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この世は不幸で廻っている  作者: レイフォン
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挨拶

コンコンとノックされる音で目が覚める。


「・・・・ん?」


いつの間にか寝ていたらしい。

ベットに倒れたのは覚えてるが、とにかく昨日は久々に深い眠りにつけたようだ。


飲んだ割にはそれなりにスッキリしている。


布団の中で身体の各所をグリグリと伸ばしグッと全身を伸ばした。


「んん・・・」


身体を起こしてそのままペタペタと歩きドアの前に立つ。


「どちら様?」


左手を腰のベルトに仕込んだナイフにそっと置く。

銅級とはいえ冒険者なら、これ位の警戒は必要であろう。


「宿のもんですが、お客さんに会いたいって人が来てるけどどうします?」


聞きなれた宿屋の女将さんの声だった。


「・・・・・ふぅ。」


肩の力を抜く。

扉を開けると、ふくよかで元気そうなおばちゃんが笑顔を浮かべて立っていた。


「おはようございます。」

「おはようございます。」


赤色のエプロンと布で折った頭巾をしている。

宿屋の女将さんという出立ちだ。


「・・・ああ、支度して出るので、待っていて貰って下さい。」

「はいはい。

じゃあ、そう伝えておくからね。」

「はい、お願いします、あ、ちなみに何処の人とか言ってませんでしたか?」

「ああ、そういえば言ってなかったね、ごめんなさい。でも凄いハンサムでおばちゃん、年甲斐もなくキュンっと来ちまったよ。

ハンサムといえば、お客さんも中々の・・・そんな顔してたんだね、昨日まで死にそうな顔してたから気づかなかったけど。

あ、お客さん、朝ごはんは?」


ご飯といえば確か昨日買った串焼きがあるはずだ。


「あー・・大丈夫です。

昨日買ったのがあるから」

「そう、じゃあ、昼ご飯でも食べに来てね」

「多分、その時間は仕事なので」

「ああ、そうだったわね、じゃあ晩御飯だ」

「ああ、はは、うかがえそうだったら食堂にお邪魔しますよ」

「あいよ、待ってるからね。

じゃあ、私はハンサムさんのお相手でもしてますかね。

あははは!」


ウキウキな女将さんを見送ると扉を閉め支度を始める。

・・・支度といってもシャツを変えて顔を洗って。


「・・・・グゥ」


腹が鳴るので紙袋から串焼きを取り出す。

タレが固まっていたので少し強引に引っ張ると破れた袋の紙が串焼きにくっついてしまった。


・・・幸運の意味ってなんだっけ?


俺が不幸の対価に頂いた筈の幸運というスキルはどうやら仕事をさぼっている様だ。

怠け者め。


「・・・ふふん」


ニヤリと口角が上がる。

ステータスのスキル欄が埋まるだけで人間はこんなにも寛容になれるものなんだな。

どんなに役立たずなスキルであろうとも、スキルはスキル・・・俺だけの。

まぁユニークじゃ無いにしてもだ。

この気持ちだけでも大事にしたい。


嫌、しかし。


俺に来客というのは珍しい事だ。

小さい町とは言え、それなりの大きさだ、ここに来てから顔見知りで挨拶する様になったのは、ここのおばちゃんと武器の整備を頼んでいる武器屋のおっちゃん、ギルドの受付、、、後は道具屋のおばちゃに、、、、、、。

飲み屋の店の大将と娘さん位か。

・・・それなりにいるのか付き合いのある人間って。

でも皆、あの飲み屋の娘さん以外はおばちゃんかおじちゃん位なんだけど。

俺にイケメンとの接点なんてあったか?


会ってみればわかるか。


口の中から紙切れを取り出すと桶に溜めてあった水に手を入れ顔を洗う。

さっぱりした所でシャツの裾を手繰り上げ顔を拭く。

洗濯してからそう何日も着ていないので臭いはしない。


・・と思いたい。


来客だからといって着る服は無い。

着替えもこの服を含めて5着程だ。

元々流れ者、持ち物は限られる。

気にしたら負けだな。


せめてものエチケットだ口にも水を含みグチュグチュとゆすぎ、窓際に進むと窓を開け外にその水をペッと吐き出した。


「さてと。」


腰に剣帯を巻き付け外に出る。


朝日が眩しい。

光を腕で遮る。

二日酔いは無いようだ、頭痛は無く頭はそれなりに冴えていた。


「・・・眩しいのも当然か、朝・・だもんな。」


昨日まで朝日に気を止める余裕も無かった。

そんなに俺は精神的に追い詰められていたんだろうか?

まさか・・・鬱病?。

病気だったのか?

・・・・・それが治った?

まさか・・・自然に?

それが幸運?


「な、訳ないか」


宿と食堂の間にある中庭を抜けと食堂の裏口に手を掛け中に入る。


「どうも、おはようございます」

「おう、おはようさん」


宿屋の大将が忙しそうに動いて朝飯にあたるであろう食事を作っていた。

ここの飯はそれなりに美味い。

串焼きだけでは足りなそうなので間に合えば朝飯をお願いしたい所だが今はそれどころでは無いらしい。

後でいいか。


「お客さん、そこの席に通しましたよ」


食堂に入ると女将さんがカウンター越しに声をかけてきた。


そこ・・・?

店内を見回すと・・あれか?


金髪を後に纏めてポニーテールにした男が座っていた。


「お待たせしました」


後から声をかけたが、彼は反応が良く、スッと姿勢を崩す事なく立ち上がるとクルッと半回転しこちらに顔を見せた。

俺より年下に見えるあどけなさを残した顔、スッキリとした顔立ち、女将さんがイケメンと言うのも理解出来る。

背は俺よりも小さく167、8だろうか?

服装も俺とは違い、良さそうな生地を使ったシャツを着ていた。


「初めまして、エイル・マイナと申します。」


彼は挨拶と同時に右手を俺に差し出してきた。

・・・・ああ。

こういう習慣が無いので面を食らってしまったがこれは握手というやつだろう。

知識だけは持ち合わせていたので少し遅くなったが、俺は差し出された手を握り返した。

握った手は男にしては小さく、冒険者の俺の無骨な手と比べて滑らかで柔らかだった。


「ルーク、、だ」


俺が手を握り返したのに少し驚いたのか、彼、エイル・マイナはグッと俺の手を強く握り返した。


「珍しい、ご存知なんですね」


ご存知とは随分な挨拶だ。


「知らないと思って手を差し出すのもどうかと思うが」


あ、やばい、感じ悪かったか?

つい思った事を口走ってしまう、俺の悪い癖だ。

・・・彼の顔が少し強張ったのを感じる。


「すいません、癖になっていまして」


彼の手を離すと申し訳なさそうに彼はお辞儀した。

このお辞儀というのもあまり一般の習慣として馴染みのない行為だ。


「嫌、別にいいさ。

で、俺に何か用か?」


彼に着席を促すと、俺もといめんの席に着いた。




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