第7話 イリエナちゃんとのコラボ冒険クライマックス!そして……
イリエナちゃんの歌声がダンジョンに響く。
今度は【風雷の歌】というらしい。
オオトカゲたちは風に吹き飛ばされると同時に、電気でビリビリしびれてしまった様子だ。
さらに【氷河の歌】でカッチンコッチンに凍らされて、黒い霧になって消えた。
これをMP0で使えるとか、ちょっと反則じゃない?
発動までの遅さという致命的な弱点はあるけど、第1階層のモンスターのほとんどは、イリエナちゃんの歌魔法に任せても大丈夫そうだ。
もちろん、不意打ちには警戒しなくちゃいけない。それは戦士の役目だ。
そうじゃなくても、危なそうなことがあったらぼくがまもらないとね。
そのあとも、ぼくらはモンスターを倒して回った。
ブルースライム、レッドスライム、レッドスネークなどなど。
イリエナちゃんもだんだん自信を持ってきたみたいだ。
だが、次の広間にいたのは……コボルト5匹の群れ。
イリエナちゃんは【炎の歌】をうたい出したが、コボルトたちはギロっとぼくらを睨んで一気に襲いかかってきた。
ダメだ、間に合わない!
スライム系やオオトカゲとかよりも、コボルトはずっと素早くて好戦的なのだ。
歌魔法が発動するまで待ってなんてくれなかった。
ぼくはとっさにショートソードを抜き、イリエナちゃんをかばって戦った。
もちろん、ぼくにとってコボルトなんて楽勝の相手だ。
【ソードダンス】であっという間にやっつけた。
「だいじょうぶ、イリエナちゃん?」
「あ、はい、大丈夫です。すみません。お手をわずらわせました」
「コボルト相手だと、魔法使いは先手をとられて棍棒でゴッチーンてされちゃうこともあるからね」
「はい……やっぱりわたしは冒険者としてはダメなんでしょうか?」
「そんなことはないよ。歌魔法はとっても強力だし、どんな魔法使いでも戦士や武闘家と組むのが当たり前だもん」
魔法使いは接近戦に弱い代わりに遠距離攻撃や集団攻撃が得意。
ぼくのお母さんみたいにそんな常識関係ないくらい、物理攻撃も強い魔法使いもいるけど、あれは例外だ。
イリエナちゃんは、魔法使いとして十分な実力を持っている。
一方で、ぼくは別のことが心配になった。
「イリエナちゃん、ちょっと声がかすれていない?」
「え、あ、えーっと」
「ひょっとしてうたい過ぎちゃった?」
「……はい。ちょっとだけ」
考えてみれば、結界の間で【癒やしの歌】をうたってから、すでに10回くらい歌魔法をつかっていた。普通の魔法と違ってMPを消費することはなくても、使いすぎれば喉を痛めて当然だった。
あー、もう!
なんでぼくはこういうことに気が回らないんだよ!
ぼくのバカバカバカッ!!
「今日はもう帰ろうか」
ぼくがそう提案すると、イリエナちゃんは「いいんでしょうか?」と首を捻る。
「大丈夫、動画の撮れ高は十分だし」
「ですが……」
「イリエナちゃんの夢は世界中に歌と【歌魔法】の力を届けることなんだから、喉を壊しちゃだめだよ」
「大丈夫です。これもありますから」
イリエナちゃんはポシェットから小さな玉っころを取り出して、口の中に放り込んだ。
「喉を癒やす薬草入りのあめ玉です。【癒やしの歌】で自分の喉は回復できませんから、いつも持ち歩いています」
「そんなのがあるんだ」
「芸能ギルドで購入できますよ。カイくんもなめてみます?」
ぼくは喉を痛めたわけじゃないけど、試しに一粒もらって口に放り込んでみた。
……
…………
……苦い。
支部長のおじいちゃんにもらったコンペイトウの方がずっと美味しかったよ。
イリエナちゃんがいたずっ子みたいに笑った。
「ふふふっ、美味しくはないでしょう?」
「うん、あめ玉っていうから、甘いのかと思ったのに」
「あくまでもお薬ですから。いずれにしても、今日はこれ以上うたわないほうがいいかもです」
「わかった。じゃあ【脱出】の魔法を使うから、ぼくの手を握ってくれるかな?」
「はい」
手を握った理由は、一緒に【脱出】するために必要だからだ。
そうなんだけど……
「カイくんの手は硬くてとっても頼もしいです」
「イリエナちゃんの手は、やわらかくてとってもあったかいよ」
「へへへ」
「ふふふっ」
魔法を使う前にそんな会話をしてしまう程度には、ぼくとイリエナちゃんは仲良くなれたみたいだ。
ぼくらがふくふく亭に戻ったのは、お夕飯時よりもちょっとだけ前だった。
プリラおねーさんとマリアさんがぼくらを出迎えてくれた。
「おかえりなさい、カイくん、イリエナちゃん」
「お疲れ様っす。どうだったすか?」
マリアさんに聞かれて、イリエナちゃんとぼくは答えた。
「はい! とっても楽しかったです。カイくんはすごく頼りになりました!」
「ぼくも楽しかったよ! イリエナちゃんの歌魔法ってすごいんだ! とってもきれいで、とってもかっこよくて、それでね……」
そんなぼくらに、マリアさんが言った。
「自分が聞きたかったのは怪我をしなかったかと撮影ができたかってことだったんっすけど……そうっすか。そんなに楽しかったっすか。ダンジョンで仲良くラブラブピクニックデートっすか?」
そう聞かれて、ぼくとイリエナちゃんは顔を真っ赤にしてしまった。
「デ、デートって、そんなわけないよ!」
「そうですよ! あくまでもコラボ撮影で……」
「ぼ、ぼくらは、その、ねぇ?」
「はい、わたしたちはそんな、デートだなんて……」
慌てまくるぼくらに、マリアさんがニヤニヤと笑った。
「2人とも仲が良くなったみたいで何よりっす。実に初々しくてかわいいっすね。そうっすよね、プリラさん?」
話を振られたプリラおねーさんは、そっちはそっちでなぜか大慌て。
「え、ええ、もちろんよ! カイくんにお友達ができて良かったわ。そう、あくまでお友達だもんね?」
うーん?
なんでプリラおねーさんが『お友達』を強調しているんだろう?
もちろん、イリエナちゃんはぼくの大切なお友達だけど。
マリアさんはニヤニヤ顔のまま、ぼくらに言った。
「ま、ほのぼの三角関係はともかくとして、明日はもう一つのコラボ動画の撮影っすね」
え、もう一つの撮影?
今度は第2階層に行くとか?
首を捻ったぼくに、イリエナちゃんが言った。
「そうですね! 明日は歌い手としてのコラボ動画です。カイくんも何かうたってくださいね♪」
あ、そうか。
これはコラボ撮影だもんね。
ぼくもイリエナちゃんの動画に出演しなくちゃね!
当たり前だ……って、え?
「ええええっ!? ぼくもお歌をうたうの!!!???」
ぼくの悲鳴のような声が、ふくふく亭の食堂に響いたのだった。




