第5話 マホメラを買おう!
プリラおねーさんと契約した翌日のお昼前。
ぼくとプリラおねーさんは、魔法道具屋さんで説明をうけていた。
「ダンジョン攻略動画の撮影ならば、断然こちらのマホメラがオススメですな。自動追尾撮影機能はもちろん、勝手に戦闘のベストポジションに回り込んで冒険者とモンスターの姿を撮影してくれます。もちろん、戦闘の邪魔にならないように動きますよ。操作方法も基本的にはボタン1つですから、それこそ子どもでも簡単に扱えます」
店員さんの説明にプリラおねーさんは「うーん」とうなった。
「でも、お値段がねぇ……こっちのと比べて10倍はするじゃない?」
「ああ、そちらのマホメラは量産品です。空中に浮かべて撮影することこそできますが、自動追尾機能はありません。映像もあまり鮮明ではありませんし操作方法も難しいです。モンスターと戦いながら使うには不向きですな」
プリラおねーさんは首を捻る。
「でも、このマホメラにも需要はあるわけでしょう?」
「どちらかというと私たちのような商売人が、防犯や交渉の証拠として最低限の記録をとるために使うものですな。激しく動き回るダンジョン動画にはまったくオススメできませんね」
「なるほどねぇ」
ぼくは言った。
「プリラおねーさん、ぼく、難しい操作は自信がないよ」
「それはそうよね」
プリラおねーさんはうなずくと、魔法道具屋さんに言った。
「いいわ、こっちの高い方のマホメラにしましょう。その代わりオマケしてちょうだいね」
「いやぁ、こちらの商品はすでに十分に勉強させていただいておりまして……」
「あら、いつもウチに宿泊している冒険者をご紹介しているはずだけど……次からは別のお店も紹介しちゃおうかなぁ?」
ニコニコしながらそう言ったプリラおねーさんに、魔法道具屋さんはちょっぴり慌てた様子だ。
「これは手厳しい。まったくプリラさんにはかないませんな。では銅貨100枚ほどお値引きしましょう」
「子ども相手にそのお値段はひどくないかしら? 銀貨5枚くらいは値引いていただきたいわねぇ」
魔法道具屋さんは両手をふって困惑して見せた。
「いやいやいや、宿屋とちがってウチはお子様価格は設定しておりませんので……」
「そこをなんとか……」
プリラおねーさんと店員さんはニコニコ笑いながらも、バチバチと言い争いを続けた。
ぼくはちょっぴり困っちゃった。
「あのー、プリラおねーさん……」
僕が口を挟もうとしたら、プリラおねーさんはニッコリ笑って言った。
「カイくんはちょっと黙っていてね」
それから再び、プリラおねーさんと魔法道具屋さんの長い長い戦いが始まった。
結局、銀貨2枚分お値引きしてもらえたよ。
ふくふく亭への帰り道で、ぼくは心配になってプリラおねーさんにたずねた。
「プリラおねーさん、魔法道具屋さんとケンカしていたの?」
「ちがうわよ。あれはケンカじゃなくて交渉」
「こーしょー?」
「ふふふ。独り立ちするなら、そういうこともすこしずつ覚えていかないとね」
「はーい」
ぼくは元気に答えて、それから別のことも聞いてみた。
「それにしても本当にいいのかな?」
「何が? マホメラのお金はカイくんが払ったんだから問題ないでしょ?」
「そうじゃなくて……動画の編集を全部マリアさんにお任せしてもいいのかなって」
「大丈夫よ。マリアはウチの宿の宣伝動画の撮影や編集も楽々こなしていたから」
ぼくは昨夜のことを思い出した。
B-Tuberになるという僕の夢。
それを叶えるためには動画編集をしてくれる人がいないと難しい。
そこで、プリラおねーさんが紹介してくれたのがマリアさんだ。
ふくふく亭の従業員で、普段は洗濯の担当。
でも本当に得意なのは動画編集らしい。
マリアさんは話を聞いて胸をどーんと叩いた。
「そういうことなら、この私に任せてほしいっすっ! 私がカイくんの動画を素敵に編集してみせるっすよ! アグレットなんて目じゃないくらいすごい動画を作って、バズらせてやるっすよ!」
ちなみに、マリアさんはアグレットにひどいセクハラを受けたことがあるらしい。
「ただ、そのためにはやっぱりマホメラが必要っすね。ふくふく亭の宣伝動画を撮影したときはマホレットで撮影したっすけど、あれじゃあ両手がふさがっちゃうっす。とてもダンジョンでやれる方法じゃないっすよ」
そんなわけで、魔法道具やさんでマホメラを購入したのだ。
ふくふく亭に帰ると、ぼくはマホメラの操作方法をお勉強した。
事前に設定しておけば、本当にボタン1つで撮影を開始したり停止したりできるみたいだ。
設定はマリアさんが楽々やってくれた。
これならぼくでもなんとかなる……かなぁ?
プリラおねーさんといい、マリアさんといい、頼りになるなぁ。
お知り合いになれたのはとってもラッキーだったよね。
感謝しなくちゃ!
で、マホメラを購入したさらに翌朝。
いよいよダンジョンで撮影に挑むことになった。
「これからはダンジョンで撮影した後、毎日ふくふく亭に戻ってくるのよ」
「うん! 動画編集してもらわないとだもんね」
「それはもちろんだけど、カイくんのことが心配だもの」
ぼくはキョトンと首を捻った。
「心配?」
「ええ、子どもだけでダンジョンに行くなんて、本当は止めるべきなのかもしれない。でも、止めても無駄なのよね?」
「うん! 僕の夢は世界一のB-Tuberになることだもん!」
「だったら、せめて毎日カイくんの元気な姿を見せて。そうじゃないと、私も不安だわ」
そっかぁ。心配してくれてるんだ。
「わかった!」
「それに、無茶しちゃダメよ。トロールがいる第12階層なんて行かないこと」
「えー、第12階層くらい大丈夫なんだけどなぁ」
第19階層までなら、たいしたモンスターもいない。一番強くてもダークトロールかビッグレッドラビットくらいだ。
第20階層より先はドラゴン系のモンスターも出てくるから、油断すると危ないけど。
「今日は初めての撮影でしょ。第1階層で十分だから! 夕方までには帰るのよ。【脱出】の魔法は使えるんでしょう?」
プリラおねーさんも心配性だなぁ。
でも、ぼくは新米B-Tuberだもんね。
「わかったよ。心配しないで」
まずは基本からいこう。
そのあと、ぼくは朝ご飯を食べていつものダンジョンへ出かけることにした。
「それじゃあ、行ってきまーす」
「本当に、くれぐれも気をつけてね」
ぼくはプリラおねーさんとマリアさんに見送られて、ふくふく亭からダンジョンへと駆けだした。
さあ、緊張のB-Tuberデビューだ!