21.謎の美少女共同戦線
遠足の班決めは辛うじて終了し、残るは席替えのくじ引きだけとなった。
現在の席順は単純に、名簿上の五十音順で並んでいるだけである。これを、くじ引きで席替えしようという訳だ。
既にくじは作成されており、クラス委員長とふたりの委員補佐が資料箱に十数枚ずつのくじを入れて、手分けしてクラス全員に引かせてゆく。
不公平にならぬよう、最前列から引くか、最後列から引くかは、それぞれジャンケンで決めさせた。
(まぁ、席なんて別にどこでもエエんやけども……)
どうせ、どの位置に座ろうが大した差は無い――今のところ、晶姫と愛梨子が黙ってくれているお陰で変な噂が立っていない刃兵衛としては、新しい席でも前後左右のクラスメイトと当たり障りのない範囲で挨拶を交わすことが出来れば、それで良いと思っている。
仮にアニメの趣味などが合いそうな者が近くに居たら、多少は交流しても良いかも知れない、という程度のものだ。
あのひとの近くになりたいとか、あいつの傍にだけは絶対行きたくないとか、そういった是非の感情は全く持っていない刃兵衛だったから、ただ粛々と結果に従って席を移動すれば良いだけの話だった。
黒板には、席に振られた番号が書き出されている。
くじを開けた者は、そこに記されている番号を黒板上で確認すれば、次の移動先が分かるという仕組みだ。
(えぇっと、僕は……21番か)
黒板に記されている席の番号は、結構バラバラだった。上から順番に、もしくは端から順番に昇順や降順に並んでいる訳ではなく、まるでビンゴの様に数字が無作為に配置されていた。
その為、刃兵衛が引いた21番も、まずはどこに配置されているのかを黒板上で探す必要があった。
(えぇっと……あぁ、あったあった)
窓際の、最後尾から二番目だった。これは中々ラッキーだといえる。
尚、前の席は14番、右隣は3番、そして真後ろの最後尾は30番がそれぞれ配置されていた。
(どんなひとらが座るんかな……?)
期待と不安を半分ずつ抱きながら、刃兵衛は席移動の準備を始めた。机の中身のほとんどを通学鞄の中に突っ込み、入りきらない分は小脇に抱えて立ち上がる。
見ると、これまで21番席に座っていた女子は既に移動を開始しており、今ならすぐにでも着席出来る状態だった。
(これから夏場までの季節はちょっと陽射しが強いかもやけど、まぁエアコン利かせてくれるやろうし、カーテンもあるから、そないに苦にはならんかな)
そんなことを考えながら21番席に到着。早速机の中に荷物を放り込み始める。
ある程度の移動作業が終わったところでふと前を見ると、何故かそこに晶姫の姿があった。
刃兵衛は小首を傾げて、きょろきょろと周囲を見回した。
「あれ? 何で美樹永さんそこに居るんですか?」
「何でっていわれても、アタシここの席だから」
聞き間違えたかと、眉間に皺を寄せた刃兵衛。しかし晶姫は、物凄く自慢げに手にしたくじを開いた。そこには確かに、14番と記されている。
まさかと己の目を疑った刃兵衛は、晶姫の手からそのくじをひったくって、まじまじと眺めた。
「……何してんの?」
「いえ、偽造したのかなと思って」
直後、刃兵衛の脳天に晶姫のチョップが飛んできた。
「んもぅ……んなことする訳ないじゃん」
「いやそれにしても、こんな偶然あります?」
晶姫にくじを返しながら、尚も疑わしい眼差しを向ける刃兵衛。これに対し晶姫は、愛の力さ、などと意味不明なフレーズを返してきた。
ところがそこへ、席移動を終えた愛梨子が微妙に恨めしそうな顔つきで近づいてきた。
「えぇ~……ふたりで前後席ぃ? 何か羨ましい……」
「リコはどこら辺?」
晶姫に問い返された愛梨子は、憮然とした表情で廊下側を指差した。
教室の中央を挟んで、完全に反対側の位置だといって良い。彼女ひとりだけが、隔離された様な気分なのかも知れない。
「ま、良いんだけどね……休み時間になったら、うちも仲間に入れて貰うし」
「え~……わざわざこんなとこ来ても何も話すことなんか無いですし、退屈なだけですよ」
渋い顔を向けた刃兵衛だが、愛梨子はそんなこと全然無いから、と真っ向から否定しながら、ずいっと上体を乗り出してくる格好で迫ってきた。
「あれ? リコ、もしかしておっぱい大きくなった?」
「気付いた? こないだ測ったら、カップひとつ分、成長してたよ」
うふふふとドヤ顔で笑いつつ、自慢の巨乳をアピールするかの様に胸を反らせる愛梨子。
そんな彼女の豊満な膨らみをぼーっと眺めながら、刃兵衛はぼそっと囁いた。
「んなこと、普通男子の前で平気でいいます? めっちゃセクハラなんですけど……」
「でもさ、お師匠全然照れたり恥ずかしがったりしないから、セクハラのし甲斐も無いんだよねぇ」
微妙に残念そうな調子で美貌を傾げる愛梨子。
どんな発想やねん――そんな台詞が喉元まで出かかった刃兵衛だが、辛うじて呑み込んだ。
この三人のやり取りを、周囲の男子達は羨ましそうに眺めているものの、変に揶揄する声は飛んでこない。つい先程、クラスの男子のほぼ全員を刃兵衛が腕力で捻じ伏せたのが、余程に効いているらしい。
刃兵衛を軽んじて見下す気配を漂わせる者は、もう誰も居ないだろう。
逆に、クラスの女子らからはちらちらとこちらの様子を伺う視線が、時折飛んでくる。何か用でもあるのだろうか。
「笠貫さ……もしかしたら今日で、生活がガラっと変わっちゃうんじゃないかな」
「そらまぁ、窓際になって景色も良くなりましたからね」
ぼんやりと答えた刃兵衛に、晶姫はそういう意味じゃないと苦笑を返してきた。
「リコさぁ、ちょっと共同戦線張らない? このままだと笠貫、取られちゃうかも」
「お師匠に手を出す奴ぁ、うちが片っ端から蹴散らすわよ」
ふたりして、一体何の話をしているのだろうか。
刃兵衛にはよく分からなかった。




