報い
俺は宿に戻ると、質素なテーブルに置いてあった小皿に立てていたローソクに火を灯し、腰に巻いてあった剣帯を外しテーブルの上に剣ごと置き、左手に摘んで持っていた湿った袋もその隣に置いた。
質素といっても、酒場にあった物よりはいい品物だ。
手を這わせても棘が刺さるような事は無い。
背もたれ付きの椅子を引き寄せるとそれに腰掛け背もたれにグッと寄りかかる。
右腕で目を覆うとどっと一日の疲れが襲って来た。
「はは・・・俺にもあったんだな」
疲れとは裏腹に鐘の様に高鳴る心音を抑えるように俺は上着をギュッと握り締めた。
だが、不安と期待で動悸は止まなかった。
成人の日からずっと無いと言われていた何かが、こんなもう取り返しもつかない今になって発動したのだ。
「クソっ」
不幸ポイント?
ポイントショップ?
意味は理解出来る。
ポイントが貯まったから、店が開放されたって事だよな。
そのポイントが不幸って、冗談にも程がある。
24になるまでの数えきれない不幸に見合う何かなんだろうな。
じゃあ見せてくれよ、そのショップって奴を。
・・・・・・
?
え?
ん?
何これ?
そりゃそうか、ショップが開放されたって言われてもどうしようもない、店がなきゃ品物も見れない、嫌、おかしいだろそれ、俺のスキルか魔法かなんかだったら、念じれば出て来る物なんじゃないか?
普通何かが!!
・・・・おい。
おいおいおいおいおいおいおいおいおいいいいい!!
・・・・嫌待てよ。
「・・・ステータスオープン」
俺はもう何年も開いていなかった自分のステータス画面を空中に呼び出す。
俺の目の前に四角いウィンドウが表示され文字が羅列されていた。
このステータスというのも俺だけの常識だ、親にも誰にも信じてもらえなかた。
当然と言えば当然だ、俺以外には見えないし、ましてや呼び出す事も出来ないんだからな。
一時期これが俺の能力、自分自身の強さを正確に測るスキルと思ってた事もあったっけ。
だが成人前に、12歳の頃、初めて魔物を狩ったあの日に頭に流れてきた言葉を復唱した時に
「って・・・マジか」
俺は聞いていた、あの時、あの声、今日と同じあの声を。
もしかすると。
画面に指を這わせステータス画面をスクロールするとそれはあった。
「・・・ポイントショップ」
文字が点滅している。
それに触れると画面が切り替わる。
切り替わったと言っても文字ときごうだけなのは変わらなかったが。
「・・・不幸ポイント1003」
という事は開放条件は1000といったところか?
気になる商品は?
幸運−1000
幸運1000、これだけか?
他には無かった、画面をいくらスクロールしようとしても画面が動くことは無い。
俺の24年の積み重ねが1000で、それが、、その報いがこの幸運だけってことか?
考えようによったら不幸が無駄になること無くポイントに還元されると思ったらいいけど、この幸運にポイント全部つぎ込めって言われてる様なものじゃんか、それに不幸じゃ無くなれば、もうポイントが貯まることなんて無いじゃんか、嫌、待てよ。
この幸運を買ったら、他の商品が解放されるってパターンか、、。
24年で1000だぞ、そうそう、、たまらん、、。
「無いよりは大分ましか」
さっきは取り返しがつかないと思ってしまったが、今の俺は冒険者の道を選んだんだ、遅い訳では無い、寧ろ感謝しなければならないのだろうか?
幸運を指でタップする。
幸運を1000ポイントで購入しますか?
YES /NO
と、別の画面が表示される。
迷わずYESの文字を押した。
お買い上げありがとうございます。反映には少々お時間を頂きますのでご了承下さい。
またのご利用お待ちしております。
と表示された。
数秒後ピロンと音がしたのでステータスを確認するとスキルの欄に
幸運:1
と記載されていた。
「早い・・・凄いな」
その後ポイントショップを確認したが残り3ポイントの表示とカミングスーンの文字しか無く、少しガッカリした気分にされた。
まぁ、ソールドアウトよりは少しマシだ、売り切れよりもうすぐ新入荷の方が希望は持てる。
問題は幸運のお陰でポイントが貯まりづらくならないかだ。
そもそも長い年月をかけた不幸がたったの1000なんだ、商品の相場にもよるが、幸運の値段から考察するに、俺が年老いて冒険者を引退する前にもう一度何かを購入出来ればいいというレベルだろうか。
どのみち昇級試験までは時間が空くんだ依頼をこなしながら検証するのも悪くはない。
無いと思われてきたスキル?
が発動したんだ、幸運と合わせてじっくりとな。
取り敢えずは、明日からゆっくり。
あ、串焼き、、。
朝飯にしよう。
俺はその夜、久々に深い眠りについた。