後編
ギリギリ間に合った!!(^^;)
コウの不意打ちを食らった“大蛇”は頭をもんどり打たせ、鎌首をくねらせた。
その辺りがボコン!と膨らんでいるので涼眞はまだ“そこ”にとどまっている様だ。
でも、どうしよう??!!
『大丈夫!』
鈴の音に似た凛とした声がこだまし、墨汁を落とした様に空を黒く塗り潰している雲を割ってサファイア色に輝く三角の光が手裏剣の如く次々と飛んで来て“大蛇”の頭を縦切りにした。
地響きを立てて地面に崩れ落ちた“大蛇”の頭は、まるで割れたザクロの様で、何かにベッタリ濡れた涼眞はそこから転がり落ちた。
「涼眞!!」
コウは涼眞に飛び付き夢中で割れた“大蛇”から引き離した。
「意識がない!!」
涼眞の剣道着の襟を握り締めている手が震える。
「息、してるの?!」
顔を近付けると頬に微かな息遣いを感じる。
「生きてる!!」
安堵で思わず涙を零すコウに“鈴の音の声”が語り掛ける。
「少年よ! ありがとう! あなたは魔法少女を救ってくれた」
声がさっきよりずっと近くに聞こえ来てコウは思わず後ろを振り返る。
そこにはサファイアの羽を持つ美しい蝶が居て……ちょうど見開いた文庫本が羽ばたくくらいの大きさで、コウの目の前をヒラヒラと舞っている。
「今の声はあなた?」
『ええ 私の名はプリンセサ・サフィーロ 魔法少女がその身に受ける者』
「どういう事?!」
『少年よ! その奇跡の瞬間を見ていなさい』
プリンセサ・サフィーロはヒラヒラと涼眞の胸に留まり、その羽を大きく拡げた。
『マリポーサ!』
発した言葉と共にプリンセサ・サフィーロは一瞬、青白くフラッシュしたが……何も起こらない。
『あれ?!』
身構えていたコウも目をパチクリする。
『バカな!確かに私は“ボーイッシュな女の子”と言う天啓を受けた! この子に間違いは無い筈!!』
プリンセサ・サフィーロは羽を震わせ、もう一度叫ぶ。
『マリポーサ!!』
しかしカノジョが虚しくフラッシュするだけ……
何も起こらない。
コウが固めてた身を起こそうとしたその時、
ビュウ!!
矢の様に飛んで来た黒い“枝”はコウの右腕を掠め、プリンセサ・サフィーロの羽先を食い破って地面に突き刺さった。
「危ない!!」
コウは“火事場の馬鹿力”で涼眞を抱え飛び退いた。
『しまった!!八衢になってしまった!!』
「ヤチマタ?」
『八頭蛇の事!!』
“大蛇”は割かれた胴体の根元辺りでとぐろを巻き、そこから先は多頭となって、各々が独立してコウたちに牙を剝いた。
コウは手に持った竹刀で辛うじて攻撃を払い除けていたが、多頭の方も単なる波状攻撃では無く、『巻き付き専門の頭』、『噛み付き専門の頭』と役割分担をやり始めた。
「プリンセサ・サフィーロ!! さっきみたいにコイツらをやっつけてよ!!」
『ダメよ! 魔法少女を見つけられなかった私は、心も羽もブレイク中なの!! 力が出ないわ!!』
「そんなの初めから間違ってるよ! 涼眞は男なんだから!!」
「エ“ッ!!」
「だってだってだって!! 確かに天啓があったのよ!! “汝の前に現れし眉目秀麗”な少女こそ魔法少女たるべき者”って!! どこに居るの!!!! 魔法少女!!!!」
嘆き悲しむプリンセサ・サフィーロを、コウは竹刀を振るいながらジト目で見る。
「あのさ、私の事、オトコだと思ってる?」
『そりゃそうでしょ!……えっ??!!』
コウとプリンセサ・サフィーロを包む“背景”が別の色のドヨン!になる。
「大蛇の頭をカチ割ってヤチマタにしちゃうし、私の事は男と間違えるし……プリンセサ・サフィーロってお方はホント“やっちまった”だね!!」
『あらあらそんな事、ないのよ~!』
「『少年!少年!』って連呼してたじゃん! 悪かったわね!“眉目秀麗”じゃなくて!!」
『えへへへ!“魔法少女の資質を持つかわいい!!女の子”ってあなただったのね!! テヘペロ! ではさっそく魔法少女になろう!!』
「ちょっと待って!! 何よそのノリ!! 私はイヤだからね!!」
とプリンセサ・サフィーロへ怒鳴ったその一瞬の隙に八衢の1頭がコウの手の竹刀を絡め取り別の1頭が大きく口を開け突っ込んで来る!!
「あっ!!!」
しかし八衢の頭はコウでは無く、涼眞の防具バックへめり込んだ。
「この野郎!!」
コウは足元の岩を両手で持ち上げ、防具バックにめり込んだ頭をしこたま打ち据えた。
頭は動かなくなり、コウの気迫に他の“頭”達もたじろいだ。
でも、とっさに防具バックを挿し入れた涼眞は力尽きて倒れた。
「涼眞!!」と叫ぶコウに
『アナタ!ここで魔法少女ならなきゃ!女が廃るよ!!』とプリンセサ・サフィーロが嗾ける。
「こいつらを殺っちまえるんなら、魔法少女でも何でもやってやる!!」
息巻くコウの胸にプリンセサ・サフィーロは留まり、その羽を広げた。
『さあ!言って!!マリポーサって!』
頷くコウは大きく息を吸った
「『マリポーサ!!』」
二人同時に唱えるとプリンセサ・サフィーロの放つ光はコウの全身を覆った。
まず髪がサファイア色に波打ちながら肩を通り過ぎ背中へと流れて行き、それにつれ手足もすくすくと伸びて行く。
丁度、固く巻かれた朝顔の蕾が大きく花開くように、サファイア色の美しい羽と腰まで伸びたウェイビーヘアーで白地にピンクの縁取りの清楚だけど超ミニの衣装を着た『魔法少女』が現れた!!
しかし、見開いた眼は同じコランダム由来のルビーの様に怒りで真っ赤に燃えている。
頭の中でプリンセサ・サフィーロの声が響く。
『さあ!蹴散らしてしまいましょう!!』
頷いた“魔法少女”コウはガバッ!と息を吸った。
と、自らが放つ強烈な甘い匂いに!!
「ゲロゲロゲロ××××!!!」
そのBADな光景に八衢どもは完全に引いている……
『体が急激な成長に追いついていないのね! 気にしない気にしない』
取って付けた様なプリンセサ・サフィーロの慰めに
「“竹刀は木ではなく竹”だってくらいには気にするわ!」と涙目になりながら“魔法少女”コウは独りごちる。
「武器ってないの??」
『あなたの持ってる竹刀はライトサーベルになるわ! そうね!欲しいものがあったら頭に思い浮かべてみて!』
「だったらショットガンのフランキ・スパス15を!!」
『…………あなたの頭の中って私には想像できないわ!! もっと“らしい”物や技があるでしょ! “プリQRのハピネスハリケーン”みたいな……』
「プリンセサの頭の中の方が分かんねえよ! 飛び道具系の何かは無いの??」
「プリンセサ・アローならあるわよ!」
「私、弓道は苦手なんだ!!」
『意外と片手落ちなのね』
「うるさい!!」
『ダメよ、怒っちゃ!この仕事はチームワークが大切なんだから』
「ったくこのプリンセサは!!」
コウは頭を巡らせる……そうだ! ダーツなら私得意だ!
頭の中でイメージを固定する
『これは何?くない?』
「くノ一の?? まあ、そんな物よ!」
次の瞬間、まるでサファイアそのものを形に成した様なキラキラ光るダーツが“魔法少女”コウの手に有った。
“魔法少女”コウはユラユラ動く七つの的に向かって次々とダーツを投げたが今一つ命中には至らず、八衢の攻撃を封じる事ができない。
『もう少し練習なさった方がよろしいわね』
「うるさい!!さっきからこのソフトボールみたいな胸が邪魔なんだ!!」
“魔法少女”コウはやりにくそうにライトサーベルを操り、八衢と闘いながら反論する。
「オホホホ! 私は長くなった手足にまだ順応できないからだと思ったのだけど、あなたは“女らしくない”ご自身をディスるがお上手なのね」
プリセンサの容赦ないツッコミに“魔法少女”コウはますますヒートアップして八衢のあちこちに刀傷を負わせるが、頭が七つもある上に全身がとてつもなく長い相手に攻めあぐねていた。
『そろそろ私の出番の様ね!』
「なんだ!そういう技があるならもったいつけないでよ!!」
「そうじゃないわ! あなたが果敢に闘ってくれたから、私は“希望の力”を取り戻せたの! さあ!両手を組んで私達を御守り下さる神様にお祈りして!!
今こそ、邪気を払うべく出でよ! デスピアルタレディノール!!!」
掛け声とともに“魔法少女”コウに全身から無数のレテノールモルフォが飛び立ち八衢を覆い尽くす光の束となった。
光の束は天を割り、空をもサファイアブルーに染め抜いた。
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闇の雲は掻き消え八衢が跡形も無く消えた地面を強い日差しが照り付ける。
“魔法少女”コウはまだ目の覚めない涼眞を抱き起こし、その“ソフトボール”の胸に抱いた。
体がざわざわして、何かが空中に溶けて行きそうだ。
きっともうすぐ変身は解けて……私は丘浩美に戻るのだろう。
こんな事はもうたくさん!!
二度と御免だ!!
けど……もうすぐ消えて無くなるこの“ソフトボール”に心地良さげに顔を埋めている涼眞を見ていると複雑な気持ちになる。
それに私は今、確かに聞いた。
プリンセサ・サフィーロが鈴の音の様な声で『この子! もろ私のタイプ!!』と囁いたのを……
このまま引っ込むはずも無い。
まあ、それもいいさ!
先の事は分からない!
今はただ、頑張った涼眞へのご褒美として私はこうしているんだ。
おしまい
修正は明日以降!!<m(__)m>
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