第2話 イリエナちゃん、ここがダンジョンだよ!
今日の第1階層は、森型だった。
広間の真ん中にワープしたぼくはすぐに周囲を確認した。
大丈夫、近くにモンスターはいない。
イリエナちゃんもキョロキョロと辺りを見回していた。
「ここがダンジョンですか?」
「そうだよ」
「森のように見えますけど……ダンジョンって、てっきり洞窟のような場所ばかりなのかと思っていました」
「洞窟型のときもあるけどね」
「"ときもある”?」
えーっと、どう説明したらいいかなぁ?
イリエナちゃんだけじゃなく、イリエナちゃんの視聴者さんにもちゃんと説明すべきかな? ぼくの視聴者さんはとっくに知っていると思うけど……
「ダンジョンは日付が変わるたびに全然違う姿になるんだ」
「はい、それは聞いたことがあります」
「前回来たときは第1階層は洞窟型だったよ。その前は河原型だったかな」
イリエナちゃんはお目々をまん丸にしてビックリしたみたいだ。
「そこまで変化があるんですか!?」
「うん」
「おどろくしかないです」
そっかぁ。
ぼくら冒険者にとっては当たり前のことだけど、イリエナちゃんからすればビックリなんだなぁ。
むしろ、ぼくの方が新鮮な気持ちになったよ。
「でも、森というわりには、四角い広間とまっすぐな道ですし……葉音や虫の声がきこえません。わたしの故郷の森とはずいぶんちがいます」
「うん、ここはあくまでもダンジョンだからね。こっちに来てみて」
ぼくはイリエナちゃんの手を取り、広間の端へと向かった。
「ほら、こうやって手を伸ばしてみて」
ぼくは広間の外へと手を伸ばした。
だが、そこには透明の壁があり、木に触ることができない。
イリエナちゃんもぼくと同じように透明な壁にさわり、またまたビックリした様子だった。
「これ……どうなっているんですか?」
「ダンジョンの基本は広間と通路でできているんだ。木の間を通れそうだけど、実際はこんな風に透明な壁に囲まれているんだ。森型でも洞窟型でも、ダンジョンの基本は通路と広間だよ」
谷のダンジョンとかはまた少しちがうけど、その説明は省いた。
ある程度先の階層にいかないと出現しないからだ。
「じゃあ、森でも洞窟でも実際にはそんに変わらないってことですか?」
「うーん、そうとも言えないよ。出現するモンスターの種類とかがちょっとちがうんだ。洞窟型にしか出ないスライムもいるしね、逆に空を飛ぶモンスターは森型の方がたくさん出るよ」
「そうなんですね」
「あとは見晴らしかなぁ。洞窟型の場合、曲がり角の先がほとんど見えないけど、森型は木の間から少しだけ見通せる」
「なるほど」
イリエナちゃんは納得したとうなずいた。
「それで、これからどうしましょうか?」
たしかに、ここでぼーっとしていても何にもならない。
動画の撮れ高という意味でも、少しくらいモンスターを倒したりしないとまずいよね。
「とりあえずダンジョンの中を歩いてみる?」
「はい!」
「どこからモンスターが現れるか分からないから注意してね」
実際の所、第1階層のモンスターなんて恐くない。
せいぜい強くてもコボルトくらいだ。
森型は空飛ぶ敵が多いなんて行ったけど、それはもっと深い層のこと。
第1階層ではそんなのほとんど出ない。
とはいえ、イリエナちゃんはダンジョン初体験。
ぼくがしっかりまもらなくちゃ。
あらためてそう決意していると、イリエナちゃんが左手でぼくの右手を握った。
ドキンっ。
イリエナちゃんのやわらかくてあたたかい手の感触に、またまたぼくの心臓がちょっとだけ高鳴った。
「イリエナちゃん、手をつないで歩きたいの?」
「はい。ダメでしょうか?」
「えーっと、かまわないけど、できれば逆の手がいいかな」
「え、どうしてですか?」
「ぼく、右利きだから。いざって時、右手があいていた方が戦いやすいんだ」
第1階層のモンスターなんて両手が塞がっていても蹴飛ばすだけで倒せるけどね。
「あ、ごめんなさい」
イリエナちゃんは逆の手を握りなおしてくれた。
お母さんやプリラおねーさんと手をつなぐととっても安心するけど、イリエナちゃんの手を握るとドキドキが止まらなくなる。
ずっとこうしていたいなって思っちゃうんだ。
イリエナちゃんと一緒に歩いているとまるで熱でもあるように、ちょっとぼーっとしちゃう。
ぼくは首をぶんぶんと横にふった。
ぼーっとしちゃダメダメ。
第1階層とはいえ、ここはダンジョン。
油断は禁物。ぼくがイリエナちゃんをまもらなくちゃいけないんだから!!
歩くことしばらく。
「モンスター出ませんね」
「うん。第1階層はこんなもんだよ。がっかりした?」
「い、いいえ。モンスターはこわいですし」
「大丈夫。第1階層のモンスターなんてそんなに強くないよ。むしろ、このままだと動画の撮れ高が問題かなぁ」
せっかくのコラボ動画なのに、ぼくとイリエナちゃんが歩き回るだけじゃ、さすがにちょっとねえ。
「イリエナちゃんもせっかくダンジョンに来たのに歩くだけじゃつまんないよね?」
イリエナちゃんは首をぶんぶんふって否定した。
「そんなことありません。カイくんといっしょに歩くのは楽しいです」
「本当? よかったぁ。ぼくもイリエナちゃんと一緒だと……」
『……楽しいよ』と続ける前に、イリエナちゃんが前方を指さして叫び声を上げた。
「きゃぁぁっ!」
前方からやってきたモノを見て、ぼくはぐっと身構えた!




