第6話 はじめまして、新米B-Tuberのカイです!
ぼくはダンジョンの第1階層へやってきた。
(今日は洞窟型か)
ダンジョンは毎日構造が変化する。
同じダンジョンの同じ階層でも洞窟型だったり森型だったりするんだ。
(よし、撮影を始めないと)
ぼくはポシェットからマホメラを取り出した。
このポシェットもプリラおねーさんに、冒険で便利だからと言われて購入したものだ。
本当、プリラおねーさんには助けられてばかりだなぁ。
「たしかこのボタンだったよね」
ぼくは口に出して確認しながら、マホメラのスイッチを押した。
するとマホメラは金色に光って空中に浮かんだ。
よし、これで撮影が開始されたはずだ。
えーっと、最初に何をするんだっけ?
そうそう、視聴者の皆さんへのご挨拶だ。
ぼくはマホメラの方を向いてペコリと頭を下げた。
「はじめまして。新米B-Tuberのカイです! よろしくお願いします」
……ちゃんと言えたよね?
うーん、撮影って緊張する。
カメラに向かって挨拶するのはちょぴり恥ずかしいなぁ。
マリアさんから、最初の挨拶だけでも丁寧語でって言われたんだけど、こんなかんじでいいのかなぁ?
まあいいや。
最初の撮影だし、失敗していたらまた明日やりなおすってことで。
……って、最初からやりなおしする前提じゃダメかな。
ともあれ、撮影は開始できた……はずだ、たぶん。
次は何をするか……
ダンジョンの冒険を撮影すればいいんだけど、やっぱりモンスターをやっつけたりとかかなぁ?
でも、第1階層のモンスターなんて本当に弱いヤツばっかりなんだよなぁ。
プリラおねーさんから『今日は第1階層だけ』って言われたけど……うーん。
迷いつつ、ぼくはダンジョンの通路を進んだ。
マホメラは自動でぼくを追ってきてくれる。
上手く撮影できていると良いな。
でも、こういう時に限ってモンスターが出てこない。
ぼくが1人で洞窟の中を歩き回っているだけの動画って、あんまり面白くないような気がするんだけど……
と、通路の先に広間があるのが見えた。
そのまま進んで……って違うか。
視聴者さんにダンジョンの説明するのも、ダンジョン動画の面白さだっよね。
実況ってヤツだ。
よし、頑張ってみよう。
「みなさん、あっちに広間があるみたい。えーっと、広間って言うのは、ダンジョンの中にあるお部屋みたいなところだよ。今まで歩いてきたのは通路っていうんだ。広間にはモンスターがいたり宝箱があったりするんだ。あ、でも通路にもモンスターがいることはあるんだけど……えーっと、あれ、ぼくは何を言っているんだろう?」
うう、実況にチャレンジしているうちに頭の中がこんがらがってきた。
ええい、困ったら開き直りだ!
「とにかく広間に行くねっ!」
広間にはブルースライムが一匹。
それに、第2階層へ進むためのオーブがあった。
この場合オーブについてとスライムについてと、どっちを実況した方がいいのかな?
ぼくが迷っていると、ブルースライムがのそのそと襲いかかってきた。
こうなったらしかたがないよね。オーブについての実況は後回しだ。
「ブルースライムがこっちにきたよ! でも安心して。ブルースライムは弱いモンスターだからね。パパッとやっつけちゃうね!」
ぼくはブルースライムを蹴飛ばした。
ぼくのキック一発で、ブルースライムはペチャリと潰れて霧になって消えた。あとには砂粒くらいの魔石が転がっていた。
この程度のモンスターなら、武器もスキルも魔法もいらないもんね。
あ、でも魔法とか使った方が動画映えしたのかな?
「ブルースライム倒したをよ。小さいけど魔石も手に入った!」
ぼくは魔石をマホメラに掲げて見せた。
「魔石っていうのは、モンスターを倒すと手に入るアイテムだよ。魔力のこもった石でマジックアイテムのエネルギーになるんだ。お店で売ることもできるよ。冒険者の収入の基本だよね」
ともあれ、次はオーブについて実況してみることにした。
「目の前に浮かんでいる青いキラキラ輝いている玉がオーブだよ。オーブの大きさはぼくの頭と同じくらいだね。このオーブに触ると、第2階層に移動できるんだ。第2階層に行くと、普通の方法じゃ第1階層に戻れなくなるから気をつけないとね」
うーん、これって実況っていうよりも、ダンジョンの解説みたいになってない?
実況って難しいなぁ。
まあいいや、ついでだからオーブについてもっと説明してみるか。
「えーっと、オーブには青いのと赤いのと黒いのがあるんだよ。赤いのはダンジョンの入り口だね。ダンジョンの外にあるんだ。ぼくはアンバの町の近くにある赤いオーブからこのダンジョンに来たんだよ」
こんなかんじでいいのかな?
なにか違うような気もするけど……
「黒いオーブはモンスター専用のオーブで、奴らがダンジョンにやってくるためのものなんだ。いくら倒しても、モンスターが次々に現れるのは黒いオーブがあるからなんだよ」
うん、やっぱりこれは実況と違うかも。
ダンジョンの解説だ。
なんだか視聴者さんが飽きちゃいそう。
ちょっと困っていると、ぼくがやってきたのとは別の方向に伸びる通路から、叫び声が聞こえてきた。
「うぉぉぉ!!!」
声の主は3人の冒険者。
彼らは必死の形相で、ぼくのいる広間まで全力疾走してきた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
とっても疲れた様子の3人に、ぼくはたずねた。
「どうかしたの?」
「うん? あ、お前、たしかカイだっけ?」
言われて思い出した。
以前、ぼくが仲間に入れてほしいってお願いしたパーティの1つだ。
たしか、男の戦士さんはリーダーのラッカさんだったかな?
「カイ、なんでこんな所にいるんだよ?」
「えーっと、B-Tuberになろうかなって思って撮影中」
「1人でダンジョンに来たのか?」
「うん、そうだよ」
「子ども1人でダンジョンって……いや、それよりも警告しておく。このままここにいるとヤバいぞ」
「なんで?」
「向こうにすっげーでっかいレッドスライムがいたんだ。俺たちを追ってきている」
「そうなんだ、やったぁ」
スライムとはいえ、大きいなら動画映えするかも!
一方、ラッカさんたちは慌てたままだ。
「はぁ? なにを喜んでんだよ、マジで牛とおんなじくらい大きいスライムだぞ」
なーんだ、牛さんくらいか。そこまで大きくないなぁ。
ぼくががっかりしていると、ラッカさんたち3人は焦ったままで話し合っていた。
「とにかく早くここから逃げないと……」
「あそこにあるのオーブじゃん!」
「よし、これで次の階層に行ける!」
「でも、第2階層にいったらもっと強いモンスターに襲われるかも……」
「だとしても、このままここにいるよりはマシだろう」
ラッカさんたちはこのまま第2階層に行くつもりらしい。
「カイ、お前はどうする?」
ラッカさんに聞かれて、ぼくは答えた。
「うーんと、レッドスライムをやっつけるよ。少しは動画映えしないといけないし」
「カイ、お前なぁ……動画よりも大切なこともあるんだぞ」
「でも……」
「いや、もういい。子どもを見捨てるようで気が引けるが、本人が望むならしかたがない。警告はしたからな」
それだけ言い残すと、ラッカさんたちはオーブに触って第2階層へ行ってしまった。
それとほとんど同時に、仔牛さんくらいの大きさのレッドスライムが通路から現れてぼくに襲いかかってきた!