第3話 プリラおねーさんとの楽しいデート?
マリアさんに370回も再生されたって言われて、ぼくはうれしくなった。
「本当? そんなにたくさんの人がぼくの動画を見てくれたの?」
「はいっす! 私も編集を頑張ったかいがあったっす」
「マリアさん、ありがとう! マリアさんのおかげだよ!」
「そ、それほどでもないっすよ。カイくんの力っす」
でも、ぼくだけじゃどうやって動画を編集してUPするのかもよくわからないもん。
本当に感謝しかないよ。
「ねえねえ、それじゃあ、お金になるの?」
もしそうなら、プリラおねーさんやマリアさんにお礼をしないと……
そう思ったのだが、マリアさんは首を横に振った。
「さすがに370再生じゃ銅貨1枚程度にしかならないっすよ。換金手数料を考えると、もう少し貯めた方がお得だと思うっすよ」
「そっかぁ……」
ぼくがちょっとがっかりしていると、プリラおねーさんがやってきた。
「2人で騒いでどうしたの?」
「カイくんの動画がさっそく370回も再生されたっていう話をしていたっす」
「え、すごいじゃない!」
プリラおねーさんはそう言ってくれたけど、ぼくはショボンとしたままだ。
「でも、これじゃあお金にならないって。世界一のB-Tuberなんてまだまだ夢のまた夢だよね」
「そりゃ、最初の動画でいきなり世界一はむりでしょう」
「うん、でも……」
はやくプリラおねーさんやマリアさんにお礼したいのに。
「お金が欲しいなら、昨日の冒険で手に入れた魔石を売りに行ってみる? ウチとしても宿代や食事代は換金してから払ってもらった方がありがたいわ」
そっか。動画はお金にならなくても、魔石を換金すればお金になるよね。
ぼくは「うん」と元気よくうなずいた。
ぼくはプリラおねーさんと一緒に冒険者ギルドにやってきた。
プリラおねーさんによれば、魔石は冒険者ギルドに買い取ってもらうのが1番お金にしやすいそうだ。
プリラおねーさんが値段交渉をしてくれたおかげで、ちょっと高めに買い取ってもらえたみたいだよ。
「でも付き合ってもらってよかったの? ふくふく亭のお仕事は大丈夫?」
「今日だけならね。カイくんって魔石の相場も知らないでしょう?」
「そーば?」
またしても知らない言葉だ。
「ギルドの買い取りなら大きくぼったくられることはないと思うけど、最低限の交渉はしないとね」
またしてもこーしょーかぁ。
「プリラおねーさんみたいには無理だよぉ」
涙目で言うぼくに、プリラおねーさんが笑った。
「そりゃ、私は商売人だもの。一朝一夕で私と同じ交渉人になられたら自信を失っちゃうわよ」
でも、ぼくはもう13歳。
独り立ちもしたんだ。
売り買いのこーしょーだって自分でできるようにならなくちゃ。
プリラおねーさんにいつまでも甘えてちゃダメだよね。
「うん、ぼくがんばるよ! 今日はありがとう!」
「いいのよ。私も冒険者ギルドに用事があったし、それにカイくんとデートするのも楽しいし」
「え、デート?」
「あ、いや、……じょ、冗談よ! 冗談にきまっているでしょ」
そりゃそうだよね。
ぼくみたいなちびっ子と、大人のプリラおねーさんが本気でデートなんてするわけないもん。
「でも、ぼくもプリラおねーさんと一緒で楽しいよ!」
ぼくはふざけてプリラおねーさんの手を握った。
すると、プリラおねーさんの顔が真っ赤になってしまった。
「カイくんってば、おねーさん本気になっちゃうぞ」
「えへへ」
そんな風に2人でふざけていたとき。
ギルド内に怒号が響いた。
「てめぇーら! 何をしてやがるんだぁぁぁ!!」
観葉植物の陰から飛び出してきたのは、この間ぼくをパーティから追放したアグレットだった。
なんだか、ものすごく怒っているみたいだ。
やっぱり、ぼくに動画撮影の邪魔をされたと思っているのかな?
でも、怒っているのはこっちも同じだ!
悪いのはアグレットの方だもん。
ぼくはジッとアグレットをにらみ返した。
「クソガキ! にらみつけてんじゃねーよ!」
「アグレット、ちゃんと謝ってよ!」
それがアグレットを許す最低条件だ。
謝らせるだけじゃ甘いかもだけどね。
「はぁ!? ふざけんじゃねーぞ、クソガキ! てめぇこそ床に這いつくばって謝れ!!」
「そんなことしないもん!」
なんでぼくが謝らなくちゃいけないのさ。
「てめぇのせいで、俺は死にかけたんだ!」
「ぼく、何もしてないもん」
たしかにもめたけど、ぼくはアグレットたちに攻撃なんてしていない。
「第12階層でいなくなりやがって! トロールに殺されるところだった!」
「トロールなんかに殺されるわけないだろ。同時に何匹も現れるタイプのモンスターじゃないし」
「このクソガキ、どこまでも上から目線でっ!」
そんなつもりはないんだけどな。
プリラおねーさんが冷たい声で言った。
「っていうか、むしろどうやって生き残ったのよ? あなたにトロールが倒せるとは思えないんだけど?」
「運良く強制排出の時間になったんだよ」
プリラおねーさんは「ちっ」と舌打ちした。
「悪運が強いわね。ところで、サニアはどうしたのよ?」
「アイツはどっかに消えやがったよ」
「あらぁ、捨てられたのね」
「ち、ちげーよ、俺の方が捨ててやったんだ!」
「そうなんだ。ま、どっちでもいいけど」
そこで、アグレットはプリラおねーさんに近づいた。
「ってわけだからさ、今の俺はフリーだぜ」
「ふーん、で?」
「もうサニアに遠慮する必要はないってことだよ」
「意味が分からないわ」
「鈍いなぁ、そんなガキより俺とデートしようぜ。なんなら夜の相手も……」
アグレットが強引にプリラおねーさんの腕を握って引き寄せた。
で、その直後。
パチーーーーーン。
ギルド内にプリラおねーさんの平手がアグレットの右頬をはじく音が響いのだった。