第二章 電波と龍と遭難記 その5
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神掛家ダイニングにて、守哉はテーブルに突っ伏していた。
「つ、疲れた……!」
先ほどまで爺やとの大舌戦を終え、やっと誤解を解くことに成功した彼は、二日続きの徹夜の疲れもあり、もうそこから動けないでいる。誰からも信頼される立派な人間になろう、そう切に誓う守哉であった。
「あ、守哉―。シャワー終わったからどーぞー」
ダイニングにひょこっと顔を出したのは、それの一番の原因。キャミソールを羽織、髪をタオルでぐるぐる巻きにした姿は、一緒に住んでいる者しか見られない彼女の姿だ。
ゆんは守哉の隣に座ると、テーブルの上にあるリモコンを手に取り、スイッチを押して天井からスクリーンを出現させた。おお、金持ち。
大迫力画面でテレビを見ながら、ゆんは椅子の上に胡坐を掻いた。そして惜しげもなく、宝石を加工したような紅いショートヘアをタオルの束縛から解き放つと、それを無造作にぐしゃぐしゃー! とタオルでかき回した。ここらへんはホント、ただの女子高生である。
ゆんから漂うリンスの香りが守哉の鼻孔をくすぐる。
「ねえ、かみやー」
「はい、なんしょ」
守哉は、ぐでー、とした姿勢のまま、明歌が注いでくれたココアを口に当てた。
「あの時、なんて言おうとしたの?」
ココアは噴き出した。あれ、なんかこの場面デジャヴ。
「ごほっ、ごは!」
「だ、大丈夫?」
ゆんに背中をさすってもらいながら、守哉は思考を働かせる。
(どうする。あの時は雰囲気というかノリというかで、今、言うのはちょっとなあ……)
「それで、なんて言おうとしたの?」
手を守哉の背中から離し、ゆんは再度守哉に問う。うっ、と守哉が息を詰まらせる。
「あ、あのな……」
「うん」
「その……」
「その?」
「~っ! あ、あー疲れたなあ! ちょっとひとっ風呂浴びてくるぜ!」
「えー! なんかずるいよ、かみやー」
ゆんの言葉を無視して、守哉は席を立って歩き出す。
ダイニングを出る時、守哉の足が止まった。
「……にしても、あん時のアレは、本当の……」
龍のことである。あの時見たあれは決して幻とは思えない。もしかして、龍は本当に実在しているのだろうか。
そんなことを考えていると、ふいに、ゆんが見ていたニュースの音声が彼の耳に入った。
『海外のニュースです。昨日午前7時ごろ、エベレスト山に吹き上げる突風により、麓付近の集落が祭りに用いる龍の模型が宙を舞い、山頂辺りでは、「龍が現れた」と地元のカメラマンを驚かせました』
「……こういうことね」




