行く
「おはようございますルークさん」
ここでもマイナさんは俺に対して朝の挨拶と丁寧にお辞儀をする。
・・・・お辞儀か。
礼儀として俺の記憶に刻まれてはいるのだが、俺自身あまり人に対してそこまで礼儀をどうこうというのは考えた事は無い。
されれば返す程度だ。
「おはよう、マイナさん、メイ」
「はよっす〜、ルークさん」
あまり礼儀のなってないメイであってもこちらが礼儀を示せばしてくれる様だ。
欠伸越しではあるがな。
「申し訳ありません、少し遅れてしまいました。」
「嫌、いいさ、ここでは時間なんてあるようで無いような物だからな」
「ここでは?」
「嫌、こっちの話だ」
「ここに来る前にギルドに寄って正式な依頼を出してきたもので遅れてしまいました。」
マイナさんはそう言うと懐から書類を取り出し俺に差し出した。
金属製の胸当てにはそういう使い方もあるんだな。
まぁ、バックパックに入れるよりは取り出しやすいだろうな。
俺はそれを受け取り内容を確認する。
「ああ、確かに、確認した。
でも依頼料が一日銀貨一人当たり6枚、成功報酬で1人金貨3枚とは」
「あの、、やはり少なすぎたでしょうか?」
少ない?
嫌、いくら見つかりにくい植物、ライフラワーの捜索とはいえ、それ以外は自由行動と同じだ。
それにマイナ自身も俺やメイの素材集め、要は金稼ぎの戦闘に協力すると言っているし、そこは山分けと言う事で話は済んでいるんだが。
この馬鹿正直というか、何と言うか、正直言ってやりにくいぞ。
ライフラワーを是が非でも手に入れたいという意気込みと言うか熱意は伝わってくるんだが。
・・・・雇われる身だ、気になっても承諾した身で詳細は聞けないな。
「い、、嫌、逆に多過ぎだ・・と思ってな。」
マイナさんは俺を真っ直ぐに見つめ首を振る。
「そんな事はありません、ライフラワーは希少植物なんです、1度や2度ダンジョンに入ったとしても見つけられるとは限りません。
中層の危険性とお二人の時間を奪ってしまうのを考えれば少ない位です。」
採算度外視って事か?
・・・・資金の出所は!?
・・・・・・聞かないでおこう。
「アタシはお金が貰えて、素材も集められてラッキーって感じ?
ダブルで稼げちゃうし!!
良かったーマイナちゃんに声かけて、アタシ運がいい!」
小踊りしながらメイはマイナさんに抱きつき頬擦りをする。
・・・・うん、単純思考が1番いいよ。
でもその距離感はまだ早いんじゃないのか?
マイナさんの顔が困惑で歪んでるぞ。
「そうか、じゃあ、受付を済ませて早速潜るとするか。
ああ、そうだこれ食うか?」
袋の中の果物を2人に見せる。
「あ、それアタシはパスっす、酸っぱいから苦手なんで、ルークさん良くそんなの食べられますね」
・・俺ばりに運が悪いのか、メイは酸味の強いのしか食べていないらしい。
「酸っぱい?
私は甘酸っぱくて結構好きですけど。」
・・・どうやらマイナさんは運がナチュラルに良いらしい。
「じゃあ、お一つどうぞ」
袋のまま薦めるとマイナさんはその中からひとつ取り出し、一瞬躊躇った後、果物の表面をキュっと服の袖で拭き、上品そうに口を開けシャクっと齧り付いた。
「ンフっ」
マイナさんの口から声が漏れる。
それを見ていたメイの顔が酸っぱそうな顔に歪む。
少しモグモグと咀嚼するとマイナさんが目を見開きながら俺を見る。
「これってこんなに甘かったでしたっけ?
熟してる感じもしないのに、ええ?」
「当たり外れが激しいからなそれ、大当たりって事かもな。」
「・・・そんなに美味いの?
マイナちん」
「ちん?
ええ、宜しければ、一口食べますか?」
「・・・・・・うん」
メイは少し考えた後、マイナさんから果物を受け取りシャクっとする。
「ん!!」
目を見開いたメイは数秒もしないうちに果物をマイナさんに返し、俺に手を差し出し果物を要求してきた。
「さっき要らないって言ったろ?」
俺は半笑い気味でそう言うがメイは聞く耳持たずと言った感じで
「物は試しですよ!!」
と更に俺に果物を要求して来た。
「酸っぱくても残すなよ」
「了解!!」
シャクっ
「んがっ!!」
舌をベーっと出し、メイは果物を持ったまま頭を抱え、上半身をグルングルンと悶えさし、ブルブルと震えている。
どうやら俺の「幸運」も他人には及ばない様だ。
メイは酸味の強いのを引いたらしい。
どうやら俺が購入したとしても、全部が全部甘い物を引くわけでは無いようだ。
食べるのが俺じゃないからなのか?
そうなると、酸味が強い物だが俺が食べる事で甘くなるって事になるのか?
それは幸運とかそう言う事じゃなくなる訳で・・・。
わかるか!!
まだ検証もしていないのにそんなの考えられるかい!
うん、運が良いからって100中100当たるって事は無い。
それ当然。
当然だ。
要らん事は考えんでおこう。
メイは俺との約束通り少しづつではあるが果物を食べ進めている。
涙目がいたたまれない。マイナさんも心配そうに見ているが。
「おふぇ・・・大丈夫だよ」
とメイは気丈に対応している。
うむ・・・・許せメイよ、実験動物の様に扱ってしまった俺を許せ。
「・・・じゃあ、俺は受付に行ってくるから、終わったら潜ろう。
・・・メイ水持ってるか?」
そう尋ねると、メイは酷い表情を浮かべながら手でおkマークを作って俺に見せた。
・・・探索に支障は出ないだろう。
俺が受付に向かえば吐き出すだろうし、大丈夫だろう。
むしろそうしてくれ。
そこで真面目な所見せなくてもいいからな。
受付の列は先程より長くなっていた。
時間的には当然だ。
時計が無いから正確では無いが、今は11時少し前位だろう。
どうやって町の人間は時間を知るのか?
町には時計塔が建てられており、1時間に一回、時の数だけ鐘が鳴る。
因みに午後8時以降は鐘が鳴らない。
殆どの人間は時計塔頼りに時間を把握して生活をしているが、一部の金持ちは自宅に時計、もっと金持ちは懐中時計を携帯しており、それで正確に時間を測っているそうだ。
タイムイズマネーか。
時は金なり。
良く言ったものだ。
「次の方」
どうやら順番が回ってきたらしい。
「本日は?」
「ダンジョンアタックだ、今日はパーティで中層を予定している。」
「承知しました、ではこちらにご記入をお願いします。
説明は?」
「何か変更でも無ければ不要だ。」
「承知しました。
ではご記入次第許可証を発行致します。」
「ああ、頼む」
説明というのは誓約書に関する事だ、たまに変更が追加される事がある。
そういう事があれば、事前に説明されるだろうが。
聞いておいて損は無いだろう。
手慣れた手つきで3人分の署名をし受付に渡す。
「確かに受領しました。
こちらが3名様分の許可証になります。
どうかお気をつけて。」
うん、事務作業だよな、そこに感情は入らない。
「ありがとう」
許可証を受け取ると2人の所に戻る。
「許可がおりたぞ、準備はいいか2人共」
「はい」
「うぃす」
・・・・メイも少し調子が戻った様だ。
「じゃあ、行こうか」
各人荷物を背負い入り口の門をくぐる。
「よおルーク、珍しいな、ソロじゃないなんて」
「ああ、お陰様でな」
「また、今度話でも聞かせてくれよ」
「ああ、また今度な」
顔見知りの兵士と言葉を交わすとそのまま奥に進む。
土が盛り上がり、岩が隆起する入り口が見えてきた。
塀に囲まれているので、人工的に作られたような感が否めないが、正真正銘、自然に出来た物だ。
そこに何者かの意思が介入していなければだけど。
まぁそんな事が出来るのは神か悪魔か、人間には絶対に不可能な事象ではあるよな。
「さあ、行こうか。」