杜道上り 参
「そろそろ、杜道の中央に着くわよ。
ほら、護石・・・確か、境界石と言ったかしら?
護石が装飾されている段が見えるでしょう?
あの段が、境石になっているわ。
けいせき、は似たような音や同じ音の言葉や場所、建物などが多くあるわ。
だから、覚えづらかったり、区別しづらかったりしたら、さかいし、と呼べば理解してもらえるはずよ。
あなたより少し前に来た子が、正しく言うことが出来なかったからみんなで考えたの。
だから、みんな分かるはずよ。」
寧音の声がけで視線を上げると、不思議な模様が描かれた護石と呼ばれる石が両端に装飾されている段が視界に入る。
あれが、境石と呼ばれる段らしい。
ようやく、半分まで来たのかと喜びが募る反面、まだ半分なのかと思うと疲労が込み上げてくる。
そういえば、みこ様の言葉をそのまま受け取ると、私たち以外にもそこそこの人数が、異杜に滞在していると予想できる。
寧音の言うみんなとは、おそらく、異杜に滞在している『異杜に導かれし者たち』のことなのだろう。
先程、寧音は境石を越えると景色に違いが出ると言った。
その言葉がどうしても、何故か引っかかる。
別段、深い意味がある訳では無い、と思うのだが、異様なまでに、その言葉に敏感に反応し、境石に対して慎重になる自分がいる。
足をゆっくりと境石に伸ばす。
無事に段の面に足が着くと、ほっ、と一息つく。
どうやら、境石を上っても、特に変化は無さそうだ。
「あなたが何を心配していたのかは知らないけれど、境石に足を置いたからといって、別段、界が変わる訳では無いのだから、そこまで慎重になる必要はないわよ。」
寧音の瞳には、私の動作が明らかに不自然な動きに映ったのだろう。
呆れたような声で指摘される。
景色にも明らかな変化はなく、寧音の言う通り、私の心配は本当にただの杞憂だったようだ。
「な、何でもない。」
寧音の言葉に反応しようと、声を出してみると、驚く程に震えている。
私は、私自身が想像しているよりも遥かに怯えている自分自身に気付かなかった。
「・・・何かあったのかしら?
夕凪、記憶を失う前のあなたはもしかしたら、界を渡ることに恐怖を抱いていたのかもしれないわ。
異杜へ向かえば、界を渡る経験をたくさんすることになるのは、間違いないわ。
だから、その恐怖と向き合い打ち勝つ方法を考えないといけない。
私たちにも手伝えることがあれば、言ってくれて構わ・・・そう、それなのね。
ごめんなさい、それはあなた自身で解決しなくてはならないことだから。
これ以上は、私からは何も言わないわ。」
寧音は、心配してくれているのだろう。
もしかしたら、以前に私と同じ悩みを抱えた人と会ったことがあるのかもしれない。
確かに、困りごとや悩み事は誰かに頼りきって解決する方法もあるが、この恐怖だけは、自分で向き合わないといけないものなんだと、心の中の私も知らない私が言っている。
この恐怖が何ものなのかは知らない。
けれども、一人で解決する以外の方法はないようだ。
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