第8話 かわいいエルフの歌い手、イリエナちゃん
突然ふくふく亭にやってきて、コラボを依頼してきた少女、イリエナちゃん。
とってもかわいいお顔と、ピンクの目と紫色の髪の毛、それにとんがったお耳が特徴的。
服装は上下が繋がったゆったりしたタイプだ。
……って、とんがったお耳!?
あきらかに普通じゃないよ。
それも含めてかわいいけど。
ぼくが驚いて目をぱちくりしていると、近くで配膳の仕事をしていたマリアさんがぼくの耳にささやいた。
「イリエナちゃんはエルフ族だそうっすよ」
ぼくはさらに驚いて声を上げてしまった。
「エルフ!?」
たしか、この間お勉強したような……そうそう、ぼくら人間とは似て非なる少種族だ。
ずっと南にあるなんとかって森に住んでいる少数種族だったはず。
男も女も、大人になってもとってもかわいくて、歌がうまいのが特徴……だったかな?
目を見開いたままのぼくに、マリアさんが再びささやいた。
「カイくん、種族差別はダメっすよ」
そんなつもりはなかったんだけどなぁ。
でも、いきなり声を上げたのは良くなかったかな?
「ごめん、ちょっとビックリしちゃって」
イリエナちゃんは気にした様子もなくにっこり笑ってくれた。
「気にしないでください。このあたりではエルフ族はとても珍しいでしょうから、驚かれるのも無理はありません」
ぼくより年下に見えるのに、ずいぶん礼儀正しい女の子だなぁ。
「ありがとう。それでコラボってどういうこと?」
「はい! 実は私、芸能ギルドネットで歌い手として配信しているんです」
冒険者ギルド以外にも、芸能ギルドとか、商人ギルドとか、いろんなギルドがある。
芸能ギルトネットの動画投稿サイトでは『歌い手』というタイプの配信者がいるらしい。
色々なお歌を披露して視聴者さんに聞いてもらうそうだ。
「それで、歌い手さんがぼくとコラボしたいの?」
コラボの意味は分かる。
自分以外の動画配信者さんと一緒に撮影することだ。
お互いのチャンネルの紹介になるし、有名な配信者さんとコラボするのは名誉なことでもある。
ぼくがちょっと困った顔を浮かべると、イリエナちゃんは泣きそうな表情になった。
「ダメ……ですか?」
「いや、ダメってわけじゃないけど……」
ぼくはダンジョン攻略系配信者だ。歌い手の動画とコラボって言われてもどうしたら良いのか分からない。
ちょっとだけ沈黙していると、プリラおねーさんが、僕らに言った。
「とりあえず、立ち話もなんだから食堂で座ったらどうかしら?」
うん、それはそうだよね。
ぼくとイリエナちゃんはふくふく亭の食堂で、向かい合わせに座った。
プリラおねーさんがミンゴのジュースを二杯持ってきて、机に置いてくれた。
イリエナちゃんはプリラおねーさんに言った。
「あの、注文してませんけど」
「心配しないで、これはおごりだから」
「いえ、お金は払います」
「大丈夫だって。カイくんがおごってくれるわよ」
ええぇぇぇ! ぼくのおごりなの!?
「カイくん、男として太っ腹なところを見せなさいよ」
「別に良いけど」
なんか、プリラおねーさんに上手いことのせられちゃったなぁ。
ま、いいか。ぼくも喉渇いていたし。
ぼくはジュースをごくっと飲んだ。
「イリエナちゃんもどうぞ」
「本当におごってくださるんですか? わたし、お金ならそれなりにありますけど」
「大丈夫、ぼくも喉渇いていたしね」
「はい、それじゃあ遠慮無く」
イリエナちゃんもミンゴのジュースをごくっと飲んだ。
それからちょっとびっくりした表情で言った。
「美味しい」
プリラおねーさんがうれしそうに言った。
「ありがとう。ふくふく亭自慢のミンゴジュースよ。ミンゴの実は裏の畑で自家栽培しているの」
「すごいです。エルフの里でもこんなに美味しいミンゴの実はないですよ」
そんな風に少しだけお話しして。
ぼくはちょっぴり緊張していた。
考えてみれば、ぼくは子どものお友達っていない。
まして、女の子と話をするのは初めてだ。
もちろん、お母さんやプリラおねーさんやマリアさんも女の人だけど。
なんていうかな、イリアナちゃんはもっとその……うん、かわいい!
気がつくと、ぼくはぽーっとイリアナちゃんの顔を見つめていた。
「あの、カイさん。わたしの顔に何か就いていますか?」
イリアナちゃんに言われて、ぼくはなぜかギクっとなってしまった。
「そ、そんなことないよ。イリエナちゃんってかわいいなって思って」
すると、イリエナちゃんはポッと顔を赤くした。
「やですね、カイさん。からかわないでくださいよ」
うう、なんか余計なことを言っちゃったかな。
「ごめん」
ぼくが謝ると、イリエナちゃんは「ふふっ」っと笑った。
「別に謝る必要は無いですよ」
「うん、ごめん」
「ですから、謝らないでください。それより、そろそろ本題には言って良いですか?」
本題……そうだ、コラボしたいって話だよね。
いつまでもイリエナちゃんに見とれている場合じゃない。
「うん、ぼくとコラボしたいんだよね」
「はい! まずは私の動画を見てください!」
イリエナちゃんはそういって、ポシェットからマホレットを取り出して、自分の動画を再生した。