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オルディリの終末者  作者: 西田トモセ
血塗れの蜂は躊躇わない
3/12

異質の邂逅 二

 

「船を入手しに来たんだよね……?」

「うん」

「……ここに?」


 普通、船を手に入れようと思ったら、向かうのは船着き場ではないんだろうか。

 至極まっとうなはずのネイサンの主張を肯定してくれる人間は、喧騒と酒臭さとよくわからないハーブみたいな香りに満ちた酒場には存在しなかった。




 イェトがネイサンを連れてきたのは、ネイサンの店からさほど離れていない場所にある一つの酒場だった。チカチカ光る暗いネオン看板の下、銃やら長物やら、思い思いの武器を身に付けて屯している客たちからは言うまでもなく血と暴力の気配がする。店の入り口でこれなら、中はどれだけ恐ろしいか、とネイサンはひとり身震いした。

 この酒場の存在自体はネイサンも元々知っているし、前を通ったこともある。しかし中に入ったことは一度も無かった。そもそも、ネイサンのような奴隷がひとりで入るような店ではないし、武力も財力も話術力もない自分が入ったところで命以外のすべてを――下手なことをしたら命そのものも――奪われてしまうだろう。そんな危ない場所、頼まれても近寄りたくなかった。

 そんなネイサンを知ってか知らずか、イェトは躊躇なく店内へと続く階段を下りていく。そんな彼女に、仕事だから、と自分に言い聞かせながらネイサンは仕方なく後を付いていった。どうか、誰にも絡まれませんように。

 小柄なイェトは、最低限の明かりしかなく人が密集する中では油断するとすぐ見失ってしまいそうだった。ヤバそうな荒くれ者しかいない酒場の中ではぐれることは死を意味する以上、ネイサンは我が身のためにもイェトを見失う訳にはいかない。年下の女の子相手にこんなことを言うのも情けないが、今は四の五の言っていられる場合ではないのだ。

 店内を流れる陽気な音楽とは裏腹に己の不甲斐なさに落ち込みつつイェトを追うネイサンを救ったのは、店の中心にある円状のカウンターの向こうにいた牛顔の男だった。


「おう。誰かと思えばイェトじゃねぇか」


 顔見知りらしいその男に声をかけられたイェトは、自分の身長ほどもある椅子に軽々と飛び乗ってそれに応える。


「久しぶり、マスター」

「相変わらず元気そうだな。しばらく見ないからくたばったかと思ってたが」

「生憎、まだ生きてるよ」


 自然と始まった会話を聞きつつ、イェトの後ろについて足を止めようとしたネイサンの肩に誰かがぶつかる。振り返ると、頭の片側を剃り上げて装飾品をじゃらじゃらと付けた女がネイサンを見て舌打ちをした。

 まずい。反射的に身を固くして息を飲む。女はネイサンの向こうに視線をやり口を開きかけたが、何を思ったか気に食わなさそうに前方を睨んだだけで去っていった。

 助かったのだろうか。特に何事もなく過ぎた一瞬に戸惑いながらネイサンがカウンターの方へ姿勢を戻すと、イェトが彼を――正確には彼の向こう側を見ているのが見えた。


「ど、どうかした……?」


 その視線の意味がわからず思わず声をかけると、金色がネイサンの方へ戻ってくる。


「何でもない」


 詳細をネイサンに教える気などないのか、イェトはそう言って視線をマスターの方に戻してしまった。そのことに更に困惑してから、ある可能性に気付く。――もしかして、さっきの女は彼女が追い払ってくれたのか。

 だとしたら礼を言わなくては、とネイサンは口を開こうとしたが、彼が言葉を発するより先にマスターが会話の続きを始める。


「しかし、お前があいつを連れてないとは珍しいな。騎士(ナイト)様はもうクビか?」

「違うよ、別件。それより、船持ってる人を探してるんだけど。いない?」

「船か。そりゃまたでかいシロモン探してんな」


 ――ちょっと待って、ここで船探すのってそんなに当たり前なの?

 言いたかった礼の件は、再開された会話の内容ですべて吹っ飛んでしまった。

 当たり前のように船を求めるイェトに、当たり前のように返すマスター。もしかして、酒場で船を探すのは普通なんだろうか。それとも『船』という単語から連想しているものが、彼らと自分で違うのかも知れない。ネイサンは不安になった。


「サイズは?」

「二、三人用の小型のやつ。速度も要らない」

「他には?」

「他は……あ」


 淡々と商談らしきものを進めていたイェトが、不意にネイサンを振り返る。そして「希望は?」と問いかけた。


「え?」

「動かすのはお前でしょ。どんなのがいいとか、私はよくわからないから」


 どうやら、『船』に関してネイサンの意向も聞くつもりであるらしい。

 ということはやはり、彼女の言う『船』と自分の思う『船』は同じなのか、と何の解決にもならない情報を得ながら、ネイサンはイェトの問いに答えた。


「僕も特には……オーソドックスなやつであれば」


 そもそも『船』――スペースシップは、大型だろうが小型だろうがその操作方法に大きな違いはない。特注や戦闘用機となればまた変わってはくるが、特に希望のない注文でそんな特殊なものが出てくることはほぼ無いだろう。

 よくわからない、というのは本当なのだろうな、とネイサンは思った。船に関して基本的な知識があれば、大型も小型もそう変わらない――船体のサイズや馬力などは除くが――ことくらいすぐわかる。恐らく彼女にはそういう基本知識もないし、その上で知識がないという自覚はあるのだろう。

 変な子だ。奴隷を借りて使うことに何の躊躇もないのに、奴隷相手でもわからないことはわからないとすっぱり言えてしまうなんて。やはりイェトは、この星で当たり前のように行動していても、この星の人間とは根本的に何かが違う気がする、とネイサンは感じた。

 その後マスターはイェトと追加で二、三言葉交わし、ふたりの許を去った。立ち去るその背を見送ることもなく、イェトはネイサンを振り返る。


「ネイサン、酒飲める?」

「え? い、いや……」


 ネイサンはまだ18歳になったばかりで、酒を飲んだことはなかった。年齢的にはもう飲もうと思えば飲める――そもそも、18歳未満の未成年は飲酒禁止というのはネイサンの故郷の話で、スフィリスの常識は恐らく別だ――が、自分の飲酒適正がわからないまま、治安の悪い場所で冒険する気にはとてもじゃないがなれなかった。

 自分よりむしろ、明らかに子どもであるイェトが酒場にいる方がこちらの常識としてはアウトなのだが、と思いつつ、ネイサンは首を横に振った。


「そ。じゃあ酒じゃない方がいいね」


 ネイサンの返答に、イェトはそう応えてウェイターらしきロボットを呼ぶ。間を置かずに来たロボットに、マントの間から出されたコインが放り投げられた。ほどなく出てきた小さなコップ二つのうちの一つが、細い三本指につままれてネイサンに差し出される。その行動も驚くべきことなのだが、それよりもネイサンは別のことに戸惑いを感じていた。

 世界広しと言えど、この世界で生きる『人類』と呼ばれる人々の八割は五本指を持っている。五本以上あるいは以下の指の種族もいるにはいるが数は少なく、当然三本指の種族だって数えるほどしかいない。そしてネイサンの知識では、三本指且つ朱色の髪と黒い耳を持つ種族など存在しなかった。


 ――この子は、いったい何者なんだろう。


 店で彼女を見た時からずっとある疑問が、再度ネイサンの頭の中で湧く。朱色の髪に黒い耳、ネイサンで言う所の親指と人差し指中指のような三本の指に『金色の瞳』。そんな身体的特徴を持った種族など、ネイサンは聞いたことも見たこともなかった。――――ただひとつ、幼い頃に聞かされたおとぎ話のような話を除いて。


「どうかした?」


 不意に耳朶を打った淡々とした声にハッと我に返る。意識を眼前に戻すと、コップをつまんで差し出したままのイェトが無表情ながら僅かに小首を傾げていた。


「あ、いや、なんでもないです!」


 慌てて両手でコップを受け取る。ぼんやりしていたことを追及されるかと思ったが、イェトは何も言わず手を引っ込めると視線をカウンターへ戻した。

 自分の分を飲み始めたイェトに倣い、ネイサンもコップに口を付ける。よく冷やされた、すっきりと甘い液体が口に流れ込んできた。ふんわりと優しく香ばしい紅茶のような香りを鼻腔に感じ、ネイサンはとんでもない高級品を口にしている気持ちになった。


「お、おいしい……」


 思わず口から感想がこぼれ出る。普段は生ぬるく臭いのする水しか飲めない身としては、もはや感動ものだった。

 小さなコップだったから、三口で無くなってしまった。口に残る甘みが消えるのが惜しく、自然と溜め息が出る。一年以上ならこれと似た飲み物だって普通に飲んでいたはずなのに、もう二度と口にできない気すらする、と一喜一憂するネイサンは顔をあげた拍子に金色の瞳が自分を見ていることに気付いた。


「あっ、えっと……!」


 人といることも忘れ、飲み物ひとつに夢中になっていた自分に恥ずかしさが湧く。何か言いたいものの言うべき言葉が見つからないネイサンをイェトはしばらく無言で注視した後、ふ、と目を細めた。


「ネイサン、お前ここに来てどれくらい?」

「え? えっと、一年です……?」

「ああ。なるほど」


 唐突な問いに困惑しながら答えると、イェトはひとつ頷いてから自分のコップを煽る。いったい何が『なるほど』なのか。最初の問いの意図も含めてネイサンは説明を待ったが、彼が欲しい言葉が出るよりも先に背後から別の声がした。


「テメェがイェトか? ――って、おい奴隷じゃねぇか!」

「!!」


 驚きで肩を跳ね上がらせながら振り返る。声をかけてきたのは、人相の悪い二人連れのヒューメニアンの男だった。


「おいおいおい、奴隷の身分で船だぁ? まさか逃げ出そうなんてつもりじゃねぇよな」

「えっ、いや、あの……」


 最初に声をかけてきた顔に派手な傷のある男にずい、と迫られネイサンは思わず身を固くする。至近距離にある相手の口から嫌な臭いが漂ってくるが、顔を背けるのは我慢した。それで更に酷いトラブルになったら困る。


「どこの奴隷だ? 逃げようとする悪いやつはちゃんとゴシュジンサマに――」

「余計なお世話」

「うわっ……!?」


 不意にぐいっと後ろから引っ張られ、ネイサンは背後にあったカウンターの椅子に腰を強かに打つ羽目になった。振り返ると、ネイサンの首根っこを掴んでいたイェトがその手を離すのが見える。どうやら彼女に引っ張られたらしい。


「この子は無視してくれていいよ。お前が用のある『イェト』は私だから」


 無視とは酷い、と思いつつ、確かに自分の出る幕はない。バランスを崩した身体を立て直しながら、ネイサンは大人しく場を見守ることにした。


「船の所有者?」

「ああ。ご希望通りの小型船さ。うちとしても大事な足なんだが、マスターがどうしてもって言うんでな」

「そ」

「……で、テメェは何を賭けるって?」


 賭ける、という単語に驚き、そしてネイサンは漸くそこで合点がいった。船の入手のために酒場に来たのは、船を金で買う気が無かったからか。確かに、賭けのような正攻法ではない方法で手に入れるつもりなら、船着き場なんかより酒場の方が適切かも知れない。そもそもイェトは、ネイサンを借りるのに先払いする金がなくて店主と揉めていたようだし、船を買う資金など初めから無かったのだろう。そのことにやっと気付き、ネイサンは自分の鈍感さにちょっと落ち込んだ。

 ――でも、何を賭けるつもりなんだろう。

 賭けで船を得るのはいいとして、それなら当然イェト側も賭けるものがなくてはならない。だがほぼ着の身着のままに見える上、着ているものも高価には見えないイェトに賭けるものなどあるのだろうか。自家用船も珍しくないとはいえ、スペースシップはそれなりに高価だ。それと釣り合うものなど、ここには――――


「――――私の命」

「はっ……?」


 驚きの声をあげたのはネイサンか、それとも船の所有者の男か。自分でも判断がつかないまま、ネイサンはイェトを振り返った。驚愕の視線を向ける彼に対し、イェトは涼し気な顔のままだ。


「私が勝ったら、お前の船をもらう。お前が勝ったら、私の命をやる」


 殺すでも売るでも、好きにしたら。

 晩御飯の話でもしているかのような気楽さで、彼女はそう言った。


「ちょっ、何言って――――」

「はっはははは! トチ狂ってんなぁおい!」


 我に返ったネイサンが上げた制止の声を、男の笑い声が遮る。


「いいぜ。オレの知り合いに、テメェみたいなガキを()()()のが趣味の金持ちがいるんだ。テメェは珍しい色をしてるようだから、きっとお気に入りになれるぜ?」


 男はそう言って、連れとふたりニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべた。その醜悪さにネイサンが閉口する中、当のイェトは「金にするアテがあって良かったね」と変わらず淡々としている。


「で、内容は? こっちで決めてもいい?」

「いいぜ。なんせ命なんて賭けられちゃあな。賭けの内容くらい決めさせてやらねぇとオレらが極悪人みたいになっちまう」


 微塵も思っていないような顔で、男はそう笑いながら言った。子どもに賭けを持ち掛けた身で何を、とネイサンが内心で顔をしかめる横で、イェトがカウンターを振り返る。


「マスター」

「話はまとまったか?」

「賭けファイトでよろしく」

「了解した」


 いつの間にか戻ってきていたマスターは、イェトの言葉にあっさり頷くと「それじゃあ」と説明を始めた。


「賭け品はジョン・ドゥの小型船とイェトの命、賭けのルールはファイトだ。場所はあそこでやる」


 そう顎をしゃくって見せる牛顔が示す先には、店内のBGMを担当していた楽器隊がいた。


「ファイトルールはいつも通り。どちらかが死ぬか、参ったと言えば勝負は終わり。武器の使用も自由だ」


 マスターのその説明が終わるかどうかというタイミングで、誰かが「ファイトだ!」と言った。それを皮切りに、周囲にさざ波のようにざわめきが広がる。それは期待と歓喜のささやきだった。


「誰と誰がやるって?」

「今日は降参はナシにしろよ!」

「血ィ見せろ、血ィ!」

「命賭けるっつったか? 最高じゃねぇか!」

「いいぞ、なぶり殺しにしてやれ!」


 四方八方から向けられる好奇と品定めの視線、暴力と刺激を求める声にネイサンは全身が総毛立つのを感じた。元々ネイサンは血も暴力も大の苦手だ。だが今はそれ以上に、幼い子どもが無茶をしようとしている状況に煽り喜ぶ大人たちに嫌悪感が湧いた。

 ひとりの少女が己の命を賭けようとしている場で、それを諫めるまともな大人などいない。この街ではそれが当たり前だと頭ではわかっていても、ネイサンは気分が悪くなるのを抑えられなかった。


「イェト――」


 どんな理由で船を望み、命まで賭けようとしているのかはわからない。だが宇宙船一つと命が同等の重さをしているとは思えない。どう見てもフェアでない賭けであることは明らかなのに、ここにいる人間の誰もがそれを指摘せず、イェトに獲物(カモ)を前に舌なめずりする捕食者の視線を向けている。彼女がどれほど子どもらしくなくても、こんなまともじゃない場所に居ていいわけがない、と再度イェトを止めようとしたネイサンは、しかし当の本人にその出鼻をくじかれた。


「大丈夫。私が負けてもお前は店に戻るだけだから」

「えっ!? いや、違っ……!」


 そうじゃない、と続けるより先に、イェトは椅子から降りて歩き出してしまった。向かう先は、先ほどマスターが示した舞台。楽器隊はいつの間にかいなくなり、まるであつらえたかのようにちょうどいいお立ち台ができていた。


「いいのかぁ? せっかく自分に有利な賭けにさせてやろうと思ってたのに。……ああ、もしかして気付かなかったのか? はぁ~これだから世間知らずのガキはよぉ」


 先に舞台に立っていた船の所有者の男――ジョン・ドゥと呼ばれた傷男がニヤつきながら煽ってくる。対するイェトは男に一瞥もくれず、軽やかな動きで舞台に上がった。

 長方形の舞台の上、両端にふたりが向かう。人に押され最前列に来てしまったネイサンにはもう、固唾を飲んで見守る以外にできることはなかった。背後で交わされる「どちらにいくら賭ける」という新たな賭け事の声も、その耳には届かない。

 こちらに背を向けて歩くイェトを見つめながら、ネイサンは歯がゆさから知らず知らず拳を握った。なぜ自分には力が無いのだろう。自分に力があれば、こんな酷い勝負すぐに辞めさせるのに――――ネイサンの頭には、イェトが彼が何も言えなかった女を無言で追い払ったことなど微塵も残っていなかった。


「――ガキが大人をナメんじゃねぇ!」


 戦いの火蓋は、一方的に切られた。舞台の端につくより前に、男が銃を抜いて振り返る。ずるい、とネイサンが思うより先に、男の指が引き金を引いた――――しかしその銃弾は、酒場の明かりを砕いて壁に穴を開けただけだった。


「どこ狙ってんの?」

「――は、ぐぅっ!?」


 気付けば、ジョン・ドゥの上にイェトがいる。自分の倍はある身長の男をねじ伏せたイェトは、男の銃をその頭に突き付けた。


「はい、終わり」

「テ、メェ……ッ!?」


 一瞬の出来事に、間を置いて周囲から歓声が起こる。はやし立てる声に交じり、高配当を喜ぶ声と男への汚い野次が耳を突いて、ネイサンは顔をしかめた。


「クソが、こんなチビのガキに――ッ!」

「止めといたら? 腕折れるよ」

「っつぅ……!」


 身じろぎしようとする男を咎め、イェトが銃口を押し付ける。


「ほら、早く言いなよ」

「……だ、誰が……!」

「いいの? 私は――」


 そこで一度言葉を切ったイェトを見て、ネイサンは背筋が凍るのを感じた。無感情に男を見下ろす金色は、無感情故にその行為になんの躊躇もないことを如実に語っていた。


「――お前を殺して鍵を奪ってもいいんだよ」

「――――っ!!」


 ――この子はいったい、何者なんだろう。

 殺気とも違う、真空のような息苦しさと無をもたらす空気に飲まれそうになりながら、ネイサンは再びこの疑問を抱いた。その見た目とは裏腹に、イェトは紛れもなくこの街の『強者』だった。


「……ま、まいった……!」


 イェトの一言は、男を挫かせるのに十分だったらしい。

 勝負はほどなく決着を見せ、イェトは男の銃を捨てて立ち上がった。


「マスター、鍵」


 端的な言葉に、カウンターの向こうから船の鍵らしきものが飛んでくる。それを難なくキャッチし、イェトは舞台を降りてネイサンの前に戻って来た。


「行くよ」


 その淡々とした金色に、先ほどまでの喉元を掴まれるような雰囲気はない。そのことに無意識にほっとしながら、ネイサンはその小さくも決して弱くない背を追った。

 ――――そんなふたりを見る、一つの視線には気付かずに。

 


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