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第三章 学園と親友と救済記 その5

            6



 昼休み、と言えば生徒達が仲良しなグループに分かれ、それぞれ弁当や購買のパンの袋を開いてお喋りでもしながら、昼食を楽しむ時間である。


 転校前の学校ではクラスメイトがいなかったからできなかったが、この学園ではそれが当たり前になると守哉は思っていた。


 その例に漏れず、守哉もグループを作って料理長特製の弁当をつつきながら喋っている。


 まあ、それを楽しんでいるかは置いといて。


「つまりを言うと、同性愛こそが、真の恋愛なのよ!」


「どう考えたらいきなりそんな結論に辿り着くんだよ! スイーツの話題だったろ今!」


 椿はカフェオレを一口飲むと、箸を突き立て、真剣味溢れた口調で言った。


「チーズケーキのタルトに卵は使われているでしょ?」


「まあ……、だから?」


 どのケーキのタルトにも卵は使われているのだが。


「チーズ、卵。両方、メスの動物から生産されているのよ! メス同士だからこそ、美味なものを生み出せるのよ!」


「お前はゆんと何を生み出す気だ!? つうかそれ生物の種類が違うじゃん!」


「むー。ゆんも会話に入れて欲しいなあ」


 ゆんがむすー、としてちゅうちゅうリンゴジュースをすすっている。


 昼休みに入り、「かみやっ! おべんと一緒に食べよっ」とニコニコ笑顔で守哉に寄ってきたゆんだったが、突如出現した椿に「こんな獣といたら穢れてしまうわ!」と捕獲され、それでも守哉と食事をすることを譲らなかった彼女に椿は「じゃ、あたしがこのチャラヒョロ男を見張るしかないようね」。ということで椿も一緒に昼食を摂ることになったのだが。


「あっ、ごめんね、ゆんちゃん。真堂がしつこいから」


「俺のせいかよ。お前が話を脱線させたから、ゆんが除け者になっちまったんだろうが」


「なんですって?」


「あんだよ?」


 バチバチ、と向かい合う席で火花を散らす二人。それをゆんが「まあまあ」と促す。いつもは周囲を振り回す彼女が、今回は鎮め役である。


「……まあいいわ。ゆんちゃんに免じてね。……それで、なんの話だったかしら」


 椿が髪を掻き揚げる。露になった肌理の細かい首筋が無意識に守哉の視線を釘付けにする。ああもう、こんな性格と趣味じゃなかったら、恋に落ちるのは時間の問題だったのに。


「ゆんちゃんの魅力についての話? それなら得意分野よ! まず、この奇跡的に生まれた桜色の瞳! その色は全ての人の心を癒し……」


「ただお前が語りたいだけだろ! しかもそれ確実にゆんが入り込む余地ねえし!」


「いいのよ。ゆんちゃんは図解だから」


「会話に参加するどころかフリップ扱い!?」


「ゆんちゃんは物じゃない! あんたは間違ってるわ!」


「誘導尋問!?」


「次にこの紅い髪! 情熱的かつ、眠れる獅子のような静けさを感じさせるこのカラーリングは……」


「流しやがった! 確信犯だこいつ!」


 守哉を無視して、商品を紹介するセールスマンのように椿はゆんの魅力を話し続ける。


「あうう。な、なんか恥ずかしいな……」


 そりゃ自分のことを隅々説明されるなんて、もどかしい事この上なしだろう。


「大丈夫よゆんちゃん! ゆんちゃんに欠点など無いもの。むしろ胸を張るべきなのよ!」


「そ、そうなのかな」


 椿の言葉に戸惑いながら、ゆんは守哉をちらっと見る。何かを求めているようだ。


「……まあ、蝉羽の言う通りなんじゃねえの? 十分可愛いよ、お前は」


 そう言って、守哉は席を立った。


「そ、そそ、そうっ? う、嬉しいな。……てあれ。かみや、どこいくのー?」


 赤らめた頬に手を当てたゆんが訊ねると、かみやは「トーイレ」と手を振った。






「全く……。なんだあのボディーガードは」


 守哉は負の感情を込めて呟く。蝉羽椿のことだ。


 彼には一日を通して分かったことがある。まず、ゆんの可愛さはA組を魅了し、支配していること。確かにあんな絶世の美少女を目の前にすれば、性別関係なく誰もがひれ伏し頭を垂れることだろう。


 だが、逆にそれは諸刃の剣となる。嫉妬や欲望、それらをゆんに抱く人間が必ず現れてくる。しかもゆんは予想以上に無防備なのだ。人をすぐに信用し、なつく。それは彼女の魅力の一つでもあるのだが、それが罠にはめられやすいという弱点に変わる。宝石を傷つける覚悟さえできれば、何時、誰でも彼女を仕留めることができる。


 そんな危険をはらみながらもゆんが何事もなく過ごせているのは、蝉羽椿のお陰だ。


 威嚇的な態度、突き刺すような雰囲気、それに兼ね備えられた美貌。そして一番に、学長の孫、というステータスを持つ彼女がゆんを保護することで、誰もゆんに危害を加えることができないようになっているのだ。当たり前だ。学園内では最高の権力を持つ学長に、何かいちゃもんを吹き込まれたら、これからの学校生活が危険になってくる。


 故に、ゆんは蝉羽椿の好意を受け続ける間、何よりも安全に生活を送ることができる。


 しかし、またそれもデメリットがある。先ほども述べたように、蝉羽椿の存在は強大だ。普通の生徒は彼女に遺憾を感じられるだけで恐怖を覚える。ゆんを守るためには、それはとてもありがたいものなのだが、




 だからこそ、生徒たちがゆんに近づかなくなる。




 すぐに気づいた。大抵のクラスメイトが、ゆんと距離を置いている。彼女が嫌われている訳ではない。男子も女子も、授業中は彼女をうっとり眺め、たまに目が合って笑顔なんて送られると悶絶して昇天しそうになっている。皆ゆんが好きなのだ。だが、その好意の寄せ方は「仲の良い友達」というよりは「テレビの向こうのアイドル」に向けたようなものに見えた。例えれば一流ブランドのバッグを、とても買えないから見るだけで満足している一般人のような態度だ。


 確かに、ゆんと対峙するのには並の人間なら引け目を感じてしまう。「自分なんかがこんなすごい子と接していいのだろうか」と。自分もそうだったから、と守哉は思う。


 だがそれは一時的なもので、人懐こい彼女はすぐに打ち解けあって、たちまち仲良くなってしまう。


 なら、なぜクラスメイトならず他の生徒が彼女と遊んだり、共に食事したりしないのか。


 その原因もまた、蝉羽椿にある。彼女のゆんに対する過剰な独占欲、それが他の生徒たちをゆんに近づけにくくしている。しかも、だからと言って彼女をスルーしてゆんと接すると、彼女に嫌悪感を抱かれてしまう。そうすると学園生活が危うくなる。だから、誰もゆんと過剰に仲良くせず、適度な距離を置いてしまうのだ。


 そして、目の前にいる少女もそういう人間の一人ということなのだろうか。


 守哉はトイレを出た後、教室に向かって歩いていたのだが、ふと後ろから怪しげな足音が聞こえてきて、振り返ってみると、曲がり角に隠れてこちらをちらちら見てくる不審者(ただの女生徒)がいるではありませんか。それで近づいていって「おい。なにこそこそ見てんだ?」と聞いてみると、まさか気づかれていたとは思っていなかったのかびっくりして「はうっ。うう……。すみません。うう……」と泣き出すものだから、「ええ!? お、おい! なんで泣くんだよっ!」と守哉が慌てふためていると、いきなり手を掴まれ屋上に連れてこられたのだ。


 昼休みの屋上は、昼食を摂る生徒や、ロマンチックに景色を眺めるカップル、「ここから落ちれば誰にも迷惑かけずに逝けるな……」と地面を眺める猫背の暗い生徒などなど、結構人気がある場所だった。


「……んで、桐野はなんで俺を尾行してたわけ?」


 守哉はため息混じりに言うと、給水塔の壁に寄りかかった。


 桐野紗希、と名乗る少女は、守哉の問いに「あう、あの」と口を開いた。ちなみにこの少女、ホームルームの時に喋ったあの少女である。


「あの、その、真堂君がすごいなあって思って……」


「はあ?」


「つ、椿ちゃんに屈せずゆんちゃんと接している人、初めて見たから……」


「……? そしてなぜに尾行?」


「……私って、どこからどう見ても普通な人間ですよね……?」


「え、え?」


「はあ……こんなんだから、ゆんちゃんに近づけないのかも」


「えーと、すいません。話が噛み合ってませぬのですが」


 額の汗を拭っている守哉を見て、紗希は慌てて「ご、ごめんなさい」と手を振った。


「……まあ、いいけど。なに? ゆん絡み?」


「……! ず、ずばり! なんで分かったんですか!?」


「いや、ゆんちゃんって呟いてたし」


「はっ。確かに!」


「……それはいいからさ。で、ナニ? 桐野はゆんの友達なわけ?」


「ずばりです!」


「だからゆんと接したいけど、蝉羽が怖くて近づけないわけ?」


「ぐさり!」


「で、蝉羽を恐れずゆんと一緒にいる俺がすごいと思ったわけ?」


「ぐささっ!」


「それで俺に何かあるのも、と思って尾行に踏み出したり?」


「ぐっさー! がはあ!」


「……」


 守哉は再びため息をつく。説明してもらうつもりが、なんだかんだで全て自分で推理してしまった。紗希はリアクションをとっただけである。最後のやつとか女を捨てていた。


「あのな。別に俺は自ら進んでゆんに寄ってるわけじゃなくて、あっちが来るから一緒に行動してるだけだぜ?」


「がーん。……で、でも、椿ちゃんを恐れていないところはすごいと思います!」


「そうなんだ」


「そうなんです!」


「へえ」


「はい!」


「……」


「……」


 ……これでは話が進まない。仕方ないので、守哉は自分から話を展開していく。


「えーと。桐野は蝉羽のどこが怖いわけ?」


「全てです!」


「全て!?」


 本人がいたら、今すぐに紗希をボコボコにしていることだろう。確かに怖い。


「間違えました。オーラです」


「それでも十分に酷い!」


「なんか近づいたら消滅しそうです」


「聖域!? お前は悪霊かなんか!?」


「だってそんな感じしません?」


「俺にふらないで! 聞かれたら殺される!」


「あっ! それです! 殺気です!」


「もはやバトル物のラスボス! 脇役ならその殺気だけでひれ伏す!」


「あの、真堂君。話、進めていいですか?」


「うわあ! その困った顔むかつくう!」


 崩れ落ちる守哉を見て、紗希は不思議そうな顔で彼を眺め、「実はですね」と切り出した。


「私とゆんちゃんは小学生からの友達だったんです。いつ、何をするときも一緒で、もう親友みたいな存在だったんです」


 どっちかつうと「一緒に遊ぶ」より「遊ぶのに巻き込まれていた」に近い気がする。


「でも、椿ちゃんが現れてからは、私は彼女と触れ合うことが怖くなってしまったんです」


「……なんで? 蝉羽が怖いから?」


「それもありますけど、一番の理由は、私とゆんちゃんが本当に友達なのかなあって思ってしまって」


「はあ? 友達なんだろ? 蝉羽なんて無視して遊べばいいじゃねーか」


 守哉が怒り気味に聞くと、紗希は物悲し気な顔をし、俯いて言った。


「だめなんですよ……。私みたいな平凡な人間なんて、超お金持ちのゆんちゃんや、次期生徒会長確定と言われている蝉羽さんとは釣り合わないです……」


「……!」


 その言葉で守哉は即急に理解した。そうか。他のクラスメイトがゆんと距離を置くのにはもう一つ理由があったのか。


 絶世の美少女プラス富豪のお姫様ゆん、はたして自分が彼女と接するのにふさわしい人間なのだろうか、誰もがそう思う。だが、それを感じさせないぐらいに彼女は人懐こい。だから、大抵の人間はそれを意識せずに彼女と対峙することができる。


 だが、嫌でもそれを意識しなければならなくなった時、彼らはゆんと自発的に触れ合うことができるだろうか。


 蝉羽椿。見るものを魅了する美しい風貌、兼ね備えられた知性、学長の娘であると言う風格、ゆんに対する異常な感情さえ除けば、彼女は非の打ち所の無い完璧な人間だ。


 そんな人間が、ゆんの傍にいて、それを見る者は皆こう思う。


「ああ。やっぱり彼女たちは自分たちとは住んでいる世界が違う。お似合いだ」と。


 きっと、恥ずかしくなるのだと思う。まるで、田舎で農作業している人が、そのままの姿でファッションショーのステージの上に立たされた時の様な、場違いがすぎる羞恥心。


 誰もがそれを恐れ、ゆんから遠ざかっていく。世界が違う、自分では釣り合わない、と。


 違う。


 それを守哉は心からそれを否定した。


「釣り合うとか、釣り合わないとか、そんなくだらない事、ゆんは気にしてないと思うぜ?」


 え? と紗希が顔を上げる。守哉は意思の篭った強い瞳で彼女の目を見据え、口では笑みを作っていた。


 これが答えだ。


「俺らがあんな超人と釣り合うかどうかとか、考えたって無駄なんだよ」


 そうだ。言わせれば、紗希とゆんより、守哉とゆんのほうが全く釣り合っていない。それでも彼女は守哉を懐に迎え入れた。つまりはそういうことである。


 神掛ゆんは、自分の住む世界とか、誰が自分と釣り合うとか、そういう小さいことは気にしてないんだと、思う。


 それなのに、周りの人間が勝手にそれを気にして、彼女から遠ざかってしまう。


 それが、どれだけ自分勝手なことか。それこそが人間のエゴというものだろう。


「……でも」


 紗希は怯えたように言葉を紡ぐ。


「でも、とかじゃなくてな。だいたいお前も分かってるんじゃねえの?」


「――……え?」


「だいたいそんなの、端っから関係ないんだよ。一番大切なのって、なんかさ、心? 気持ち? みたいなモンなんじゃない?」


 なんかクサいセリフだな、と守哉は恥ずかしそうに頭をぽりぽりと掻く。


「だから、えっと。特別とか普通とか関係なくて、ただゆんと仲良くしたい、て気持ちさえあれば、何もあいつと接することに引け目なんて感じることはねえんだよ」


 自分で言っておいてすごく照れくさくなった守哉は、視界を明後日の方向に移す。だけど一応相手の反応も見ておきたいので、横顔でチラリと紗希を見る。


 紗希は、なぜか目を見開いて守哉を見ていた。しかも意味不明に顔を赤らめて。


 そして笑顔になったかと思うと、彼の手を握り、キラキラした視線を送ってきた。


「そ、そうですよね。真堂君の言うとおりです。私、多分どこかでは分かっていたんです。でも、その気持ちに自信が持てなくて……。でも! 今の真堂君の言葉で、勇気をもらいました!」


 女の子に手を握られて、心拍数を上げながらも「そ、そう?」と守哉は相槌を打つ。


「ようし。元気出てきました! ゆんちゃんの元へ行きましょう!」


 守哉の返事も待たずに、紗希は彼の手をぐいぐい引っ張って教室を目指していく。






「……あ、でも。もうひとつ問題がありました」


 教室の前でふいに足を止めた紗希は、泣きそうな顔で守哉を見た。


「なんだかんで私、椿ちゃんが怖いですう~!」


「そうだったな……。大丈夫だよ、俺がついてるから。殺気にアテられたら助けてやるぜ」


 そう言って、守哉は繋いだ紗希の手を強く握った。


「……! し、真堂君っ」


 紗希の顔が真っ赤になる。が、守哉はそれに気づかずに、先導するように彼女の前に立ち、教室の扉を開け放った。


 教室の中心には、椿と楽しそうに話しているゆんの姿があった。お喋りに夢中になっているようで、まだこちらには気づいていない。


「ほら、いくぞ」


「あ、あう」


 不安げな表情の紗希に、守哉は優しく笑いかける。そして、二人は互いに強く手を握ったまま歩き出した。


「あっ。かみやだ」


 守哉たちに気づいたゆんが、彼を見て不思議そうな顔をした。


「あれ、かみや? いつからさっちゃんと仲良くなったの?」


 その言葉に、隣にいた椿が、ばっ! と勢い良く振り返る。そして守哉と紗希を見ると、声にならない絶叫を表情で表した。


「し、真堂! あ、あんた! ゆんちゃんに飽き足らず、他の女性に手を出すなんて……! しかも桐野さんじゃないの!」


 蝉羽に名前を呼ばれて、紗希はビクウ! と体を震わせた。


「お前はそういう系統の考えしかできねえのか発情女! って、蝉羽と桐野、知り合い?」


 守哉が紗希を見ると、彼女は頭をふるふると横に振った。「会って話したことはないけど」と椿が口を開く。


「ゆんちゃんの友達は私の友達……ってことでゆんちゃんの友人関係を調べ上げた時に一番初めに出てきた人だから、よく覚えていたし」


「よく覚えていたし……じゃねえ! お前、完璧にゆんをストーカーしてんじゃねえか!」


「愛を育むためには、まずお互いのことを知らないと……」


「一方的にしか思えないんだけど!」


「失礼な! 私はゆんちゃんに履歴書を渡しているわ!」


「書類で作る友好関係!? どんだけ不器用!?」


「神掛家使用人のオーディション女性の部は、最終選考で落ちちゃったけど」


「危ねえー! 明歌さん受かってくれてありがとう!」


「だいたいあんたは何なのよ! 使用人でもないくせにゆんちゃんと一つ屋根の下なんて……! 羨まし過ぎるじゃない!」


「素直だけど動機は不純!」


「……あの~?」


 蚊帳の外に追いやられて、ゆんと紗希は涙目でこちらを見ていた。


「またゆん置いてけぼりだよう。かみやとつばちゃん、仲良いんだね」


 何気ないゆんの一言に、守哉と椿は「はあ!?」と同時に叫んだ。


「おま、ふざけてんの!? 俺がこんな悪趣味レズ女と仲良いわけねえだろが!」


「ゆんちゃんが言うことだとしても、さすがにそれは否定するわ! 私がこんなチャラヒョロ男と仲良くする意味が見出せないっ!」


「ちょ、お前、そのチャラヒョロ男ってのやめろよ!」


「ふん! だってそうじゃない、チャラチャラしてて、ヒョロヒョロしている男、真堂守哉。略してチャラヒョロ男ッ! ばっちりよ!」


「ぐあーいらつく! この痴女が!」


「ち、ちち、痴女ですって!? この……」


 次から次へと襲い掛かる互いの存在否定材料の嵐に、ゆんは硬く耳を塞ぐ。


「ゆ、ゆんちゃん……? 大丈夫?」


 ふらふら~と揺れるゆんの肩を掴みながら、紗希は彼女の意識を確認する。


「あう~。さっちゃん、助けて~」


 無理です、と紗希は目の前に聳える巨人の罵りあいを見て、切な本音をこぼす。


「……そういえば、さっちゃんと話すの、久しぶりだね」


「あ……、そ、そうだね」


 紗希がそっけない返事を返すと、ゆんは「もうっ」と頬を膨らませた。


「ずっと遊んでくれなかったから、寂しかったんだよう?」


「……? 寂しかった……?」


 驚いた顔をする紗希に、ゆんは可愛らしい怒り顔のまま「そだよう」と言った。


「で、でも、椿ちゃんがいたから……」


「つばちゃんは別だよう」


「……え?」


 さらに頭上の疑問符を増やし続ける紗希に、ゆんは、だから、と口を開く。




「さっちゃんはゆんの『おやとも』なんだから、いつも一緒にいてくれなかったら、寂しいのは当たり前だよう」




 親友、と言ったつもりなのだろう。


 その言葉に、紗希の動きが止まる。いつの間にか言葉の銃撃戦を終えた守哉と椿も、きょとんとした表情で紗希とゆんを眺めている。


「し、親友……?」


「あ、それそれ。しんゆー」


「私とゆんちゃんが……?」


「えっ? 一番仲の良い友達ってそう言うんじゃないの? 違った?」


 そこで、紗希の言葉は途切れた。もう聞きたいことも、言いたいことも終わったのか、硬く口を閉ざすと、そのまま俯いてしまった。


「え、あれ? さ、さっちゃん? どうしたの……って、きゃっ」


 顔は伏せたまま、紗希はゆんを抱きしめた。


「さ、さっちゃん……?」


「あ、……う……」


「あう?」


「ありがとう……。ゆんちゃん、ありがとう……!」


「え……」


「私……ひっく、本当は、うっ、分かって、いたのに……。自信が、持てなくて、ひっ。ゆんちゃんの気持ちなんて、ひう、考えないで……、ごめんなさい……!」


「さっちゃん……」


 きっと紗希の言っていることはゆんに正確には伝わっていない。だが、想いは伝わったのだろうか、ゆんは彼女の体を優しく包んだ。


「そうだよね……、私達、うっ、し、親友だよね……?」


 頬を真っ赤に染め、瞳から大粒の涙を溢す紗希は、嗚咽がこぼれる唇を必死に動かした。


 それに応えるように、優しい表情を浮かべたゆんは、子供をなだめる母親のような口調で、言った。




「そうだよ……? ゆんとさっちゃんはずっと、しんゆー、だよ」


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