パーティ
「ギルドの募集板を見て、連絡先がここだったので。」
・・・募集板?
ああ、あれか。
「パーティ募集の?」
「ええ。」
以前、というか数週間前の話だ、ダンジョンの中層に潜る為に銅級以下の冒険者はギルドの規定により最低でも3人のパーティで潜る必要があった。
3人、当初は直ぐに見つかると思っていたが甘かった。
最近の俺の不調がギルド内で広まっていたからかも知れない。
・・・まぁ自分でも最近の俺と進んでパーティを組みたいとは思えない。
元を担ぐ人間が多いからな冒険者ってのは。
いずれにせよ取り急ぎの用事で無かったので募集板に掲示を出した事すら忘れていた。
因みに、急ぎであれば金はかかるがギルドに冒険者の斡旋を依頼するのが一般的なセオリーである。
「かなり古い貼り紙だったと思うけど、何で俺の募集に?」
「掲示期間が過ぎて貼り紙が捨てられそうになっていたんです、それで、気になって見てみたら中層ダンジョンのパーティメンバー募集の掲示だったので」
俺でさえ忘れてたんだ、いつ捨てられたって文句は言えない。
掲示するのは無料だしな、逆に今まで良く貼られてたって話だな。
「そうなんですね、因みに目的を聞いても?」
・・・ああまたいらん事を聞いてしまった。
人数制限を解決する為の数合わせの募集、各々中層に着きさえすれば何の文句はない、目的なんて人それぞれだ。
ダンジョンに入る為の人数合わせであって、必ずしも3人で仲良くダンジョンから出る必要は無い。
それなりの実力さえあれば、中層からはよっぽどの事故が起きない限り1人でも帰還する事は可能なのだ。
勿論、スキル無しの俺でも可能だ。
細かいダンジョン内での行動や立ち回り、決まり事は、人数が揃ってからのブリーフィングがギルドから推奨されるようになった。
数ヶ月前にギルドマスターが変わってから色々ギルドの改革が行われ始めて、それが冒険者のダンジョン内での死亡防止にそれなりの成果を上げている。
以前は心無い冒険者が、言葉巧みに格下の冒険者を誘い、装備やアイテム追い剥ぎをした後、中層に置き去りにする事件が多発していた。
酷い事にそれによって死人が出たとしても以前のギルドは何の対処をするでも無く、実力不足で中層に入ったその冒険者の責任だという事で片付けてしまっていた。
正に死人に口無しだな。
実際、ダンジョン内での出来事は全て自己責任で解決されてしまうのだ、改革が行われ始めたといってもそれは今も変わってはいない。
入る前にその旨を綴った誓約書を書かされるしな。
「ライフ・・ライフラワーです」
「・・・あの希少植物の。」
「はい、どうしても必要なんです。」
・・・成程、ダンジョン内で中層で唯一確認された植物。
用途は、主に薬、薬剤の素材だ。
神の薬「エリクサー」の次に効果が高いと評価された万能薬「エモリア」という薬を精製する為に必要である。
神の薬より安価でほぼほぼの病気に有効らしい。
なので価格が半端では無い。
とても俺みたいな一介の銅級冒険者に手が出る薬では無い。
エリクサーが土地付きの大邸宅を買える値段だとすれば、エモリアは土地付き一戸建てという所か。
自作すればそれなりの価格に抑えられるだろうがそれでもそれなりの金は必要だ。
この子って?
まぁ単純に素材が必要ってだけかも知れないが
「失礼ですが、冒険者ランクは?」
「鉄級です」
「了解です。
因みに、あの貼り紙は数週間前に貼った物だから、俺も忘れてて、実はもう1人の宛が無いんですよ。」
「ああ、それなら、その時もう1人その場にいた冒険者の方がいて、もし、まだ正式に募集している様だったら、自分も混ぜて欲しいって、今日もここに来るはずだったんですが。
まだ来てないみたいですね。」
マイナさんはキョロキョロと店内を見回す。
だが渡りに船だ。
俺も急ぎでは無いにしろ、必要な素材をドロップするモンスターが中層にしか出ないから、それに今となってはあまり必要でも無くなったのだが野暮用もあるのでこの話は丁度いいにも程があった。
これでそのもう1人という人物がここに来たとしたら余程運が・・・運?
まさか・・マジか?。
その時ギィと食堂の入り口の扉が開き備え付けてあったベルがキィン、キンと店内に響いた。
「いらっしゃい、お一人様ですか?」
女将さんが笑顔で接客をする。
「あの、アタシ、ここに・・あっいた!!
マイナちゃーん!!
ごめんね、おばちゃん、あたしお客じゃないんだー」
女将さんはニコっと笑うと右手をひょいひょいとしながら厨房に引っ込む。
「珍しいね、あのお客さんにお客さんが2人も、おとーちゃん今日は雨かもよ」
「んじゃ、仕込みを多めにしねーとな・・・」
聞こえてますが・・・俺にお客が多い・・ああ、来客があると雨って、どんなにボッチだと思れてるんだ俺。
否定はしないけどさ。
てか、ちゃん?マイナちゃんって?
タッタッタと駆け寄ってきた女の子は動きやすそうな格好、具体的に言えば、シャツ(ボタンで止めないタイプ)にホットパンツ、腰に巻きつける型のポーチに脛を覆う位のブーツという冒険者の女の子と言った感じの服装だった。
容姿的に言えば、化粧っ気のない活発少女という印象・・・化粧すれば化けるタイプだな。
「よいショット!」
少女は椅子を引くとバスっと勢いよくエイルさんの横の席に座る。
そして興味深そうに俺の方を見つめると、エイルさんにうんうん相槌を打つ。
「んふふ、あ、アタシ、メイって言いますマイナちゃんと同じ18でランクは鉄級でーす!」
・・・人との距離はよ・・エイルさんともだけど近いってこの子。
ああ・・めんどくさそうな相手。
「アタシら偶然、お兄さんの貼り紙見つけて、ねっ」
「ええ」
「あ、そこまで話た?
ごめんね、アタシちょっと野暮用でさ、待ち合わせ遅れちゃって」
「別にいいですよ、私1人でも話は出来ましたから。」
「因みにアタシの用件は素材集めで一儲けって感じでーす!」
「あ・・・そう。」
裏表は無さそうだけど、何も考えて無さそうなのはいただけないよな。
嫌・・・・単純そうっていうのはそれだけ信用出来るのか、金という一点で繋がっているのだったらそれはそれで。
それ以前に、女将さんがイケメン、イケメンって言ってたからそう見てたけどやっぱりそうだよな、俺が一晩でおかしくなった訳じゃ無いよな。
「・・・ふぅ」
よかった、正真正銘女の子だ。
「それで、2人とも、この3人で中層に行くって事でいいのかな?」
「異議ナーシ!」
「あの、ルークさん」
「ああ、何だ?」
「ルークさんは何で中層に?」
・・・・書き忘れてたか?
目的は素材集めと書いたつもりでいたが。
「ただの素材集めだ、
メイ君と同じだな、低層じゃ、中層程効率良く稼げないからな、まぁ、パーティを組む分取り分とかでもめるかもしれないが、銀級であればソロで突入可能なんだけど、とにかく俺も生きていくのには金がかかるそれだけだ。」
「くんて、メイでいいよ、皆んなそう呼ぶし、それにルークさんのが年上でしょ」
「そうですか、お金儲けですね、わかりました、ではお二人共、私にお力添えをお願いできないでしょうか?」
「お力添え?」
「ええ、私の目的は先程申し上げた通りライフラワーです。
お二人共それを探すお手伝いをして頂けるなら正規の依頼としてギルドに私が依頼を出します。」
「らいふ、ラワー?
何かの花?」
「ああ、今の所中層だけで生息が確認されている花で主に薬の材料になる。」
「ルークさん物知りぃー、へぇー薬ねぇ、アタシは別にお金稼げるなら何でも良いけど、ルークさんはどうします?」
「俺も構わんが、希少植物だ、1、2回潜っただけで見つかるとは限らない、銅級と鉄級、2人分の正規の依頼料を払うだけでもバカにならないぞ?」
念の為釘を打っておく。
金がどうかとかではないが、正規に依頼を出せば、必ず支払いは発生する。
もし支払いが滞れば、奴隷落ちなんて事もありえる。
鉄級の少女がどう金を工面するのかは知った事ではないが、多少でも縁のあった人間がそういう目に合うっていうのは少々気が引いてしまう。
「お金なら大丈夫です。」
・・・はぁ何処かの商家の娘なのか、それとも・・まぁ良いんだ支払うあてがあるならそれでいい。
「そう、ならいい、俺も協力しよう。」
「ありがとうございます。」
マイナさんは律儀に立ち上がってお辞儀をする。
「やだ、何それマイナちゃん、何してるん?」
「あ、、私なりのお礼です。」
うん、やはり良いところのお嬢様なのは確かそうだ。
「あのさ、2人ともお腹空いてない?」
「え?」
「うん、空いてまーす」
見事に両極端なリアクションだ。
メイに至っては両手を上げてアピールしている。
片手でいいだろうに。
「ここに何も頼まないでいるっていうのもあれだから朝飯食わないか?
俺が奢るから」
「奢り!!本当ですか!?
ありがとうございまーす」
「え、あ、いや」
「満腹以外で断るのは無しだ、何たってパーティ結成のお祝いなんだからな。」
マイナさんの困った顔が少しだけ綻び、ぎこちないが嫌味の無い笑顔が浮かび上がった。
「・・・・そういう事でしたらご馳走になります。」
うんうん・・・よろしい。
「女将さん、モーニング3っつお願い出来ますか?」
「あいよ、もにんぐってのは知らないけど、朝ご飯ね、用意するから待ってて頂戴」
詳しい事情は話したくなったら話せばいい。
こちらから聞くのも野暮って物だ。
さて、俺の幸運は、この冒険にどう作用するのか、今から楽しみで仕方ない。




