町にて
同日22時に少し加筆と修正を加えました。
宜しかったら読み返しをお願いします。
物語自体に変化はありません。
決して明るいとは言えない店内、照明といえば窓からの明かりだけ、目を凝らすとその明かりの中には無数の埃がフワフワと舞っていた。
店内の広さはそれ程でも無い、俺が今泊まっている宿の部屋の2、3倍と言ったところか。
そのそれ程でも無い広さの割に陳列されている商品の数が多いので通路は人がすれ違えるのがやっと位に狭い。
武器屋のおっちゃんいわく、全部俺が並べてんだから何処に何があるなんて当然把握してる訳よと、自慢にならない自慢をする始末なんだが。
「おう、またおまいさんかい」
カウンター越しにおっちゃんが俺を見つけて声を掛けてくる。
柔らかそうな革製の布を首に掛け、袖の短いシャツを着ていた。
露出した腕は年齢の割には筋肉が盛り上がり、そこら辺の成人男性に比べても遜色が無い。
現役の冒険者の俺から言わせれば、退役した軍人が毎日訓練を欠かさずにトレーニングを続けている。
そういった印象を受けた。
「はあ、また俺です。」
「ちっ、また研ぎの依頼かよ?」
「また、それですよ」
「見せてみな」
そんな会話をしながら俺は剣帯から剣を外しカウンターにゴトリと置く。
おっちゃんはそれを受け取るとグイッと柄を引き刀身を出した。
「・・・はぁ」
おっちゃんが軽いため息を吐く
「・・・・・」
「前来たのはよ?」
「1週間前位でしょうか?」
「ああ、そうだな。」
「・・・・・・」
「問題か?」
皺の入った顔にもっと渋く皺が入り、鋭い視線が俺に向いた。
「・・・そうですね、ちょっと違和感が」
その緊張感の籠った視線をのらりと躱す。
「・・・・俺の研ぎを信用してくれるのは有り難いんだけどよ、こうも頻繁に来られちゃ、こっちも気分が悪いってもんじゃないか?」
「・・・信用してるからこそじゃ無いですか、おっちゃんの腕を」
「・・かぁ・・・じゃあ、剣を扱うおまいさんの腕の問題ってかい?」
腕か、そうだな、俺の剣の腕なんて師匠の足元にも及ばないし、第一に俺はスキル無しなのだ。
「そうですね、師匠から言われてるんですよ、剣に違和感を感じたら、直ぐに鍛冶屋でメンテナンスしろって」
「過保護なお師匠様だなぁ」
「・・・過保護って」
思わず笑いそうになった。
クソ厳しかった修行の日々を思い返すが、どう想像してもあの師匠の性分が過保護だったなんて事に行き着かない。
逆、逆だ。
「どうせなら、メンテナンス?よりも、ここでもっと良い武器を買ったらどうだ?
安くするぞ?」
おっちゃんがグイッと俺との距離を詰める。
ちょっと苦手な強引な営業だが、このおっちゃんからは嫌味を感じないので不思議な感じがした。
「そうですね、それも良いかもしれません」
「あん?
どうしたんだ、いつもは俺はこれで充分だなんて言うくせによ」
「嫌、サブ用にって意味ですよ、これから入り用になるので、装備は揃えようかなって」
おっさんの表情がやっぱりな的な顔を浮かべる、随分と表情が変わるおっさんだ。
「・・・・ああ、やっぱり何かあったのか?」
「やっぱり?」
「おまいさんの顔がよ、生気に満ちてたからな」
「顔がですか?」
「ああ、表情が明るくなったっていうかな、何かいいことでもあったんだろ?」
心でも読むのかこのおちゃんは?
ちょっと面白くなってきた。
「まあ、そんな所です。」
俺が話す気が無いのを悟ったのか、おっちゃんは首を引っ込める。
「・・・まぁ、いいやな、研ぎはやっといてやるから、好きに選んどけや、本当に安くしといてやるからよ」
「マジっすか」
「ああ、マジだ、暇だしな。」
暇か、なんでか知らんが、武器の質がいい割に今いる客は俺1人だ。
店の立地も良いんだ、おっちゃんの気質と狭さ以外で流行らない意味がわからない。
「・・・値段もそれなりに安いのにな」
呟きが聞こえたのか、おっちゃんが語り始める。
「安い武器なら皆あそこに買いに行っちまうんだよ」
「あそこ?
ああ・・・拾い屋の店ですか」
「武器に罪はねぇ、使えるもんは使う。
それは俺にも理解出来るが、だがよ、それで金儲けってのは、俺の性分じゃぁねえやな。」
おっちゃんの声に若干の怒気を感じる。
「俺もあそこは苦手ですよ」
「あんたみたいなのがいるから、うちも成り立ってるんだ、そう言う意味じゃあ、お得意様だなあんたも、うちのさ」
「そうありたいですね」
「ふん」
つんでれか?
ガチムチのおっちゃんにツンデレかまされてもおかしくもないぞ。
「くく」
・・・・こんな余裕、最近無かったな。
金にも、心にも余裕が出来ると人間、結構寛容になれるもんだ。
さて、防具は中層迄なら今の装備で良いとして、問題は武器か、剣、良さげな物はやはりそれなりに高い。
今出せる予算は銀貨で80枚位か、アタックに必要な物は消耗品以外は揃っているから、銀貨20枚位分引いて。
銀貨60枚、そうなると陳列棚に置かれているおっちゃんの自信作にはそうそう手が出ない。
安くするって言ってくれてても、200が60にはならんだろう。
そうなると、あそこの箱にいっしょくたにされている剣の束から探すか。
店の隅に置かれていた箱の中からガラガラと一本一本取り出すが、今持っている剣程の剣は出てこない。
中盤に差し掛かる頃、他の剣とは形から違う剣が出てきた。
俺はそれを手に取り鞘から反りの入った刀身を抜く。
片刃の刀身に波のような美しい波紋が浮かんでいた。
「・・・・これは」
刃を目の前で横にして、切先から鍔迄ゆっくりと目線を移した。
綺麗だ、綺麗だが・・・。
「ああ、それか、そこにあったんだな、知り合いの職人に刀ってやつを見せてもらってな、見真似て作ってみたんだ、見た通り、刃が片っ方にしかついてねえだろう?
丈夫で切れ味もそれなりなんだが、普通の剣より使い勝手が悪いみたいでよ、人気がなかったから売れなかったんだ。
それでそこに入れちまったんだな。」
「刀ですよねこれ」
おっちゃんが完全に手を止め、こっちを向く。
「カタナか、そういや、そう言ってたな東方の国では皆そのカタナっつーのを使ってるらしい」
「刀・・・師匠の剣」
おっちゃんには悪いが、昔、師匠に見せてもらった刀より数段劣る出来だ。
だが見真似で作った物にしては、出来が良い。
改めておっちゃんの腕に感心する。
「これって幾らですか?」
「試しで作ったもんだからな、まぁ材料にはこだわったから、銀貨80枚ってところか」
「・・・・そうですか」
別にこだわりはなかったので、素直にそおっと箱に戻した。
「・・・・ふぅ」
首の布をするりとひっぱり、おっちゃんはそれで手を拭く。
「幾らなら出せるんだ?」
「はい?」
「予算だよ」
「ああ、50なら」
「・・・ちっ」
おっちゃんの顔が明らかに嫌そうに歪む。
だが次に出た言葉は以外なものだった。
「・・・・はぁ、50でいいよ持ってきな」
「マジっすか?」
「あぁ、ただし、そいつは試作品だ、おまいさんが使った具合とか、感想とか聞かせてくれや」
「・・・じゃあ、まだ、刀作りを諦めた訳じゃ無いんですね?」
「まあな、見せてもらったもんが余りにも目に残っちまってよ、そいつを越えねーと職人としては気分が悪りぃだろ?」
「それ、なんか分かります」
「けっおまいさんに分かってもらっても、嬉しくもなんともねえな。
こっちの剣の研ぎも終わったから、代金払ってさっさと行っちまいな。」
何キャラだ?
ツンデレと江戸っ子がごっちゃになってる?
代金を支払うとばつの悪い顔をしながら、おっちゃんはシッシと手を振り俺を店から追い出した。
「またな」
扉を閉める前に、おっちゃんの声がしたが、気にしないでおこう。
俺は早速、剣帯に刀を挿すが、この刀を真っ直ぐに挿してもしっくりこない。
師匠は、これを手に持つか斜めに腰に挿していた。
俺が習った師匠の剣、【カケン流】
剣が刀に代わった事により、今まで使えなかった技の幅が広がった。
肩慣らしにダンジョンにでも行きたい気持ちにもなるがはやる気持ちを抑え、俺は足を道具屋に向かわせた。
「いらっしゃいませ」
優しそうな顔に、地味な服装だが、上品そうな佇まいのおばちゃんが椅子に座って店番をしていた。
「こんにちわ」
「ああ、ルークさんかい、今日はどうしたの?」
「ああ、そのままでいいよ、お客も俺1人みたいだし。」
「ああ、そう?
悪いわね、最近腰と膝が痛くてね」
おばちゃんは患部をさすりながらそう言ってくるが、医術の心得なんて代物を俺なんかが持ち合わせているはずもなく、言葉で励ます以外には出来そうもない。
「そういうのに効くポーションって無いのか?」
「ここにも置いてるんだけどね、特殊なポーションは高くてさ、そうそう手が出ないわよ。
それに、婆様なだけで病気じゃないんだからさ、そこまで心配される覚えは無いよ。」
まぁそうだな、幾らここの店主とはいえ、商品に手を出すのは問題だろう。
でも高額とはいえ、店主に手が出ないと言わせるポーションの値段が幾らなのかは、少々興味がある。
もしかしたらだが、ここの店のやりくりができないくらい経営がやばいのかもしれない?
嫌々、ここが潰れるのは困る、コミュ症気味の俺が気兼ねなく入れる店は武器屋とこの店と、あの店と、、宿屋位だ。
まあ俺の心配なんていらないだろう、ここの店の評判がそれなりなのは耳に入っている。
今はたまたま客がいないだけだろう。
「今日はどうしたの?」
「ちょっとダンジョンに用があって、まとめて入り用になったんだ。」
「そうなの、珍しいわね」
珍しいか。
・・・・それもそうだ。
この町に来て、泊まりでダンジョンアタックするのは、今回も含めて片手で数が足りる。
改めて考えると、必要にならない限り、俺は冒険しない冒険者だったかもしれない。
自虐的な笑みが浮かぶのを感じた。
「あら、私、悪い事言ったかしら?
ごめんなさい。」
「いやいや、別に、本当の事だし、何とも思って無いよ。」
予算内に収めたアイテムを幾つか見繕ってカウンターに置く。
おばちゃんがよっこらせと腰を労わりながら立ち上がり商品の値段を確認してくれる。
この店のカウンターはショーケースになっており、この町では珍しいガラスがはめられていた。
中には、憧れのマジックバックが陳列されている。
値札には金貨20枚と書かれている。
銀貨で数えたら200枚か。
もしかしたら今回の仕事で貯まるかも知れない。
嫌、もし貯まったとしたら、マイナさんの出費って一体幾らになるんだ?
考えただけでも相当な出費になるだろう・・・・・怖っ。
身震いがする。
「気を付けてね」
重そうな荷物を持ち上げるとおばちゃんはそれをニッコリと笑顔で渡してくれる。
「ああ、ありがとう。」
商品を受け取るとベルの付いた扉ををチリンチリンと鳴らして俺は外に出る。
他の客とすれ違いになった。
外にいた何人かの人間の導線もこちらに向かっている。
やはりたまたまだったのだろう。
さて・・・・・・荷物は宿屋に置きに行くとしてその後はどうしようか。
色々ありそうだ。
が。
刀の試し切り。
不幸ポイント稼ぎ。
金稼ぎ。
・・・・ああ、全てダンジョンで賄えそうだ。
幸い日はまだ高い。
だが、行けるとしても、今日中に帰ってくるとしたら、行けても低層でも中盤位の所だ。
ハウンド相手になるかな。
ダンジョンで面倒だと思う事をギルドでは定期的に有志のアンケートという形で集計している。
いつも上位に入るのは、モンスターとの遭遇。
だが、それに関しては魔石や素材といったリターンも付いてくるから問題視はあまりされない。
良く考えれば、それが上位に入るって、何が目的でダンジョンに潜っているって話にもなりかねないよな。
それよりも必ず上位にランクインするのは移動についてだ。
ダンジョン内に一度行った事のあるフロアへのショートカットの方法でもあれば便利だし相当な時間短縮になるんだがそんな話は聞いた事が無い。
疲労のピークを迎える事になる帰り道のショートカットなんてあれば最高だ。
だが、ギルドからはダンジョンにそういう機能があるという報告は今の今まで無い。
相当深いダンジョンは何日もダンジョンに籠ってようやく制覇できるらしい。
この町もそうだが、深い層のダンジョンがある町には専門の荷物持ちや、補給係を生業としている人間もいる。
その殆どが鉄級以上の冒険者か元冒険者になるから・・・
ん?
・・・・機能か。
・・・・・・・・まさかな。
「ステータスオープン」
歩きながら俺はポイントショップを開いた。




