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第二章 電波と龍と遭難記 その3



            3



 東京都郊外、少ない緑と住宅地が広がる景色は普通と呼べるものだが、それも見方によっては絶景に変わることがある。


 例えば、上空から見てみること。


「どうだあ! 俺が本気を出せばこんなもんだぜ!」


 空を切る二人乗りジェット機の中で、守哉は後部座席に座るゆんに叫んだ。


 あの「やってやる」宣言から二十時間、爺やに徹夜通しで小型飛行機の操縦法を叩き込まれた守哉は、完璧にジェット機の基本的な運転ができるようにまでなった。これはもう、ただ天才としか呼びようがない。


 その間、寝るどころか屋敷にすら入っていない守哉は、目元に見ていて辛いぐらいのクマを作りながらも、頑張ってゆんをジェット機に乗せて空を飛んでいるのだが、


「む~……」


 その肝心のゆんが、何か腑に落ちない問題アリアリですぜ、な文字を顔に描いていた。


「だめだよう、これじゃ。あくろばっとはー?」


「二十時間で普通の操縦できただけでもすごくね!? 褒めてくれよ! そして龍見に行くのにアクロバットいらねーよな!?」


「えー。やだやだあ!」


 じたばたー! と機内で暴れるゆんに、守哉はため息をこぼした。






 ごおう! と勢いよくジェット機が空気を切り裂き、その機体は空中で自由自在に舞い踊る。プロも舌を巻く操縦の上手さである。


「ひゅーっ! かみやすごいすごおい! 本当にやってくれて嬉しいよ!」


「また徹夜だったから、今すぐに気絶しそうだけどな」


 爺やも驚いていた。まさか二日徹夜しただけで小型飛行機の基本的な操縦、さらには応用的なアクロバットまでマスターするとは、もう常人の域を超えている。これはもう、ただ超人としか呼びようがない。


 だが、目元の見ていて泣きたくなるぐらいのクマを見る限り、体力的には普通の高校生のようだ。


「はあ……。ヤバい、まぢ寝たい……」


「よしよしっ。あくろばっともできたことだし、今からエベレスト山に直行だあー!」


 酷くやつれている守哉なんて放っといて、十分な睡眠をとりお肌はすべすべーなゆんは一人テンションを上げていく。


「……はいはい」


 たとえ、実在しない物を探し回るだけだとしても、守哉はそれを無駄だとは思わず、レバーをひねってエンジンを滾らせた。






「……なかなか出てこないね、龍」


「まあな」


 今いるエベレスト山は天候に恵まれていないようで、守哉たちが乗るジェット機は吹雪の中を飛んでいた。


 到着から、かれこれ一時間は辺りをフラフラしているが、龍は姿を現さない。


 ガラス越しに吹雪の中に目を凝らすゆんを見て、守哉は口を開いた。


「あのさ、また明日来ようぜ。こんな視界の中じゃ、見つかるモンも見つからねーって」


「やだやだ! 絶対に見つけるもん!」


 駄々をこねるゆんに、さすがの守哉も腹が立ってきた。苦笑いを浮かべて振り返る。


「別に今日じゃなくてもいいだろ? 龍の方だって、吹雪の日までブラブラしようとは思わないだろうしさ。な?」


「一日だって待てないもん! 早く見つけて、ゆんの……」


 ゆんの言葉はそこで止まった。


「何だよ。どうした?」


 どうやら、ゆんは振り向いている守哉の後ろ――つまり、正面のガラスに映るものに目を奪われているようである。


 不思議に思いながら、守哉は視点をゆんから後方に移した。


「――……おい。嘘だろ」




 そこにあるのは、宙に浮き、外から守哉たちを見る正真正銘、「龍」の姿だった。




「きゃー! 出たー!」


「ぎゃああ! 出たああ!!」


 守哉とゆんは、口にした言葉こそ同じだが、リアクションは対照的である。


 目の前に現れた龍は、緑の鱗のヘビみたいな体躯を持ち、草食動物と同じ顔の側面にぎょろりと眼球がついていて、長い角と髭が特徴的な、アジア型の龍だった。大きさはそれほどまでない。ミニサイズのシェンロンと思ってくれると分かりやすい。


 守哉の脳内では、超高速での状況の処理が始まっていた。


 ええと、まず何で龍がいるのかは置いておこう。それよりはこの状況が危険なのか、そうではないかだ。龍って何科? 体型はヘビだし、でも哺乳類っぽいし、角からシカの仲間かと思いきや歯は犬歯だらけだし? ん、犬歯だけの歯ということは肉食か。じゃあ何を食うんだ?……あれ。ここにライオンやワニに食べられるヒト科の生物が二匹――!?


「ほらあ! やっぱり龍はいたんだよ! 龍さん! ゆんの願いはかみやとずっ……」


「っ! ゆん、逃げるぞ!」


 ゆんの返事を待たずに、守哉はレバーを思いっきり引いた。ぐおん! と機体が急上昇する。油断していたゆんが、後部座席で転がった。


「わあっ! か、かみや!? どうしたの!?」


「あいつは俺らを食べる気だ! だから逃げます!」


「ええ! まだお願い事言ってないよー!?」


「どうせ叶えきれないって! 地球のシェンロンはしょぼかったじゃん! 今度ナメック星に連れて行ってやるから我慢しろ!」


 ゆんの不満の声を無視してジェット機は上昇を続け、さっきの龍からどんどん遠ざかっていく。いける、と守哉は思った。


 だが、刹那、ジェット機内に大きな衝撃が走った。


「がっ!」


「きゃあ!」


 守哉とゆんはバランスを崩し、その場に倒れた。守哉はすぐに立ち上がり、レバーを持って辺りを見回す。衝撃の原因は彼の右側にあった。なんと、鋼鉄製の右翼が、根こそぎ吹っ飛ばされていたのである。代わりに、そこにはあの龍の姿があった。


「くそ……! やられた!」


 守哉はレバーを操作するが、機体はさっきとは間逆の急降下を始めた。


「ヤバいっ! 墜ちる……!」


 上空では龍が吹雪の中フワフワと浮いて、墜ちゆく守哉たちを見下ろしていた。






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