7 夢の中で
苦しい。
呼吸が、うまくできない。
体中が痛い。どこもかしこも痛い。
魔物の毒を食らったらしいから、そのせいなのか。
やばいな。
アリエルに、ちゃんと帰るからって言ったのにな。
あいつだけは、泣かせたくなかったな……。
初めてアリエルに会った日の衝撃は、今でも忘れられない。
呪われた闇魔法、男子が「早死に」する侯爵家、何を言っても動じないどころか
「むしろ、お慕いしておりますと言いますか」
と、にっこり微笑んだアリエル。
あの笑顔に、何度救われてきたことだろう。
柔らかい小豆色の髪に、明るい空色の瞳。
かわいくて、真っすぐで、その真っすぐさがいつも眩しくて、突拍子もないことばかり言うくせにいつも大真面目で、物怖じしないたくましさの塊で、何があっても一切動じることはなく、ただひたすらに俺を愛してくれたアリエル。
早死にすると思い込んでいた頃は、アリエルを遠ざけようと必死なくせに、それと同じくらいアリエルを独り占めしたい思いで溢れていた。
結婚して、「早死に」の呪縛から解き放たれたあとは、アリエルを愛することに溺れた。
こんなことになるんなら、もっと早く、もっと素直に、アリエルを愛していればよかったんだ。
アリエル。
愛してる。ほんとに愛してる。
もう一度、会いたい。
俺の、最愛――――
すぅっと意識が遠のきそうになった瞬間、どこからともなく楽しげな笑い声が聞こえてきた。
目を凝らすと、ぼんやりとアリエルが笑っているのが見える。
その隣に、見覚えのない黒髪の男の子がいる。
その子の前では、やっぱり見たことのない小豆色の髪のそっくりな女の子が二人、ふざけながらはしゃいでる。
そして、アリエルの腕の中には、すやすやと眠る、黒髪の小さな女の子が。
ああ、あれは――――
「レヴィンよ」
またしても、どこからともなく声が聞こえた。
荘厳で、昂然とした威厳があって、でも確かな温もりのある、聞き覚えはないのにどこか懐かしい声。
「生きたいか?」
声は、俺に尋ねる。
「生きたいか、だって?」
夢の中では、うまく声が出せない。
それでも俺は、振り絞るように、必死で言葉を紡ぐ。
「俺は、生きたい……! アリエルと、これからもずっと一緒に、生きていくんだ――――」
「そうか」
声が、少しずつ遠のいていく。
「レヴィンよ。忘れるでない。人の想いは、何よりも強いことを」
声が遠ざかり、完全に気配が消えていくのと同時に俺の意識がゆっくりと浮上していく。
目が覚めると、俺の左手をしっかりと握ったまま、眠ってしまったらしいアリエルが見えた。
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残り3話で完結です。