待ち合わせ
ダンジョンアタック
職場になるのだろうか?
鉄級対象の依頼からダンジョン由来の依頼が増えてくる。
基本、冒険者でれば灰級からでもダンジョンの立ち入りは可能だが、安全性を考えると、ダンジョンで活動するにはそれ相応の戦闘力を持った者というのが暗黙のルールとなっている。
そのルールを破ったとしても罰則は無いが、ダンジョンに入る前に受付で誓約書を書かされるのとその際、受付の人間の対応が非常に悪い。
「くく」
具体的には舌打ちや嫌な顔をされる。
無視され暫く放置される。
といったついつい思い出し笑いが出る位幼稚な嫌がらせなのだが、これが結構地味に効果があるらしく、気の小さい冒険者はその時点で空気を読み引き返す者もいると言う。
俺もそういった常識が無かった冒険者の1人だったので灰級の頃からダンジョンに通っていた。
なのでそういった洗礼を毎回でもないが、受けていた記憶がある。
俺はスキル持ちじゃ無かったしな。
まぁ、元々不幸体質だからそう言うものなんだろうと、気に留めてもいなかったが、後々そういう事だったと聞いて少々面食らった記憶がある。
昇級してからそういった対応が無くなったので事実なんだろう。
ギルド側からしたら、無駄に命を落とさせる位なら最初から圧をかけておくほうが得策だと言う事なんだろうと納得している。
俺は今、昨日した約束通りその職場、ダンジョンに向かっていた。
ダンジョンの入り口は町の外れにる。
普通の町であれば、外れに向かうにつれ寂れていくものなんだが、不思議とその逆で人集りが多くなり、この町の中心にある商店街とまではいかないが、露店や屋台といった物がちらほらと並び始めていた。
ダンジョン特需なんだろうな。
この世界での例を挙げればきりは無いが、挙げるとしたらやはりあそこだろう。
始まりのダンジョンの初期は一層しか無い小規模な、洞穴の様な物だったそうだ。
そこから魔物が出現する様になり、国から討伐隊が組まれ派遣される様になった。
そこの討伐隊を目当てに人が集まる様になり、そこに村ができ、小規模な洞穴から長い年月を経て44階層という大規模なダンジョンに変貌する頃には一つの都市ができていた。
多くの人々を魅了し、人間の文化も底上げした始まりの都市「カマーロウ」
冒険者という職業もカマーロウで始まったという話だ。
噂では今でも少しづつダンジョンは大きくなっているらしい。
「これ5つもらえるか?」
「あいよ、5つで銅貨2枚だよ。
このまま持っていくかい?」
「はは、持てなくはないが、両手が塞がっちまう、これからダンジョンなんだ」
俺は金を払いながらそう言うと、ポンポンと剣帯を叩いて見せる。
「あいよ、じゃあ、これね。」
おばちゃんは手際よくポンポン果物を袋に入れて差し出してくれた。
俺はそれを受け取り礼を言うとまた歩き出す。
暫く歩くと、市場の様になった区画を抜け、目の前に開けた空間が現れた。
目の前には高めのレンガが積まれた塀に鉄で出来た柵、門。
その前にテント張のギルド出張所があった。
時間はまあまあ早い時間帯ではあるが、俺の様な目的の人間がもう列を作っていた。
シャク
小腹が空いていたのでさっきの露店で買った果物に齧り付いた。
りんごの様なそれは噛むと甘酸っぱい果汁が口の中に広がり、爽やかな匂いが鼻をくすぐった。
「うん・・・当たりだな」
この果実には当たり外れがある。
今まで食べたこれは、酸味とえぐみが多い外れが殆どで、当たりの味を忘れかけていた程だ。
そのお陰でこの果実の値段は安い。
安いのは良い事だ、それにえぐみを我慢すれば、酸味が強いとは言え、食べられなくはない。
これも幸運の効果ってか?
ベンチに座って、果実を食べ進める。
ぼーっと眺めながら。
「冒険者の数増えたか?」
そんな事を思う。
この町の規模は小さいとはいえ、ダンジョン特需は人を呼び、町を潤し現在進行形で発展していた。
事実俺がここに流れ着いた頃よりも人が増えている。
今日ここに来る筈のマイナさんも、メイも俺がここに来た頃にはいなかったしな。
2人共18で俺より6歳下だ、新顔でなければ、顔見知りな筈だ。
・・・はぁ。
ちょっと気が重い、俺は銅級、彼女らは鉄級。
責任は俺についてくる。
中層は決して安全では無い。
低層であれ命の危険は伴うのだ。
今迄も臨時にパーティを組む事は何度もあったが、慣れないな。
1人の方がまだ気は楽だ、もし死ぬような事になっても死ぬのは俺1人なのだから。
『・・・・死か。」
『この場は栄光への入り口であって死地への入り口でもある』
誰かが言ってたな。
パーティを組んで中層にアタックする様になってからその気持ちが、俺の限界が見え隠れしてきた。
あそこから奥は、スキル持ちの領域。
冒険者とは言えただの鍛えた人間、身体能力の上で人より優っているとしか言いようがない。
能力向上や特殊技能、魔法といったスキル持ち、俺から言ったら人外の連中以降じゃ無ければ、いくら徒党を組んだ所でたかが知れている。
あの奥へ大手を振って挑む事は出来ない。
では、何故俺はただの人間であるのに高みを目指すのか?
「・・・・こん・・級か。」
あの約束を果たす為。
チャンスは掴めそうなのか?
この「幸運」で。
特殊技能の部類に区分されるのか?
人より運がいい事で、お俺は高みを目指せるのか?
シャク
今日の果実は芯まで甘かった。
「幸先はいいのかも・・・・な」
「ルークさーーん」
声の方を見ると
眠そうに伸びをしているメイとこちらに手を振るマイナさんの姿が見えた。
まずは目先の仕事だ。
悩むのはいつだって出来るさ。
俺は立ち上がると右手を挙げ少し振った。