そんなことってあるか?俺だぞ!
評価ありがとうございました。
励みになります。
いつかもっと評価を頂ける様に、頑張りたいと思います。
シュっ
という音が鳴り、少量の血が後頭部から生えた刀身を伝い噴き出た。
顔面は赤くなった目が更に紅く染まり、黒目がギュンっと上に移動し見えなくなった。
「・・・あぐぅはぁ。」
断末魔をあげる事なく、口からは多少の泡が飛び出て、俺の肩にも垂れ落ちた。
数秒の痙攣の後、猿人の息が無くなるのを感じる。
その巨躯からは力が抜け、グンっと刀から猿人の体重がダイレクトに伝わってきた。
「うぅ、おっも!!」
猿人はそもそもそりかえり気味な体勢だったので、刀の背を担ぐ様に抜くと、そのまま仰向けの体制で斃れさせた。
「まぁ、こんなものか」
弱い相手では無かった、猿人の攻撃を食らったのもあれだし、あの巨躯から繰り出される力は脅威だ。
鳳仙花が見切られて、捕まっていたなら、そこで寝転んでいるのは俺だろう。
刀を試すのが目的だからと言って、久々にぶっつけ本番あれをやったのは軽率が過ぎたかも知れない。
それにあそこで距離を見誤るなんて、師匠があの場にいたら、飛んでいたのは、こいつの腕では無く、俺の首だ。
首をさすると、もう一息吐く。
何しろ頭痛が半端で無い。
脳汁ドバドバの後遺症というのは大袈裟かも知れないが、使った反動であるのは確かだ。
これの上位互換をローリスクで実現しちまうってんだから、スキルっていうのはズルいが過ぎる。
「神に愛されし・・・か」
さて、こいつの毛並みはゴワゴワで、毛皮として使いようが無い様に思えるが、俺が今迄遭遇した事の無いモンスターだ、ギルドの情報にも記載が無かった。
普通の猿人と同じ箇所と、この赤黒い毛皮は剥ぎ取っておこう。
それと魔石か。
メイ程手際がいいとは言えない手付きで猿人にナイフを入れる。
穴を開け、差し入れた手は生温かさを感じ、ヌメヌメと血液と内臓の各部位を掻き分けお目当ての物を手探りで探す。
「ん?」
指先に硬いものが当たる。
少し違和感を感じた。
俺はそれを持つとググッと猿人の身体から引き上げる。
「・・・マジか」
血液が滴り落ちるその魔石の大きさは目の見張るような大きさだった。
「拳一個分は・・・あるよな?」
今迄、これ程の大きさ魔石を拝んだ事は無い。
「こいつ、本当にレア物だったんだな」
ダンジョンには特殊個体がいるっていうのは聞いていたが、それに自分が遭遇する事になるだなんてな。
まさか、これが幸運の効果なのだろうか?
身体強化の様な目に見えて変化する様なスキルでは無いだろうからいまいち実感が沸かないが、恐らくそういう事なんだろう。
なんせ、俺は万年、不幸体質だったんだ、幸運無しの俺では一生お目にかかれなかったモンスターだろう。
「喜んでばかりはいられないけどな」
ある程度剥ぎ取りを終え立ち上がると肉だけになった猿人の死体を端に寄せ穴の開いた壁に向かう。
普段、犠牲者を弔う事はあまりしないが、今回は話が別だ、袖ふれあうも他生の縁と言うが、見過ごすにはあまりにも不憫。
それ位の他人を思い遣る気持ちはある。
・・・弔うにも道具は無いし、どうすることも出来ないが、目を閉じさせてやる事位は出来るだろう。
原型を留めない遺体を揃えて並べてやり、簡易的な祈りを捧げた。
暫くすれば、あの猿人と同じく装備以外はダンジョンに吸収されるだろう。
・・・俺と同じ銅級、猿人がここ迄ダンジョンの法則を曲げて登ってきたんだとしたら、もしかしたら銀級なのかも知れない。
身分が解る物を持っていればそれもギルドに届けてやろう。
懐を探ると大きめな皮袋が出てきた。
死体漁りをやっているようで気分が悪くなるが致し方ない。
袋の口を開けると、小物と植物らしき花弁が見えた。
植物には丁寧に採取されたであろう処理がされており、鎧と冒険者の肉体とがクッションになったのか、奇跡的に花弁、葉、茎と目立つような傷はついていなかった。
「マジか」
袋を持つ手が少し震え、本日何度目だろう、最早口癖にでもなろうかとの勢いで連発しているその言葉が出た。
現物は見た事が無かったが、この依頼を受けた事で、もう一度ギルドの資料を閲覧してきたから間違いはない。
紫色の花弁、独特の葉の形。
慎重に取り出し、掌に乗せると匂いを嗅ぐ。
薄いハッカのようなすんとした、とがった匂いが鼻をツンと刺激した。
「・・・・ライフラワーだ」
目の前の植物とギルドの資料、全てが一致した。




