第2話 ちびっ子冒険者カイ、プリラおねーさんを助ける
おねーさんをかばって立ちふさがったぼくに、男達の1人が戸惑った様子で叫んだ。
「このガキ、どこから現れやがった?」
どこからって言われても困るんだけどな。
「えーっと、普通に【俊足】のスキルを使って走って来ただけなんだけど……」
「はぁ!? 冗談だろ!? なんでテメェみたいなガキが【俊足】なんて使えるんだよ!?」
う~ん?
ぼくが【俊足】を使えるようになったのは6歳のころなんだけど……
なんでそんなにビックリしているんだろう?
ひょっとしてこの人たち弱いのかな?
そう考えて、一瞬油断しそうになった。
ダメダメ。
油断大敵。
冒険者は一瞬の気の緩みで命を落とすって、お父さんも言っていたじゃないか。
この人達だって、大人だしぼくより強いはずだ。
でも、【俊足】なんていう簡単なスキルに驚いたのは何でだろう?
ぼくはちょっと考えてみた。
相手を観察して、思いついた。
そうか!
この人達ってパワー系のスキルに特化しているのかも。たとえば、【筋肉強化】とか、【強力太刀】とか……
うん、きっよそうだ。筋肉ムキムキだし。
だとしたら、【俊足】なんて覚えなくても大丈夫なのかも。
あぶないあぶない。
油断するところだったぞ。
お父さん、忠告してくれてありがとう!
今は遠くにいるお父さんに感謝しながら、ぼくは男達に向けてショートソードを構えた。
どうしよう。
相手は大人が5人。
圧倒的に不利だ。
先手必勝で攻撃するべきかな?
あ、でもちょっと待てよ?
あせって飛び出しちゃったけど、この男の人たち本当に悪い人なのかな?
可能性は低いと思うけど、実はおねーさんの方が泥棒さんだったりして。
もしそうなら、事情を聞かずに戦ったらぼくが悪者になっちゃう。
うーん、困ったなぁ。
どっちが悪者か分からないと動きようがないよ。
しかたなくぼくは男達にたずねた。
「えーっと、お兄さん達って泥棒さん?」
その言葉に、男達は唖然とした顔をした。
それから、一瞬の間の後、大声で「ガーッハッハ」と笑い出した。
「泥棒さんか。ちょっと違うが、まあ、その女の大切なモノを無理矢理奪おうとしていたのはまちがいないな」
それを泥棒さんっていうと思うんだけどなぁ。
一方、男がニヤニヤと僕を嬲るように笑った。
「これから大人のお楽しみをするんだよ」
チビのガキか。
たしかにぼくはチビでガキだ。
それはその通りだけど。
ぼくはチラリと、背後のおねーさんの様子をうかがった。
彼女は破れた服を押さえながら、涙を流して、恐怖にブルブルと体を震わせていた。
「泥棒するのが楽しいの?」
「ふんっ。チビのガキには難しい話だな」
もう、間違いない。
悪者は男達の方だ!
だったら遠慮なんてしないぞ!
勝てるかどうかは分からないけど、おねーさんを見捨てるわけにはいかない!
チビでガキでもぼくは男なんだ。
男なら女の人を護れるように強くなれって、お父さんも言っていたもん。
ぼくはショートソードを抜き放ち、【風刃】のスキルを使った。
ショートソードから風の刃が吹き出し、男達に襲いかかる。
コボルト10匹くらいなら吹き飛ばせる風を巻き起こす技。
8歳の時に覚えた、ぼくが一番得意な複数攻撃技だ。
もちろん、男達を倒すには力不足……だと思ったんだけど。
「ぐ、わぁぁぁ!」
男達は悲鳴を上げて吹き飛び、壁に激突して沈黙した。
あれ?
どうしたんだろう?
この程度の攻撃ぼくだって避けられるし、当たったとしてもすぐに起き上がれるんだけど……
ぼくが首を捻っていると、おねーさんが立ち上がった。
「ありがとう、助かったわ。キミってすごい強いわね!」
すっかり安心した様子のおねーさん。
「油断しちゃダメだよ。あのくらいの攻撃で気絶するわけないもん」
ぼくの言葉に、おねーさんは「え?」という顔になった。
「そ、そうかしら? 私は冒険者じゃないからよく分からないけど、かなり強力な攻撃だったような……気絶っていうか、死んじゃってないかしら」
「まさか。きっと倒れたふりをしてこっちの油断を誘っているんだよ」
「え、えーっと、いやでも……」
多少は痛かったかもしれないけど、あのくらいで気絶なんてしないし、まして死ぬわけもない。
しばらく男達を油断なく観察していると、騒ぎを聞きつけたらしい人達が集まってきた。
その中には町の警備兵もいた。
「これは……なにごとですか?」
ぼくより先におねーさんが説明してくれた。
「この男達が私に襲いかかってきたのよ。そしたら、この子が助けてくれたの」
「はあ……その子がこいつらをやっつけたんですか?」
警備兵さん達は首を捻ってぼくを観察した。
そうだよね。
ぼくみたいなチビが大人達をやっつけたなんて信じられないよね。
おねーさんが警備兵さん達にに言う。
「ひょっとするとアイツら命に関わる怪我をしているかもしれないわ。一応病院に連れて行った方がいいかも。ま、私としては、このままくたばってもらってもいいけど」
一方、ぼくは警告した。
「まだ襲いかかってくるかもしれないから気をつけて」
だけど、別の警備兵さんの1人が男達に近づきあきれたような声で言った。
「いや、これは完全に気絶しているよ」
「えー、そんなわけないよ」
うーん、ひょっとして当たり所が悪かったのかな?
別の警備兵さんがおねーさんに言った。
「この辺りでは悪い評判が絶えない奴らです。プリラさんの言葉は正しいのでしょう。とはいえあとで事情聴取をさせてもらう必要があるかもしれません」
「かまわないわ。でも、いまはこの小さなナイトくんにお礼をしたいのだけど……」
「プリラさんのことは信用しておりますからいいでしょう。あとでふくふく亭にお伺いします」
「ええ、お待ちしています」
おねーさんはニッコリ警備兵さんに笑った。
泥棒達は警備兵さん達に連れていかれた。
その後、野次馬さん達もいなくなると、おねーさんがあらためてぼくに言った。
「キミ、名前は? あ、私の名前は……」
「プリラおねーさんでしょ?」
「あら、知っていたの?」
「さっき警備兵さん達が言っていたもん」
プリラおねーさんは納得したらしく頷いた。
「そういえばそうだったわね」
「ぼくはカイ。名乗るのが遅くなってごめんなさい」
「そっか。カイくんね。あらためてありがとう!」
大人のおねーさんに真っ正面からお礼を言われて、ぼくはちょっぴりドギマギしてしまった。
お返事ができないで頭をカキカキしていると、プリラおねーさんはさらに言った。
「カイくんって、とっても強いんだね」
「そんな、ぼくなんてまだまだだよ」
「でも、【俊足】がつかえるんでしょう? それにさっきのって、たぶん【風刃】よね?」
「そうだけど」
「その歳でそんな強力なスキルが使えるなんて、おねーさんびっくりしちゃったわ」
うーん。
【俊足】や【風刃】くらいでおおげさだなぁ。
冒険者じゃないプリラおねーさんからするとそう感じるのかな?
「ねえ、カイくん。お父さんやお母さんはどこにいるの?」
「このあいだ13歳になったから、独り立ちが許されたんだ。2人がどこにいるかは……うーんと、わかんない」
プリラおねーさんはおどろいた表情になった。
「そんな古風な……たしかに制度上は13歳になったら成人だけど……カイくん。今日泊まる場所はあるの?」
「町の外の森で寝ようかなって」
プリラおねーさんは目を見開いた。
「ダメよ、そんなの。いいわ。今日はウチの宿に泊めてあげる」
「プリラおねーさんって宿屋の人なの?」
「そうよ。宿の女将さんってやつね」
ちょっぴり自慢そうなプリラおねーさんに、僕も感嘆の声を上げた。
「すっごーい」
「今日は助けてもらったし、宿代はおまけしてあげる」
「本当に!?」
「ええ、それに美味しいお夕飯もおごってあげる」
これはラッキーだ。
ぼくは「わーい!」と飛び跳ねて喜んだ。
プリラおねーさんはおかしそう笑った。
「ふふふっ、カイくんてあんなに強くてカッコイイのに、かわいいところもあるのね。私があと5歳も若かったら、デートの申し込みをしていたかもしれないわ」
デートだなんて照れちゃうなぁ
もちろん冗談だろうけど。
「てへ。でも、ぼくなんてまだまだ弱いよ」
ぼくがそう言うと、プリラおねーさんはちょっぴりあきれ顔になった。
「いや、それはないでしょう」
「お父さんやお母さんはもっともっとずっと強かったもん」
「そうなの。ま、それはいいわ。宿に案内するわね」
「うん、お願い!」
こうして、ぼくはプリラおねーさんが経営するふくふく亭に案内してもらうことになった。
このプリラおねーさんとの出会いが、B-Tuberとして成功する最初の一歩になるなんて……この時のぼくはまだそんなこと想像もしていなかったんだ。
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