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26.避けていた相手

 テーマパーク内を取り巻きの女子らとうろうろしながら、劉輝はそれとなく晶姫と愛梨子の後を追った。

 彼を慕う女子達は劉輝の行動には何の疑念も抱いていない様子で、劉輝が行きたいところへただ一緒について行くというだけの行動に終始した。

 恐らく彼女らは、劉輝と一緒に居られるだけで幸せであり、劉輝の一挙手一投足を間近に見ることが出来ていれば、それで満足なのだろう。

 そして劉輝は、そういった女子らの言動や心情は当然だと思っている。だが晶姫と愛梨子は、そうではない。あのふたりは端から劉輝の存在に気付いていない様子だった。


(まずは外堀から埋めていくのがセオリーだな)


 劉輝は晶姫、愛梨子のふたりと同じ班を組んでいるらしき凡庸な男子生徒ふたりに、偶然を装ってそれとなく接近した。

 ふたりの男子はいきなり近づいてきた高身長イケメンと大勢の女子集団にびっくりしたのか、その場に凝り固まって愕然とこちらを見ている。


「やあ、邪魔して悪いな……俺のことは、知ってるな?」


 勿論知っていて当然だろうと内心で苦笑を滲ませつつ、劉輝は一応訊くだけ訊いた。いきなり俺様ムーヴで詰め寄るのは余り宜しくないということを、彼は本能的に心得ていた。


「あ! も、もしかして風岡さんですか!」

「うわ、間違いねぇよ……風岡さんだ……ど、どうもこんにちは!」


 ふたりの男子生徒はそれぞれ、一年B組の石沢、中沢と名乗った。聞けば矢張り、晶姫と愛梨子のふたりと同じ班を組んでいるとの由。

 劉輝は偶然を装っている為、かの美少女ふたりと同じ班なのかと驚いた表情を見せつつ、晶姫と愛梨子にちらりと視線を流した。


「確かあのふたりは美樹永晶姫さんと、中津川愛梨子さんだったな……で、あのチビは何なんだ?」

「あー、あいつですか」


 石沢が複雑そうな表情で、小柄な少年に若干の敵意を滲ませた視線を送った。


「あいつはうちのクラスの笠貫刃兵衛って奴です」

「ふぅん、笠貫……」


 矢張り劉輝の記憶には、そんな名前は刻まれていない。余程に目立たない陰キャで、恐らくはぼっちだったのだろう。

 そんな奴が何故、ふたりの美少女を当たり前の様に侍らせているのか。もうそれだけで大きな罪だ。

 であれば尚のこと、彼女らを自分が救い出してやらなければならない。

 しかし真正面から攻めることは、避けた方が良い。あの卑劣なチビが一体どの様な策略を巡らせて晶姫と愛梨子を手なずけ、篭絡しているかが分からないからだ。

 取り敢えずは、彼女らのいずれかがひとりになったところを狙って速攻で接触を図るところから始めるべきであろう。

 そうしてふたりの本音を聞き出し、彼女らがどの様な弱みを握られているのかを探る。そこから攻めれば、あの不埒なチビから美少女達を解放する策が見いだせる筈だ。


「ありがとう、邪魔したな」

「い、いえ! とんでもないです!」


 石沢と中沢はすっかり恐縮した様子で、揃ってぺこりと頭を下げた。

 このふたりの凡庸な一年生男子は然程頭は良くなさそうだが、劉輝に対する尊敬の念と、恭しい態度は大いに評価出来る。本来、スクールカーストの下層に居る連中はこうであるべきだ。

 あの笠貫刃兵衛なる不届きな小物は、矢張り一度痛い目に遭わせる必要があるだろう。


(俺が晶姫と愛梨子を救い出す。身の程を弁えなかったことを後悔させてやるからな)


 劉輝は再び、晶姫と愛梨子、刃兵衛の三人を目で追った。

 すると、どうやら晶姫がひとり離れようとしているらしい。お手洗いだろうか。

 ここはチャンスだ――劉輝は取り巻きの女子連中に、トイレに失礼するとだけいい残して、晶姫の後を追っていった。


◆ ◇ ◆


 晶姫は綺麗に掃除された女子トイレを出たところで、いきなり目の前に現れた高身長イケメンの微笑に度肝を抜かれた。


(え……何?)


 どこかで見たことがある様な気はするのだが、すぐに名前が出て来ない。

 しかし同じ学校の生徒とはいえ、どうせ赤の他人だからと無視を決め込んでいると、そのイケメンはわざわざ行く手に踏み出してきて晶姫の足を止めた。


「やぁ……俺のこと、知ってるよな?」

「えっと……誰かな?」


 晶姫が訊き返すと、高身長イケメンは一瞬だけ愕然とした表情を浮かべていたが、すぐにぎこちない微笑へと面を変化させて頭を掻いた。


「二年D組の風岡劉輝っていえば分かるか? バスケットボール部で、去年インターハイにも出場したんだけどな」

「あー、そうなんですね」


 やっと思い出した。

 二年の超イケメンで校内でも有名な人物らしい。

 数多くのセックスフレンドを抱えていた晶姫だが、劉輝の様な大勢のファンを抱える男子にだけは絶対に手を出さないでおこうと決めたことがあった。

 だから何となく見覚えはあっても、直接の接触は避けていたから名前がすぐに思い出せなかったのだ。

 しかし、そんなイケメン先輩が一体何の用だろう。

 今更セックスフレンドや新しい彼氏を作る気が無い晶姫としては、いきなりこんな形で迫られても、はっきりいって大迷惑であった。

 そんな晶姫の心情を知ってか知らずか、劉輝は急に晶姫の両肩を掴み、その端正な顔を寄せてきた。


「君さ……あの笠貫ってチビに何か弱みでも握られてるのか?」

「……は?」


 いきなりの問いかけに、晶姫は頭の中で幾つもの疑問符を浮かべた。

 このイケメン先輩は何をいい出すのだろう。全く以て意味が分からない。

 しかし劉輝は晶姫の怪訝な表情などまるで無視して更に言葉を連ねた。


「君の様な可愛い子が、あんな陰気臭いチビなんかと一緒に居るのは不釣り合いだ。俺達は俺達の世界で生きるべきなんだ。あんなクソチビなんか、俺が何とかしてやるから安心しろ」

「ちょ……いきなり、ナニ訳の分かんないこといってんの?」


 晶姫は必死に隆起の腕を振りほどこうとしたが、出来なかった。思いの他、力が強かった。

 と、その時――。


「あれ、美樹永さん、そんなとこに居たんですか。班の皆が遅いなぁって待ってましたよ」


 刃兵衛だった。

 彼はいつもの呑気な顔つきで、男子トイレに消えようとしていた。

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