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この世は不幸で廻っている  作者: レイフォン
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それってエグない?

「フン!!」


下っ腹と腰に力を入れる、伸ばした腕の先の剣がハウンドの脳天を割る。

鈍い感覚が手に伝わったかと思うとシュっという音が鳴り血が噴き出る。


・・・やばいな。


手に持った剣を見るとハウンドの血糊がうっすらとだが付着している。

それをブンっと剣を振り落とす。


・・・・う〜ん。


でもなぁ・・・昨日の今日だったから仕方ないよな。

結構急なダンジョンアタックだったので剣を整備に出すのをさぼってしまった。

嫌、ダンジョンアタックは言い訳だな、酒を飲んでる暇があったなら、武器屋に寄っとけばよかったって話だ。

勿論、自分で手入れはしたんだが、プロによる整備とは雲泥の差だ。


手に伝わる感覚が気持ちが悪い。


おっちゃんに文句言われるかもな。


だが今はそんな事も言ってられないか。


視線を下ろすと、一匹のハウンドが低い姿勢から自らの脚力を活かし、グンと加速をつけ襲ってくる。


俺はその突進に合わせるだけだがな。

ギュッと柄を握り締め、グッと前屈みに姿勢をとると突進のタイミングに合わせそれを振り下ろすとグギャっと頭を潰す。

その姿勢のまま左方から攻めて突進して来たハウンドの口に鉄製の籠手を咥えさせる。

ガツガツと鼻息荒く咥え付いてくるハウンドの牙の感覚が籠手の中に伝わってくる。


「ぐえ。」


口臭いんだよなこいつら。


プスリとそいつの喉に剣を刺す。


粗方倒したか?

辺りを見回すと、ハウンドの死体がそこかしらに散らばっていた。

こいつらの面倒な所はこれだ、個体自体の戦闘力はそこまで脅威では無いが、群をなす習性がある。

入り口付近は駆け出し冒険者がハウンドを狩るので個体数が少ないのでそうでもないが、低層の中盤位まで進むと冒険者の数もまばらになり、こういった10数匹の群れが発生する事が多い。


面倒と言えば・・・・。


「ルークさん終わりました?」

メイの声が低い位置から聞こえる。

視線を落とすとメイがハウンドの死体にゴソゴソと弄っていた。

「ああ、終わったけど。」


チンっという音がしたのでそちらを向くとマイナさんが納刀を終えて一息付いていた。

マイナさんの方も終わったらしい。

ハウンド相手とは言え、数頭の群れを相手にあそこまで動けるとは、中々の実力だ。


「ふぅ・・私の方も終わりました。」

「ご苦労様。

で、メイは何を?」

「あの・・・私も戦ってましたからね。

今は魔石の回収中なの!!

終わったんなら手伝ってね。」


言いながらメイはテキパキとハウンドの魔石がある部分に手際良く自身のナイフを這わせて切開し、魔石を取り出した。

ビー玉より少し大きめの石ころだ。


モンスターから俺達冒険者が受ける恩恵は幾つかある、その代表的なのがモンスターから採取される魔石だ。

あの大きさで銅貨5枚って所かな。

命を賭けて銅貨5枚か、俺達にとっては然程でも無い相手だからこうやって数を狩れる、だが新米にとってはしんどいだろうな。


次に素材。

だが、こいつらハウンドからはめぼしい物は取れないんだよな。

こいつらの体表にはほぼ毛は無く、ハゲネズミの様に血管が浮いた皮膚が露わになっている。

その特徴が、凶暴な顔と涎を垂らす臭い口と相まって妙にこちらの恐怖を煽ってザ・モンスターという出立ちを作り上げているが。

冒険者にとっては魔石以外利用価値の無い残念なヤツだ。


というのが俺個人の感想である。


唯一、素材として使えそうな牙も短すぎて加工には向いていない。


そして、ダンジョンのみの恩恵として、ドロップ品という恩恵が存在する。

ダンジョンは一定の時間を経るとモンスター、人間、どちらの遺体もダンジョンに吸収され消えてしまう仕組みになっている。

何でそういう作りになっているかなんて何処かの偉い学者先生にでも解明してもらうとして。

実際現象として、人間の遺体は肉体のみダンジョンに吸収され装備はそのままダンジョンに残る。


吸収中の遺体を何度か見た事があるが、出来れば記憶から除外してしまいたいと思う位にはショッキングな光景であった


冒険者、嫌、もう拾い屋、といった方が正しいかもしれない連中から買い取った商品を中古品として安く売っている店が町には幾つか存在している。


冒険者になりたての者や、金に困った者等には人気はあるようだが、俺はどうも自分が死体漁りをしているような気分になってしまって、一度足を運んで以来、2度と店に寄った事が無い。


・・・そういった拘りが無かったら、もう少し節約になるんだが、どうしようもなく嫌な気分になるんだから仕方がない。


モンスター由来のドロップ品は稀に死体が消えた箇所に代わりにそれが転がっているそうだ。

例えばこのハウンドなら、牙らしい。

何に使われるかは知らないが、その牙は銀貨3枚で売れるらしい。

どういう訳かドロップ品と言うやつは、魔石と同じく魔力を帯びているので、魔道具か何かの動力源に使われるらしいが、俺には知る由もないし、知ったこっちゃない。

ぶっちゃけ、運が無さすぎてドロップ品なんてお目にかかった事なんて無い。


最後になるが、さっきからハウンドを倒す度に聞こえてくる不幸ポイント獲得の通知音。

文字と数字が流れるステータス画面。

確認してみると数字がバラバラだった。


最高で5、最低で0、3とか2がほとんどだが、不幸ポイント0?

0って?


・・・・もしかしたら、今迄、不幸にあった事が無い?

嫌、嫌流石に不幸な体験を一切した事が無い奴なんている訳が・・・嫌、ダンジョンならあり得るかもしれない。

ダンジョンのモンスターは地上のモンスターと違ってダンジョンから突然生まれる。

壁や天井が崩れ、そこから湧き出るようにボコボコと。

そのせいで予期せぬピンチに遭遇する冒険者も少なからず存在する。

産まれたてなら不幸な目に遭っていなくてもおかしくはない、俺に殺された事を除いては。


納得、納得。


ん?

殺されるのは結構な不幸だと思うんだが?

ハウンド自身が不幸と感じる前にほぼほぼ一撃で死んだからポイントが加算されなかったとかなのか?


長々考えてしまったが、要するに俺はモンスターが今迄経験した不幸を吸収した事になる。

モンスターを倒す毎にポイントが貯まるのか。

0って事も多々あると思うが。


俺の口角が自然と上向く。

鞘を握る手の力が強くなり、武者震を覚えた。


「・・・ふふ。」


率先してモンスターを狩ろう。

パーティのメンバーが倒してもポイント付与通知の音は鳴らなかったからな。

俺自身がとどめを刺さないといけないんだろう。


意図的にモンスターを痛ぶって不幸ポイントを加算することが可能かという検証は、ソロの時にやるしか無いだろうな。


そんなアホな事を2人に見られる様な状況でやっていればメイには気づかれないかもしれないが、確実にマイナさんにはバレるだろうからな。


あの2人にヤバい奴と思われてギルドに報告されるのは俺の本望では無い。

それに、俺自身率先してそんな検証やりたく無いし、痛ぶる趣味なんてないから、いくらモンスターとは言え気がひける。

それこそ死体漁りよりも倫理的にどうかしてるとしかと思えん。


ただ、幸運というスキルを獲得して不幸ポイントの貯まり具合がどうなる事か危惧していたが、どうやら神は俺を見放してはいなかった様だ。


「はーい、ルークさん!

手が止まってみえるんですがー!!」


メイが指を差しながら俺に文句を言ってくる。


「あいよっ」


気分がいいので、少し大袈裟に答えてみせる。

「はい、宜しい!!

そうそうマイナちん、そこをこうやって広げて」

「・・はい」


マイナさんはメイにレクチャーを受けながら魔石を取り出していた。

気持ち、ハウンドを仕留める時よりも苦戦しているように見受けられた。

・・・しかし、メイの奴、意外と面倒見いいのかもな。


しかし、鉄級になるまで魔石の採取方法を知らないなんて、マイナさんはどうやって今迄生計を立てて来たんだろう?


・・・それこそ野暮な詮索ってものか。


もう少し進めば低層深部に足を踏み入れる事になる。

そろそろモンスターの数も種類も増える。

血の気の多い敵も増えてくる。

気を引き締めないとな。

色々な意味で。

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