第2話 病院からも追い出されたorz《アグレット》
もう1話、アグレット視点で
サニアが病室から立ち去ろうとしたとき、男の医師が入ってきた。
ったく、どうせなら若くて色気のある女医に担当してほしかったよな。
こんなひげ親父じゃ面白くもねーよ!
医師は俺をジロリと睨んだ。
「ここは病院です。大声を出さないでいただきたい」
うるせーヤツだ。
「そんなことより、とっとと俺の怪我を治しやがれ!」
「たしかにこれ以上病院で騒がれても迷惑ですな」
医師はそう言って、俺に回復魔法をかけた。
「これでよいでしょう」
「おい! 傷が残ってるぞ」
「手足の骨折は治しました。他の怪我は自然治癒なり、ポーションか薬草を使うなり、お仲間に回復魔法をかけてもらうなりでなんとでもなるでしょう」
このクソ医者がぁぁぁ!
「それよりも、治療費のお支払いをお願いしたいですな」
「ああ? それは……」
はっきり言ってそんな金はない。
実家から持ち出した金はギルドへの登録金と、マホレットやマホメラ、それに装備を購入するだけでほとんど0になった。
カイが倒したモンスターの魔石はもらっておいたのだが、トロルから逃げ惑ううちに落としてしまったらしい。
「なるほど。ならば入院日替わりにコチラをいただきますかな」
そういって、クソ医者は俺の荷物からマホメラを持ち上げた。
このマホメラの持ち主自動追尾機能は、ダンジョンから強制排出される時も有効だったので、回収できたのだ。
さらにクソ医者は俺が持っていたマホレットまで取り上げやがった。
「なっ、てめぇ、泥棒か!?」
「人聞きが悪いですな。治療費と入院費を合わせたらこれでも足りないくらいですよ。いずれにしても、もう病院に用はないでしょう。お帰りいただけますかな?」
「じょうだんじゃねー! 返しやがれ!」
ショートソードを失い、マホレットとマホメラまで失ったら、B-Tuberになれねーじゃねぇか。
「金なら、そこのサニアに夜の商売でもさせて稼がせるからよ」
するとサニアが軽蔑のまなざしで俺を睨んだ。
「はぁ? ふざけないでよ! なんであたしがそんなことをしなくちゃいけないのよ?」
「うっせーな! ろくな魔法も使えない魔法使いなんて、夜の宿で男を癒やして金持ってこい!」
「とことんクズ男ね!」
言い争いを始めた俺たちに、医者はあろうことか【雷】の魔法を使いやがった。
「ぎっ、て、てめぇ……」
「パーティの内紛なら病院の外でお願いしてほしいですな」
しびれて体が動かない俺とサニアを、クソ医者はスタッフに命じて病院からたたき出しやがった。
「く、クソが!」
病院の前でしびれたまま動けない俺。
一方、サニアは回復魔法を使って、俺より早く立ち上がりやがった。
まだMP残ってんじゃねーか! この嘘つき女がっ!!
倒れたままの俺を見下して、サニアは言った。
「クズ男! あんたと組んだのは一生の不覚よ! カイと組んだ方がまだマシだったわ」
「けっ、今更あのガキがお前と組むかよ」
「でしょうね! いずれにしても、アンタとはこれで縁切り。さようならっ!」
言い放って、サニアはしびれたままの俺を放置してどこかに消えやがった。
(ちくしょうっ! なんで俺がこんな目に……)
しばらくするとしびれが消えたので、俺はヨタヨタと立ち上がった。
(くそっ、こうなったら……)
どうしたらいいのか。
武器もアイテムも失った。
金もない。食料も水もない。
このままでは……
(ちっ、仕方がない。鎧を売るか)
俺も戦士。安物だが革の鎧を装備している。
冒険者ギルドでこれを売れば少なくとも今日の宿代くらいにはなるかもしれない。
宿は……そうだな、ふくふく亭にするか。
あそこの女将のプリラは豊満な胸の美女だ。
前に俺のソードを装備した姿をカッコイイとか言っていたし、優しく慰めてくれるだろう。
なんなら、サニアとちがって夜のアレとかも……グヒヒヒ……
などと考えて冒険者ギルドの入り口にやってきた。
すると聞き覚えのある憎きクソガキの声が聞こえてきた。
「付き合ってもらってありがとう」
カイ!?
なんで、あのクソガキがこんなところに!?
俺は反射的に観葉植物の陰に隠れた。
「プリラおねーさんのおかげで魔石も売れたし、助かったよ!」
「気にしなくていいわ。でも、次からは1人で交渉するのよ?」
カイと仲良く歩いていたのは、ふくふく亭の女将プリラだった。
しかも仲良く手をつないで、まるでデートでもしているかのようだ。
これには温厚な俺の怒りも爆発した。
「てめぇーら! 何をしてやがるんだぁぁぁ!!」
気がつくと、俺はやつらの前に飛び出した。
もう許さん! このガキぶっ殺してやる!!!
次話よりカイくんの視点に戻ります。