り押さえられ、部屋に戻されたのは言うまでもないことである。





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