表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/33

最終章 真堂守哉と神掛ゆんと奮闘記(後編)その1



            1




「……なんか今日のかみや、変だったよね」


 ウエハースチョコを頬張りながら、ふいにゆんがそんなことを口にした。


 その言葉に、ドアにもたれて座っている明歌が「そうねえ」と考え込む。


「確かに、妙によそよそしかったというか、それこそ「変」だったわよね。今日の守哉君」


「うん……。いつも変だけど、今日はいつも以上に変だった」


 本人が居合わせたら狂喜乱舞する一言である。


「何か隠しているとか……?」


 明歌の何気ない一言に、ゆんの動きがピタッと止まる。


「そ、それはないよう! かみやがゆんに隠し事するはず、ないもん!」


「うふふ。冗談よ、ゆんちゃん。確かに、守哉君は誠実な人だから、人を欺くようなことなんてできそうにないもんね」


 本人が居合わせていたら、きまずくなる一言である。


「そだよう。きっと、お昼の「銃撃どっきり」の後片付けしてるんだよ」


「え? なにそれ?」


 明歌が反射的に尋ねる。その反応が意外だったのか、ゆんも呆気に取られたような顔をする。


「あれ? ヤギちゃん、知らないの? お昼、守哉の部屋が銃で撃たれたの」


「――……え?」


 初耳だった。確かに、つい数十分前に守哉の部屋で銃を撃つような音はしていたが、それはゆんのモデルガンの音だと後から爺やから聞かされたし、ゆんも抽象的なことしか説明しなかったので、てっきりそれだろうと明歌は思い込んでいたのだ。


(意図的に隠されていた……? でも一体なぜ?)


 刹那、明歌の脳裏に守哉のあの寂しげな笑顔がよぎった。


(――……ッ! ま、まさか守哉君!)


 咄嗟に明歌は立ち上がり、ドアノブに手を掛けた。


「わあっ! ど、どうしたの、ヤギちゃん?」


「ゆんちゃんはここにいて!」


 明歌は走り出し、あっという間に部屋から出て行ってしまった。


「ええ! どうしたのヤギちゃーん……って、むむ?」


 気づくと、床に放り出されたゆんの携帯が鳴っていた。表示には「真堂」と出ている。


『もしもーし。ゆんかー?』


「そだよ。どうしたの?」


『突然だけど、どうしてもさ、これだけは言っておかなきゃならないことがあるんだ』


「むむ? どうしたの、かみや。そんなに改まって」


『……そうだよな。こういう時こそ、普段通りに喋らないといけないよな』


「? さっきからナニ言いたいのか全然分からないよう」


『あのな、ゆん。俺とお前が出会った日、覚えてるか?』


「うん、ちゃんと覚えてるよ。おいしいパフェをかみやにおごちそうさまさせてもらった」


『う……、不況パフェについては触れないでくれ、心が痛む』


「え、あ、うん。それで?」


『あの日、俺はすごくいい買い物をしたんだ』


「買い物? やっぱり不況パフ」


『それには本気で触れないでえええ! 違う違う! ファミレスのことじゃない!』


「むむむ……。分からないよう」


『まあ、端から分かるとは思ってなかったけどさ。その買い物ってのはな、お前と会えたことなんだ』


「え……っ」


 その瞬間、ゆんの顔がぼふう! と赤く染まった。


『具体的に言えば、お前と出会えたことで人生的な希望と言うか、楽しみと言うか、そういうモンを教えてもらったってことだけど……って、聞いてます? もしもーし?』


「あう、あ、うん。ええと、き、聞いてるよー。不況パフェのことだっけ」


『そこから!? つうかさっきから俺の心の傷口弄りまくってるよね、君!』


「あ、あの、そんなの……。そんなの、かみやが悪いんだよう!」


『責任転嫁!? 俺は自業自得!?』


「うう……。まあ、いいよ。それで?」


『いいんだ……。と、とにかくだ。あの日、俺の中で何か変わったんだ。お前に出会えたことで、俺は変わったんだ』


「? よく分かんないけど、変わったんだ」


『そう。変わったんだ。それで、それについてお前に言わなきゃいけないことがある』


「ん、なに?」




『ゆん。俺さ、普通で平凡な人間になりたいと思ってた』




「……かみや?」


 そこで、やっとゆんは違和感を覚えた。なぜ彼は突然こんなことを言い出すのだろう。


『嫌だった、嫌だったんだ。自分が周りと違うことが。「特別」だなんて呼ばれることが』


「かみや……」


『上でも下でも飛び出した奴は弾かれる。中間地点に立つ、普通の人間が基準であり、絶対。この世界は、そんな暗黙の了解事項があると思い込んでた』


「そんなこと……」


 ゆんが否定文を紡ぐ前に「そうだ」と言って守哉は続ける。


『だから自分が嫌だった。嫌いだった。社会のつまはじき者だと思ってた。蔑まされても、何をされてもいいと思ってた』


「……っ」


 思わず、ゆんは俯いてしまった。この少年が、そんな闇を抱えていたなんて。こんなに苦しんでいたなんて。それに気づいてあげられなかったことより、ただ純粋に、彼の痛みが強く心を叩く、突き刺さる。


 気づけば、涙が頬を伝っていた。


 その時、守哉が、でも、と告げた。


『でも、お前に会えて、このままでいいと思えたんだ』


「……え?」


 ゆんは知らない、もしもの場合伝えておくように爺やに残した言葉を、守哉は告げた。




『ありがとうな。――そして、さようなら』





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ