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杜道上り 弐

 

「夕凪。

 あなた、もう息切れしているけれど、体力が無さすぎではなくて?


 まだ、杜道を半分も進んでいないのよ?

 もし、もうバテているのだとしたら、さすがに早過ぎではないのかしら?」





 寧音から唐突に掛けられた言葉に、ぐっ、と息を詰まらせてしまう。


 薄々、感じてはいたが、確かに私は息切れをしている。


 いや、まず間違いなく、今の私は疲れているはずだ。




 しかし、決して私の体力が無い訳ではない。

 断じて有り得ない。




 だが、疲れていることには変わりない。




 杜道の道のりがもし、通常の道であれば、どれだけの長さに・・・いや、通常の建物であれば、どれだけの高さに当たるのだろうか。


 記憶が無いせいで例えられないことが悔やまれる。




 ただ、私の身長をこの階段に換算すると、およそ7段半くらいである、と言える。


 そして、ふと思い付いてこの階段の段数を数え初めてから、既に3000段近く上っている。


 これでもまだ、杜道の半分にも届かないのだから、終わりが遠すぎて、さすがに少しは、しんどくなってきている。



 何故だろうか。


 上っても、上っても、全く杜門が近づいている気配がない。


 何段上っても、ずっと同じ位置に、階段の終わりが見え続けている。


 私の目か、頭の方がおかしくなったのだろうか?

 少し不安になってくる。





「寧音。


 私たちは、本当に前に進んでいるのだろうか?


 私は最初からずっと、上っている位置が変わらないように感じるのだが。」





「ちゃんと上っているわよ。


 後ろを振り返ってみなさい。

 岸居が、ずいぶんと遠くに見えるようになって来ているはずよ?」





 寧音に言われた通り、足を滑らせないように、細心の注意を払いながら慎重に振り返ってみる。



 確かに、寧音の言う通り、岸居はかなり遠くに見えている。

 この距離が、間違いなく、私たちがかなりの段数を上った、ということの証明なのだろう。



 慎重に一段上って振り返り、二段上って振り返る。

 振り返るまでの段数を一段ずつ増やしながら、繰り返す。


 すると、確かに、徐々に岸居から遠くなって行っていることを実感する。



 しかし、何故か、正面に見えている杜門までの距離感は、依然として変わらない。





「寧音。

 何故、岸居が遠くなって行くことは感じられるのに、杜門が近くなって来ることは感じられないんだ?」



「まだ、杜道の半ばに達していないからよ。

 杜道は、中心にあたる段を境目として、岸居側に近いときは岸居側が、杜門に近いときは杜門側の道の距離が変化しているように見えるの。

 今は半ばより、岸居側にいるから、現在地から岸居までの距離感が変化しているの。

 半ばより杜門側に入れば、徐々に杜門に近づいているように見えるようになるから、安心しなさい。」





「う、うん。

 分かった。ありがとう。」





 寧音の説明により、此処では、私の持っている常識のようなものが、ただの瓦落多(ガラクタ)でしかないことを思い知らされる。




 どうやら、今日から私は、この異杜と呼ばれる地における常識のようなものを身に着ける必要性があるようだ。




 幸いなことに、今の私には、常識という概念はあるようだが、たいした記憶は持ち合わせていない。


 混乱して大変な思いをすることもないだろう。






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