第6話 炸裂イリエナちゃんの歌魔法!グリーンスライムをやっつけろっ!!
結界の間でお昼ご飯を食べて、しっかりお休みしたあと、ぼくらは再びダンジョン探索を再開することにした。
結界の間を出る直前、イリエナちゃんが不安そうに言った。
「ほ、本当にわたしがモンスターと戦うんですか?」
「うん。がんばってみようよ」
イリエナちゃんの夢のためには冒険者としての実績が必要。
そのためには、このままぼくが全部のモンスターを倒したんじゃダメだ。
イリエナちゃん自身がモンスターを倒せないと意味がない。
「で、でも、わたし……」
「ぼくが一緒だから大丈夫。いざとなったらぼくが助けるから安心して。歌魔法がダンジョン探索に役立つってみんなに見せようよ!」
「わかりました。わたしの夢のためですから! でも……何かあったら助けてくださいね」
「もちろん!」
こうして、ぼくらはモンスターの待つ結界の間の外へと向かった。
結界の間から出てしばらくまっすぐ通路を歩いて、右に曲がって、また歩いて、それからもう1度右に曲がったところで、グリーンスライムが1匹正面から現れた。
「さ、イリエナちゃん」
「カイくん……わたし、やっぱり……」
ガタガタと体を震わせて不安そうなイリエナちゃん。
最弱のモンスター相手でも、初めて自分で戦うんだから恐くて当然だ。
ぼくが倒すのは簡単だ。
でも、イリエナちゃんの夢のためにもここはそれじゃダメだ。
「大丈夫、イリエナちゃんならできるよ。スライム系のモンスターだから、炎が有効だよ」
事前に歌魔法でどんな攻撃ができるのかは聞いていた。
「は、はい! じゃあ、【炎の歌】を使います」
【炎の歌】は【癒やしの歌】とは全然違った。
【癒やしの歌】は心がポカポカしたけど、【炎の歌】はゴウゴウと燃えるような力強さがあった。
【癒やしの歌】をうたっているイリエナちゃんはきれいだと思ったけど、【炎の歌】をうたっているイリエナちゃんはカッコイイって感じだ。
(がんばれ、イリエナちゃん!)
心の中でイリエナちゃんを応援しつつ、ぼくはグリーンスライムの動きを観察。さらに後方をからモンスターが来ないかも警戒していた。
イリエナちゃん曰く、歌魔法最大の弱点は効果が現れるまでに時間がかかること。
もしもその間にグリーンスライムがイリエナちゃんに急接近したり、後ろから別のモンスターが襲ってきたりしたら、ぼくが戦わないとダメだ。
いざとなったらいつでもショートソードを抜けるよう、右手は剣の持ち手に添えておいた。
魔法使いを守るのは戦士の役目だもんね!
だけど心配は無用だった。
グリーンスライムがのそのそとイリエナちゃんのそばにたどり着く前に、グリーンスライム直下の地面から炎が吹き上がった。
完全にオーバーキルな威力だ。レッドスライムでも一撃で倒せる勢いだ!
「すごいや、イリエナちゃん!」
ぼくは心からそう言った。
「倒せたんでしょうか?」
「うん、あの威力なら十分だよ! ほら、魔石も残っているでしょ」
ダンジョンでモンスターを倒せば魔石になる。
クリーンスライムが残した魔石は小指の指先ほどの小さな物だ。
それでも、イリエナちゃんが初めて倒したことに違いない。
ぼくは地面に転がった魔石を拾った。
「初勝利おめでとう!」
そう言って、戦利品の魔石を渡すと、イリエナちゃんはぱぁっと笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます」
ぼくはチラっと空に浮かぶ2台のマホメラに目をやった。
「みんな歌魔法が冒険でも役に立つって分かってくれるよ」
「カイくんのおかげです。わたし1人じゃとても無理でした」
「魔法使いは戦士とコンビが基本だからね。ぼくのお父さんとお母さんもそうだったし」
お父さんは戦士、お母さんは魔法使い兼ヒーラーの名コンビだった。
あの2人はどっちも単独でブラックドラゴンをぶち倒せちゃうレベルだったから、参考にしにくいけど。
「じゃあ、次に行ってみようよ。MPはまだ大丈夫?」
「そもそも歌魔法にMPはいりませんから」
「え、そうなの?」
「はい。そういう意味では魔法よりもスキルに近いのかもしれません」
「すごい!」
2人でならんで歩きながら、ぼくはひたすらに感心した。
MPの消費無しで、回復や炎の魔法が使えるなんて、歌魔法はものすごい!
しかも、【癒やしの歌】には味方のMPを回復させる効果もあるみたいだし。
「でも弱点も色々あって……発動までに時間がかかっちゃうのもそうですけど、【癒やしの歌】は敵味方かまわず回復させちゃうとか……」
たしかに、あの優しい音色はモンスターの体力も回復させちゃいそうだ。
「それに、【癒やしの歌】は自分には効果が無いんです」
そういえば、【癒やしの歌】を使った後、イリエナちゃんは『疲れた』って言っていたっけ。
普通の魔法よりもさらに発動に時間がかかるのも事実みたいだし、強力だけど使いにくい部分もあるかも。
ま、それについてはあとで考えるとして。
「次はアイツらを倒してみる?」
そう言ってぼくが指さした先の広間では、オオトカゲが3匹こちらに牙をむいていたのだった。